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【軒端荻との逢瀬】・・・・・・・・・・・・・・・憎しとはなけれど、御心とまるべきゆゑもなき心地して、なほかのうれたき人の心をいみじく思す。「いづくにはひ紛れて、かたくなしと思ひゐたらむ。かく執念き人はありがたきものを」と思すしも、あやにくに、紛れがたう思ひ出でられたまふ。この人の、なま心なく、若やかなるけはひもあはれなれば、さすがに情け情けしく契りおかせたまふ。「人知りたることよりも、かやうなるは、あはれも添ふこととなむ、昔人も言ひける。あひ思ひたまへよ。つつむことなきにしもあらね
御車もいたくやつしたまへり、前駆も追はせたまはず、誰れとか知らむとうちとけたまひて、すこしさし覗きたまへれば、ーーーーーーーーーーーーーーー【源氏物語イラスト訳】御車もいたくやつしたまへり、訳)お車もひどく目立たないようになさっており、前駆も追はせたまはず、訳)先駆けの者にも追い払わせなさらず、誰とか知らむとうちとけたまひて、訳)誰と分かるだろうか、分からないだろうと気を許しなさって、すこしさし覗きたまへれば、訳)少し覗きなさっていると
御車入るべき門は鎖したりければ、人して惟光召させて、待たせたまひけるほど、むつかしげなる大路のさまを見わたしたまへるに、ーーーーーーーーーーーーーーー【源氏物語イラスト訳】御車入るべき門は鎖したりければ、訳)お車が入るはずの門は施錠してあったので、人して惟光召させて、訳)従者に惟光を呼ばせて、待たせたまひけるほど、訳)お待ちなさる時、むつかしげなる大路のさまを見わたしたまへるに、訳)むさ苦しい大通りの様子を見渡していらっしゃると、
あさましくおぼえて、ともかくも思ひ分かれず、やをら起き出でて、生絹なる単衣を一つ着て、すべり出でにけり。ーーーーーーーーーーーーーーー【源氏物語イラスト訳】あさましくおぼえて、訳)意外なことに思われて、ともかくも思ひ分かれず、訳)どうとも判断することができず、やをら起き出でて訳)そっと起き出して、生絹なる単衣を一つ着て、訳)生絹(すずし)である単衣を一つ着て、すべり出でにけり。訳)こっそりと抜け出してしまった。【古文】
立ちさまよふらむ下つ方思ひやるに、あながちに丈高き心地ぞする。いかなる者の集へるならむと、やうかはりて思さる。ーーーーーーーーーーーーーーー【源氏物語イラスト訳】立ちさまよふらむ下つ方思ひやるに、訳)うろつき回っているような下半身の方を想像すると、あながちに丈高き心地ぞする。訳)むやみに背丈の高い感じがする。いかなる者の集へるならむと、訳)どのような者が集まっているのであろうかと、やうかはりて思さる。訳)一風変わってお感じにならずにはいら
【原文】かの贈り物御覧ぜさす。「亡き人の住処尋ね出でたりけむしるしの釵ならましかば」と思ほすもいとかひなし。・・・・・・・・・・・・・・・かの贈り物御覧ぜさす。訳)あの贈り物を帝にお見せになる。「亡き人の住処尋ね出でたりけむしるしの釵ならましかば」訳)「故人の住む所を探し当てたという証拠の釵(さい)であったならば…」と思ほすもいとかひなし。訳)とお思いになっても、本当にどうしようもない。゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚【原文】かの贈り
若き人は、何心なくいとようまどろみたるべし。かかるけはひの、いと香ばしくうち匂ふに、顔をもたげたるに、ーーーーーーーーーーーーーーー【源氏物語イラスト訳】若き人は、何心なくいとようまどろみたるべし。訳)若い人(軒端荻)は、無邪気にとてもよくまどろんでいるのだろう。かかるけはひの、いと香ばしくうち匂ふに、訳)こういう気配が、とても香り高くほんのり匂うので、顔をもたげたるに、訳)顔を持ち上げたところ、【古文】若き人は、何心なくいとようまどろみた
「似つかはしからぬ扇のさまかな」と見たまひて、わが持ちたまへるに、さしかへて見たまへば、赤き紙の、うつるばかり色深きに、木高き森の画を塗り隠したり。【これまでのあらすじ】桐壺帝の第二皇子として生まれた光源氏でしたが、源氏姓を賜り、臣下に降ります。亡き母の面影を追い求め、恋に渇望した光源氏は、父帝の妃である藤壺宮と不義密通に及び、懐妊させてしまいます。光源氏18歳冬。藤壺宮は、光源氏との不義密通の御子を出産しました。源氏は宮中の女官に手を出すこともなかったのですが、年増の源典侍(げんのな
◆源氏物語~目次~◆『源氏物語』の登場人物一覧『源氏物語』の和歌一覧第1帖「桐壺」の巻■「桐壺」の巻~第1章~父帝と母桐壺更衣の悲恋と母の死■「桐壺」の巻~第2章~父帝の悲しみと靫負命婦の実家弔問■「桐壺」の巻~第3章~藤壺宮の入内と若宮の参内■「桐壺」の巻~第4章~光源氏の元服左大臣の娘との結婚第2帖「帚木」の巻■「帚木」の巻~第1章~雨夜の品定め光源氏と頭中将■「帚木」の巻~第2章~雨夜の品定め左馬頭の女性論■「
「…かかる所に住む人、心に思ひ残すことはあらじかし」とのたまへば、「これは、いと浅くはべり…」ーーーーーーーーーーーーーーー【源氏物語イラスト訳】「…かかる所に住む人、訳)「…このような所に住む人は、心に思ひ残すことはあらじかし」とのたまへば、訳)心に思い残すことはあるまいよ」とおっしゃると、「これは、いと浅くはべり。…」訳)「これは、とても趣が浅くございます。…」【古文】「…かかる所に住む人、心に思ひ残すことはあらじかし」とのたまへば、「
清げなる童などあまた出で来て、閼伽たてまつり、花折りなどするもあらはに見ゆ。ーーーーーーーーーーーーーーー【源氏物語イラスト訳】清げなる童などあまた出で来て、訳)美しそうな童女などが、たくさん出て来て、閼伽たてまつり、訳)仏壇に水をお供えしたり、花折りなどするもあらはに見ゆ。訳)花を折ったりなどするのも、はっきりと見える。【古文】清げなる童などあまた出で来て、閼伽たてまつり、花折りなどするもあらはに見ゆ。【訳】美しそうな童女などが、たく
「若君はいづくにおはしますならむ。この御格子は鎖してむ」とて、鳴らすなり。「静まりぬなり。入りて、さらば、たばかれ」とのたまふ。ーーーーーーーーーーーーーーー【源氏物語イラスト訳】「若君はいづくにおはしますならむ。訳)「小君はどこにいらっしゃるのであろう。この御格子は鎖してむ」とて、鳴らすなり。訳)この御格子は閉ざしてしまおう」と言って、音を立てるのが聞こえる。「静まりぬなり。訳)「静かになったようだ。入りて、さらば、たばかれ」との
切懸だつ物に、いと青やかなる葛の心地よげに這ひかかれるに、白き花ぞ、おのれひとり笑みの眉開けたる。ーーーーーーーーーーーーーーー【源氏物語イラスト訳】切懸だつ物に、訳)切懸の板塀めいた物に、いと青やかなる葛の心地よげに這ひかかれるに、訳)とても青々としたつる草が気持ちよさそうに這って覆いかぶさっている所に、白き花ぞ、おのれひとり笑みの眉開けたる。訳)白い花が、自分ひとり花のつぼみが開いている。【古文】切懸だつ物に、いと青やかなる葛の心地よげ
「心恥づかしき人住むなる所にこそあなれ。あやしうも、あまりやつしけるかな。聞きもこそすれ」などのたまふ。ーーーーーーーーーーーーーーー【源氏物語イラスト訳】「心恥づかしき人住むなる所にこそあなれ。訳)「こちらが気おくれするほど立派な人が住んでいるとかいう所であるようだ。あやしうも、あまりやつしけるかな。訳)見苦しくも、あまりに粗末な身なりにしたことだなあ。聞きもこそすれ」などのたまふ。訳)聞きつけもしたら大変だ」などとおっしゃる。【古文】「心
【夕顔との出逢い】六条わたりの御忍び歩きのころ、内裏よりまかでたまふ中宿に、大弐の乳母のいたくわづらひて尼になりにける、とぶらはむとて、五条なる家尋ねておはしたり。御車入るべき門は鎖したりければ、人して惟光召させて、待たせたまひけるほど、むつかしげなる大路のさまを見わたしたまへるに、この家のかたはらに、桧垣といふもの新しうして、上は半蔀四五間ばかり上げわたして、簾などもいと白う涼しげなるに、をかしき額つきの透影、あまた見えて覗く。立ちさまよふらむ下つ方思ひやるに、あながちに丈高き
げにいと小家がちに、むつかしげなるわたりの、このもかのも、あやしくうちよろぼひて、むねむねしからぬ軒のつまなどに這ひまつはれたるを、ーーーーーーーーーーーーーーー【源氏物語イラスト訳】げにいと小家がちに、訳)なるほどとても小さい家ばかりで、むつかしげなるわたりの、訳)むさ苦しそうな辺りの、このもかのも、あやしくうちよろぼひて訳)あちらこちら、見苦しくちょっと崩れかかって、むねむねしからぬ軒のつまなどに這ひまつはれたるを、訳)堂々としていない
あはれに、「何処かさして」と思ほしなせば、玉の台も同じことなり。ーーーーーーーーーーーーーーー【源氏物語イラスト訳】あはれに、訳)しみじみと、「何処かさして」と思ほしなせば、訳)「どこをさして(これこそ我が宿といえるだろう)か」とお考えになると、玉の台も同じことなり。訳)立派な御殿も同じことである。【古文】あはれに、「何処かさして」と思ほしなせば、玉の台も同じことなり。【訳】しみじみと、「どこをさして(これこそ我が宿といえるだろう)か」
碁打ち果てつるにやあらむ、うちそよめく心地して、人びとあかるるけはひなどすなり。ーーーーーーーーーーーーーーー【源氏物語イラスト訳】碁打ち果てつるにやあらむ、訳)碁を打ち終えたのであろうか、うちそよめく心地して、訳)衣擦れの音がそよそよする感じがして、人びとあかるるけはひなどすなり。訳)女房たちが散り散りに退出する気配などがするようだ。【古文】碁打ち果てつるにやあらむ、うちそよめく心地して、人びとあかるるけはひなどすなり。【訳】
「遠方人にもの申す」と独りごちたまふを、御随身ついゐて、ーーーーーーーーーーーーーーー【源氏物語イラスト訳】「遠方人にもの申す」訳)「遠くにいる人に申し上げる(白い花は何か)」と独りごちたまふを、訳)と独り言をつぶやきなさるので、御随身ついゐて、訳)御従者がかしこまって座って、【古文】「遠方人にもの申す」と独りごちたまふを、御随身ついゐて、【訳】「遠くにいる人に申し上げる(白い花は何か)」と独り言をつぶやきなさるので、御従者がかし
「かの白く咲けるをなむ、夕顔と申しはべる。花の名は人めきて、かうあやしき垣根になむ咲きはべりける」と申す。ーーーーーーーーーーーーーーー【源氏物語イラスト訳】「かの白く咲けるをなむ、夕顔と申しはべる。訳)「あの白く咲いている花を、夕顔と申します。花の名は人めきて、訳)花の名は人のようであって、かうあやしき垣根になむ咲きはべりける」と申す。訳)このようにみすぼらしい垣根に咲くのでございますなあ」と申し上げる。【古文】「かの白く咲けるをなむ、
この家のかたはらに、桧垣といふもの新しうして、上は半蔀四五間ばかり上げわたして、簾などもいと白う涼しげなるに、をかしき額つきの透影、あまた見えて覗く。ーーーーーーーーーーーーーーー【源氏物語イラスト訳】この家のかたはらに、檜垣といふもの新しうして、訳)この家の隣に、檜垣という檜で作った垣根を新しく作って、上は半蔀四五間ばかり上げわたして、訳)上の方は半蔀を四、五間(けん)ほどずらりと吊り上げて、簾などもいと白う涼しげなるに、訳)簾などもとても白く涼しそ
門は蔀のやうなる、押し上げたる、見入れのほどなく、ものはかなき住まひを、ーーーーーーーーーーーーーーー【源氏物語イラスト訳】門は蔀のやうなる、押し上げたる、訳)門は蔀のようなのが、押し上げてある、見入れのほどなく、訳)のぞき込んで見た様子は奥行きもなく、ものはかなき住まひを、訳)ささやかな住まいを、【古文】門は蔀のやうなる、押し上げたる、見入れのほどなく、ものはかなき住まひを、【訳】門は蔀のようなのが、押し上げてある、のぞき込んで見
源氏物語イラスト解釈ですでは今日も、一気に行ってみましょぉ~♪ヽ(○・▽・○)ノ゙――――――――今回の源氏物語――――――――おし拭ひたまへる袖のにほひも、いと所狭きまで薫り満ちたるに、げに、よに思へば、おしなべたらぬ人の御宿世ぞかしと、尼君をもどかしと見つる子ども、皆うちしほたれけり。訳と内容が不明確の人は、まずイラスト訳からどうぞ☆夕顔28のイラスト訳はこちらこれまでのあらすじ天皇(桐壺帝)の御子として生まれ、才能・容姿ともにすぐれていたに
なほかかる歩きは軽々しくあやしかりけりと、いよいよ思し懲りぬべし。ーーーーーーーーーーーーーーー【源氏物語イラスト訳】なほかかる歩きは軽々しく、訳)やはり、このような忍び歩きは軽はずみで、あやしかりけりと、訳)けしからぬものであるなあと、いよいよ思し懲りぬべし。訳)きっと、いっそうお気持ちが懲りなさるだろう。【古文】なほかかる歩きは軽々しくあやしかりけりと、いよいよ思し懲りぬべし。【訳】やはり、このような忍び歩きは軽はずみでけしからぬも
【空蝉と軒端荻】・・・・・・・・・・・・・・・寝られたまはぬままには、「我は、かく人に憎まれてもならはぬを、今宵なむ、初めて憂しと世を思ひ知りぬれば、恥づかしくて、ながらふまじうこそ、思ひなりぬれ」などのたまへば、涙をさへこぼして臥したり。いとらうたしと思す。手さぐりの、細く小さきほど、髪のいと長からざりしけはひのさまかよひたるも、思ひなしにやあはれなり。あながちにかかづらひたどり寄らむも、人悪ろかるべく、まめやかにめざましと思し明かしつつ、例のやうにものたまひまつはさず。夜深う出でたま
「さも古りがたうも」と、心づきなく見たまふものから、「いかが思ふらむ」と、さすがに過ぐしがたくて、裳の裾を引きおどろかしたまへれば、【これまでのあらすじ】桐壺帝の第二皇子として生まれた光源氏でしたが、源氏姓を賜り、臣下に降ります。亡き母の面影を追い求め、恋に渇望した光源氏は、父帝の妃である藤壺宮と不義密通に及び、懐妊させてしまいます。光源氏18歳冬。藤壺宮は、光源氏との不義密通の御子を出産しました。源氏は宮中の女官に手を出すこともなかったのですが、年増の源典侍(げんのないしのすけ)には
【逃げる空蝉】・・・・・・・・・・・・・・・碁打ち果てつるにやあらむ、うちそよめく心地して、人びとあかるるけはひなどすなり。「若君はいづくにおはしますならむ。この御格子は鎖してむ」とて、鳴らすなり。「静まりぬなり。入りて、さらば、たばかれ」とのたまふ。この子も、いもうとの御心はたわむところなくまめだちたれば、言ひあはせむ方なくて、人少なならむ折に入れたてまつらむと思ふなりけり。「紀伊守の妹もこなたにあるか。我にかいま見せさせよ」とのたまへど、「いかでか、さははべらむ。格
春ならぬ木の芽も、いとなく嘆かしきに、ーーーーーーーーーーーーーーー【源氏物語イラスト訳】春ならぬ木の芽も、訳)春ではない、〈木の芽〉ならぬ〈この目〉も、いとなく嘆かしきに、訳)絶え間なく嘆かわしいけれど、【古文】春ならぬ木の芽も、いとなく嘆かしきに、【訳】春ではない、〈木の芽〉ならぬ〈この目〉も、絶え間なく嘆かわしいけれど、◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇■【なら】■【ぬ】■【木(こ)の芽(め)】■【も】■【いとなく】※【いと(