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「…三洲、いつからタクミの父親になったんだ?」そんなことあり得ないのは判ってはいるが、章三がこんなことを言うのが信じられず、思わず聞いてしまった。「そうだな…大学四年の頃だったかな、母さん」お母さんと言った先にいるのは勿論、章三だ。「お前ら夫婦になったのか?」そのやり取りにツッコミを入れたオレに、章三のスリッパが飛んできた。《パコン!》「いってぇ!なにするんだよ、章三!」苦情を言うが、オレより苦情を言いたげな章三がスリッパ片手に正面に立つ。「お前がバカなことを言うからだ。三洲を
「葉山くんと繋がりがあるから?」それでここに奴が通院していることを確信した。ーーーーー「実はね、この間学校の帰りに1日入院したんだよ」それは知らなかった…。三洲から聞いたのは《倒れた》という事だけ。「その時にね事務員の子にバイオリンの指導をしてもらってるって聞いたんだよ。実はね、その子のことを僕は知ってたんだ。だから距離を取るように薦めた。でも赤池くんがここに居るってことは葉山くんとまだ繋がっているんだね…」《困ったな》という顔をみせる。だけど、これで確実に奴はここに通っているとい
そうだったんだ…と納得するタクミ。callを許してもらえるまで10年かかった…。mailから、約1年。タクミは留学でニューヨークに一年だけ在籍し、日本に戻った。ニューヨークに居たとだけ親父に聞いていた。それが留学だったとは…。それに一年も同じ空の下にいて…同じ空気を吸っていた。「さっきから聞いてたら…葉山とmailのやり取りをしてたみたいだが、いつからしてたんだ?」章三がオレに聞いてきた。タクミは言ってなかったのか?「mailが出来るようになったのはあの秋から9年目だな」「
『あんたなんか私の子じゃない!』」そんなことをいう親がいることが信じられない。そして、三洲がその時のことを思い出したのか…今にも泣き出しそうな顔をする。「瞬時にして葉山は殻に閉じ籠ってしまった。何を言っても、何を聞いても返事は返ってこない…。あれほど恐ろしい時間はなかった。そして、その時にたどり着いたのがこのホテルでした」そこまでが、あの日ここにたどり着いた時の内容だと三洲が言った。佐倉氏は葉山がボロボロになってた時に会ったということだ。三洲が思い出すのも辛いほどの状態。「三洲さん
全ては葉山に対する嫉妬心から生まれたものだと言う。ギイの寵愛を受ける葉山が羨ましかったと。でも、それは逆恨み以外の何物でもない。しかも、朝比奈にリークしていた?あの日ギイと朝比奈がああなるように仕向けたのはこいつだったのか!三洲の目付きはどんどんキツクなり、ビームでも出して殺すんじゃないかって程だ。「あの事故はお前のせいだったのか!」絞り出すように漸く言葉にした三洲。だが、話はまだ途中だと月詠が続ける。「あの日朝からタクミは部屋を空けた。それはギイと一緒に過ごすため。彼はその隙
「わかったよ、守ろう。それなら文句はない?」井上さんが、月二回の通院と僕たちと会うことを条件としてのむという。「はい、そうしていただけるなら…。俺達も葉山がバイオリンに没頭できることは良いことだと思っているので。ただ世界に入り込むと飲食を止める傾向があるので、気をつけてください」そうだ、葉山は食事より睡眠を選ぶ。それは三洲と同じ…。結局感性が似ているのか…。まぁ、三洲も真行寺の推しに負けたように見えるしな。そんな葉山もギイの推しに負けたと言える。どちらも芯では惹かれてたんだろう
大学の食堂なのか、野沢と顔を近づけてのツーショット…。タクミを後ろから見つめている男。間違いなくタクミに好意を持っているだろう視線。三洲がタクミの唇を指で辿っているもの。知らないヤツが見れば恋人同士のベストショット…。ナンパされているタクミ。そしてそれを護るように胸に隠し抱きしめている章三…。そして、三洲と一緒にある一室から出てくるタクミ…。花見以降から見続けていた写真で嫉妬の炎が燃え広がる。「…章三…この写真ってさっきのジェスチャーの答えのやつだろ?色々説明が欲しいんだが…
ーーーーーー聞こえてきた限定品ってこれのことか?「章三くん、これ葉山さんがデザインしたの?」奈美子が『可愛いわね』と耳元で話す。僕はこれが何なのか最初わからなかったが、葉山がデザインしたと言うなら、謎は溶けた。袋に入ったミニ紅白饅頭とそれ。饅頭はお祝い事だからと言われて渡された。もうひとつのそれは、入り口で学生が配っていたものだ。猫の顔と雪の結晶が描かれた二枚のクッキー。「猫は祠堂の温室で飼ってた黒猫のりんりんで、雪の結晶は多分…ギイが渡したスノードーム…だろうな」葉山なら考
「で、どうだったんだ?感想を聞いてやるよ。それと聞きたいことがあるなら、分かる範囲で答えてやる。多分僕より三洲の方が詳しいだろうがな。もし、僕でわからないことなら三洲に聞けばいいさ。答えてくれるかわからんが…な」やはり、思った通り章三より三洲の方が近かったのか。ラインの繋がりも章三より多いとは思ったんだ。なら感謝は三洲にも伝えないと。「三洲、こっちに来れるか?」タクミの傍に居た三洲に声をかける。無表情のまま振り返りオレを見た。「何か用か?お前といるよりここに居たいんだが…」そのク
オレに『全部を見てから話を聞いてやる』と章三が言う。それなら見る他ない…。ほんとうに燃え尽きそうな嫉妬が燃え広がる。三洲と一緒にアパートの一室の前に立つタクミ。その一枚だけでも十分な威力だ。それなのに…佐智まで写真に収まっていた。それは大学の教授室なのか、それとも食堂なのか。何しろアップになっていて場所の特定は出来ない。だが、佐智がしっかりとタクミの手を握っているのは分かる。「佐智までかよ…」その呟きに「お前、葉山を甘く見てただろ…。そんなもんじゃないからな、葉山のモテ具
章三から一冊のフォトアルバムを受け取った。そこには10年分のタクミが収まっていた。それはさっきのジェスチャーゲームで見たものも。最初にあったものは、ハロウィンだった。ハロウィンの最後の記憶、それは…オレがやろうといったあの日で健志と最後にしたイベント。一緒に簡単な衣装を着けて楽しもう…そう思っていた。だがタクミは…オレが森田を気に入ってると勘違いし、終始辛かったと後で告白した。まさかそんな風に傷付いていたなんて、あの日のオレはこれっぽっちも気付いていなかった。それもそのはず、
「私で良ければ…でも、私の杵柄が使えればの話ですが」どういうことだ?この人の前職って…。「あの…失礼ですが、もしかしてお医者様の経験がおありなんですか?」杵柄と言った…。ということは医者の可能性は十二分にある。「過去のことです…。もう、あの日は思い出さないようにしてるんですけどね」そう言いながら遠い目をした。「赤池、佐倉さんは俺が心療内科を目指していたときに背中を押してくれた本の著者だったんだ」なるほど、だからこそのこの三洲の態度か…その上、心療内科ときたもんだ。三洲が来たか
ーーーー葉山の夢…。それは詳しくは語られなかったが、ギイに対する不安材料だと思った。それに、今まさに悩みの種であるバイオリンが基になっていた…。ーーーーー「人が聞けば大したことのないものかも知れませんが、葉山にとっては将来を左右するほどの内容でした。実はミニコンサート前に誤って過剰摂取をしてから薬は私が管理しているんです。なるべく飲ませたくはないのですが…本人もギリギリまで我慢しているんだとは思うんです、ですがその日はもう壊れる寸前でした。音も迷走、心も均衡を保てない…。だから薬を渡
葉山と買い物をし、アパートに帰り夕飯の準備をした。「なぁ、葉山。さっき井上さんに会ったんだが、コンクール辞退したのか?」これは以前聞いたことだがあの時聞ける状態じゃなかった。だから、さも今日聞いたかのように話題にする。「…うん、ちょっとね…自信ないんだ。こんな状態で受けてもまともな音出せないかなって思って…。それなら他の人が受ける方が実のある話でしょ?」まるっきり自信を失ったんだな…。其れも此れも全てアイツのせい。腹立たしい…。あの秋ですら葉山はバイオリンを手放さなかった。それはギイと
「章三、全部見たぞ」少し離れた所に座る章三に見終わったことを伝える。それを合図に立ち上がりオレの横に座った。「10年分だと思ってないだろうな」どう言うことだ?「これ以外にもあるのか?」まるで一冊じゃないぞ…そういう言い方だ。「あぁ、ある。あることはあるが、とりあえず今日はその一冊で腹一杯だろ?それ以上見ると食あたりを起こすからな」遠回しに『これ以上見るとお前の精神上よろしくないぞ』そう言われている。「そうか…わかった。肝に命じておくよ。それとありがとうな…。ずっと知りたかっ
「そういえば…さっきの月詠と朝比奈の話だがなんの事だ?」途中になっていた事を思い出し、話題にする。「タクミ、もう用は済んだか?こっちに来いよ!」片倉が良いタイミングで声をかけてくれた。おかげで、嫌な記憶を辿らせないで済む。と小声で章三が呟く。「タクミ、もうわかったから片倉のところに行ってこいよ」オレが納得したと言うと、ホッとして向こうの輪に戻った。行ったか?そう確認して章三が話をし始める。「お前のあの文化祭の出来事だが、実はな…月詠が一枚噛んでいたんだよ。バイオリンを隠した朝
奈美子が葉山も泣いていたと言う。ハンカチで涙を拭きながら良かったを連発し「章三くんも、感動したでしょ?」と聞いてくる。幼なじみだけあって、僕のツボを心得ているよな。「ああ、良かったよ。葉山のバイオリンにはいつも感動するが、J-POPの演奏もいいもんだな…」そう思った。声楽科の生徒は確かに上手かった。オリジナルのアーティストには及ばないでも、音楽の良さを伝えるには充分だった。それに、バイオリンを引き立てしっかりと葉山により良い音を弾かせるよう、サポートまでしている。それは葉
「おはよう、赤池くん!」葉山がテンション高くおはようを言ってきた。「おはよう、葉山。なんだか、機嫌がいいな」余程良いことがあったのか、ニコニコと『うん!』と返事がきた。そして、続く言葉に僕は切なくなった。「だってさ…なんだか赤池くん、この家のお父さんみたいなんだもん!そう思って声かけたらさ、ちゃんと返事が返ってきたし。それって嬉しいじゃない?だから楽しくってさ!」あの家では、普通の挨拶も儘ならないのか。僕をお父さんと言う葉山に、「それなら…仕切り直そうか。おはよう、託生。よく
三人で全力疾走で葉山たちの元に向かった。そこには盾になり、葉山を月詠から守っている野沢がいた。「月詠さん、やめてください!」葉山の叫び声が飛ぶ。「うるさい!タクミはなんでオレじゃなく、そいつを選ぶ!」一体何があったんだ?「だいたい朝からのそのテンションの高さはなんだよ!そんな機嫌がいいタクミなんかオレは見たことがない!全部野沢がきっかけなのか!」きっと今朝の僕とのやり取りで機嫌が良くなり、偶然見つけた野沢にことの成り行きを楽しげに話してただけだろう。野沢は巻き込まれたということか
「こいつは何だ?」その嫉妬に染まった声を吐き訊ねた。「あぁ、こいつは入学して直ぐに葉山についたストーカーだな。野沢のお陰で気付いて、赤池が時々覗いてくれてな…それで撃退。あ…ついでに言うなら、俺が葉山の唇を撫でてるのはそいつを牽制するためだ。その時に軽く恋人宣言してやったら、あっさり泣いて消えたがな」最初の方は『そうかそうか、ありがとう』という気持ちで聞いていたが、最後の恋人宣言に立ち上がった。「おい、恋人ってどう言うことだ!」三洲に詰め寄るオレを章三が止める。「ギイ!三洲が機転を利
変な友達いない自慢が終息しようとした時に、「なら恋人は?」友達の次は恋人確認か?面倒くさい奴だな。「だから、さっきも言ったように、城縞くんに関係ないよね?」あぁ、冒頭の言葉はこれの返しか。「あの演奏を聴いたら聞きたくなるだろ。完全に1人の人を想って弾いてたじゃないか」なるほど、さすがに葉山が音楽での付き合いはしたいと言うだけあって、理解度が深い。「誰を想って弾こうが、ぼくの自由だろ」「片想いなのか?」それこそ、どうでもいいだろ…。なのに、更に詰め寄ろうとする城縞に「好きな
正月4日。電話が鳴り、画面を見ればそこには井上佐智の名前が明々と照らされていた。「もしもし…井上です」声も間違いなくその人。「おはようございます。どうかされましたか?」この人から電話があることなんて、恐ろしいことこのうえない。「とりたて、大変なことが起きた訳じゃないんだけど。実は僕、きのう日本に帰ってきたんだ。それでね…」それでね…と言われた内容で僕は三洲、真行寺、野沢、駒澤に連絡を入れることになった。ーーーー「赤池、急な召集の理由はなんだ?」三洲がここに葉山が居ないことに
「赤池、お前も葉山を友人以上に思ってるんだろう」そう言われた僕は、触れないでおこうと思っていたことを止めた。「お前もってことは三洲はそう思ってるのか?」聞き返された三洲は悩むこともなく「あぁ、俺にとって葉山は友人以上だな」アッサリ言いのけた。聞かないでおこうと思った時間を返しやがれ。「赤池はどうなんだ?」僕に再度答えを求める。「友人以上と言うのはどの辺りを指すものなのかわからんが、ただの友達とは違うかな。そんな低い位置じゃない…」それは言いきれる。間違いなくタダトモとは言えな
「葉山、毎日あんな感じなのか?」毎日ああだと、鬱陶しいことこの上ない。僕なら我慢できないが、葉山なら大丈夫なのか?「毎日は会わないように避けてるよ…だけど、放課後のレッスンルームから出ると、大抵鉢合わせしちゃうんだ」それは待ち伏せってやつじゃないのか?「葉山はもう少し疑うと言うことをした方がいいな」さっきの先生も言っていた…《彼を信じるな》それは=疑えと言うことだ。葉山は何故か人を拒絶することはあっても疑うと言うことをしない。それは基本的に人間が好きだと言うことだろう。相手がど
会話に花を咲かせてるとノックが聞こえた。誰だろう…と月詠がドアを開けて確認する。そして、葉山に聞くことなく扉を開けた。「お邪魔します!」入ってきたのは中郷と父親。「葉山さん、この度はわが社と契約していただき感謝しております」中郷音響社長自らお出ましとは…。そして、社長が深々と頭を下げるのを見て「頭をあげてください!ぼくの方こそ、こんなマイナーな奏者のスポンサーになっていただき感謝してます!」こちらも負けじと腰を折る。「葉山先輩はご自分を過小評価し過ぎですよ。腕がなければうちの
「三洲、これは何だ?」その写真はどうみても二人が同じ部屋から出てきたものに見える。しかも、ニコニコとこの三洲が笑ってる…。どういう経緯でこうなる?「葉山からホントになにも聞いてないのか?」「聞いてるなら、確認なんかしないだろ」タクミが隠している訳じゃなさそうだ。多分、話さなくてもいいと思っていること。「そうか…。なら話してやる。俺達は同居してたんだ」何て言った?同居?あの、一緒に同じ家に住むっていうあれか?それともオレが知らない日本語か?「確認だが、同居というのは同じ屋根の
「…なんで智哉さんが…ここに…」佐倉氏に声をかける月詠…。「紅、お前が葉山さんに付きまとっていたのか…」佐倉さんが立ち上がり、月詠のワイシャツの襟元を握りあげ、低く声を出す。「…佐倉さん、顔見知りなんですか?」まだ現状を把握できてない僕たちには二人が知り合いだろうということしかわからない。「…紅は昔の知り合いです」握っていた襟を離し、カッターナイフを拾い上げた。そして、「赤池さん、それ持っててください」そう言ってそれを僕に手渡した。「そして、葉山さんたちはこちらに!」葉山
そして、最後のページ…。日付からみてニューヨークにタクミが留学する前のコイツら。集合写真が何枚か…開始早々に写したものなのか、タクミの顔に緊張が出てるもの。同級生のみで写しているもの。最後は酒も入り、みんなの自然な笑顔が溢れているもの。それぞれにポーズを変えながら。そして、空港…。…三洲と抱き合い、二人して涙を流しているもの…。タクミ…三洲との繋がりが一番強かったのか。お前の人を惹き付けるものは、あの三洲ですら効くんだな。島岡にしろ、親父にしろ、お前は普通じゃ人間関係を築けそ