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SideMasumi「真澄様、覚悟なさって下さいませね。」と、確かに彼女は言った。あの時は長年の恋が実った高揚感で、何でもやってのけることができると思っていた。が、しかし・・・流石に二徹は堪える・・・執務室の時計は午前3時を過ぎていた。俺は目元をグッと指で押さえた後、軽く首を回して凝りを解した。どうにか仕事の目処はつきそうだ。明日の夜、、いやもう今日か。マヤの誕生日を初めて二人で迎えるため、今日の夜にはマヤのマンションを訪ねる事になっていた。バースデーケーキは水城がマ
〜精密検査の結果、北島さんの病気は悪性リンパ腫と診断されます。今後、抗がん剤治療をしていきますが、北島さんの場合、初期段階の発見であり、自己骨髄の採取が可能です。抗がん剤でガン細胞を完全に死滅させたあと、自家移植といって、元気な自分の骨髄を体内に戻してやる治療法です〜紅天女の試演が終わり、後継者の座を手にしたマヤ。ある日、首の付け根に違和感を感じ、病院へいったところ、事態は思わぬ方向へと進んだ。痛みも何もなかったため、そんな生命に関わるような重病を宣告されるとは思いもよらなかった。幸
〜prologue〜マヤに初めて逢ったのは、君がまだ13歳の時だったね。月影千草に見出された天才少女・・・いずれ美しく成長して、紅天女になる逸材。俺は強烈に君に魅了された・・・女優として君を一流にすることが、俺の夢になった。そして、その日から君の元に、紫の薔薇が届けられ始めたんだ。それは俺から君への唯一つの愛の印だった・・・〜出口のない暗闇で〜真澄が速水家の養子になって十年たった時、真澄に5歳年下の義弟ができた。亡くなった母の後妻として嫁いだ女性の連れ子だった。真澄は英介に後継
Epilogue♪一月も正月気分が去れば、世間は途端にバレンタインムードに包まれる。真澄の周囲でも、それなりではあるが、秘書課の女性たちが浮き足立つ。だが、他の秘書たちはともかくとして、真澄付きの筆頭秘書である水城はこの時期になると、浮き足立つどころか、気分が滅入るのだ。元々、速水真澄という男は、こと恋愛に関してはなんの興味もなく、彼にとってはバレンタインであろうが、クリスマスであろうが、さらに言えば、自分の誕生日でさえ、何の変哲も無い365日の中のただの一日に過ぎなかった。毎年バレン
◇Prologue「真澄、お前に最後のチャンスをやろう・・・。」義父の英介が真澄に突きつけてきた条件・・・それは。「北島マヤをお前に惚れさせてみろ・・・。そして、紅天女の全てをその手中にするのだ。それができたなら、鷹宮との婚約は諦めてやる。ただし、期間は三ヶ月・・・その間にお前が、北島マヤを手に入れられなければ、お前は紫織さんと婚約し、結婚をするのだ。そうなればもう、お前には選択の余地はない。その時は、儂があの子にお前の秘密を明かしてやる・・・お前が二度と過去に逃げられないように
〜紫の薔薇は誰のもの?〜バレンタイン当日。今日は朝から真澄に落ち着きがない。とは言え機嫌が悪い訳じゃないから、仕事はそれなりに捗っている。むしろ普段よりハイペースだ。聖は真澄のサポートをしながら、ただただ、今日という日が無事終わることを願うばかりだ。「なあ、聖。バレンタインって、日本じゃ女の子から男への愛の告白だけど、海外はとくに性別関係ないんだよな。」「そうですね。チョコレートを贈るのも日本だけのようですしね。」決裁をしながら、真澄が聖に声をかける。「真澄様からもマヤ様に何
ある日の昼下がり。会議の合間に、真澄を追い立てるように電話をかけてくる婚約者に、感情を押し殺して対応する。「真澄様のお誕生日には帝国ホテルで・・・」「申し訳ありません、紫織さん。その日は終日大阪で、最終の新幹線で帰って来られるかどうかのスケジュールなんです。」紫織が話し終える前から、真澄は彼女の誘いを断る。せめて最後まで話を聞くのが礼儀と思いつつも、彼女の期待を膨らませたくないという気持ちが先立って、ついデリカシーのない対応をしてしまう。誘いを断る事に後ろめたさも感じない真澄だった
「真澄様、折角のオフにお呼びだてして、申し訳ありませんでした。」水城が決裁済みの書類を片手に真澄に詫びる。今日という日が真澄にとって、どれ程待ち続けた日かを知っているだけに、完全なるオフを取らせてやりたかったが、仕事は容赦なく真澄を襲ってきたのだ。真澄は朝一から出社し、最優先の決裁が必要だという案件を対応した。「構わないよ。第一これは君のせいじゃない、不可抗力だ。君は秘書としてベストを尽くしてくれている。感謝しているよ。」今までも、真澄は幾度かその素顔を水城には見せてきたが、最近
「マヤちゃん・・・せっかく来てくれたのにごめんなさい。真澄様は昨日の夜から風邪をひかれて、今日はお休みなの。」水城は秘書室でマヤを出迎えた。今日のマヤも何時もの如く、豆台風で受付を突き破り、ここまで一直線に来たようだ。この豆台風には、“停滞”や“迷走”といったものはまるで無いのである。事情を知らない者から見れば、甚だ非常識な迷惑な行動であろうが、大都芸能を襲うこの豆台風の進路は何時も決まっていて、皆それを心得ており、特に誰も被害を受けることはない。むしろ、台風が過ぎ去った後の台風一過
「今、天女さまにスパダリ達が夢中!」大都株式会社代表取締役社長の執務室のデスクの上に置かれた、その場にはあまりに不似合いなメンズ向け雑誌。速水真澄が定期的に購読するビジネス誌に混ざって、それが一番上に置いてあった。大都芸能の社長を退いてからも、ある女優の動向だけは欠かさず追っている。何故なら、真澄はその女優から紅天女の上演権を受託し、その総合プロデュースに携わることを速水真澄個人として契約しているからだ。しかし、真澄がその女優を追いかける真の理由は、他にある。確かに以前の真澄は、紅
〜真夜中の極秘会議〜大都株式会社社長室。今のこの部屋の主は、株式会社大都芸能元社長の速水真澄その人である。昨年の春に紅天女の本公演を成功させ、それと平行して鷹宮グループとの提携解消劇を鮮やかにやってのけた後、今の地位に就く。とある日に、主人不在の社長室に集う人々・・・。経営統括部中央秘書室室長社長付筆頭秘書聖唐人。同副室長社長付筆頭秘書補佐兼大都芸能株式会社代表取締役社長水城冴子。大都芸能株式会社経営統括部法務部顧問兼代表取締役社長付M2プロジェクト総責任者藤
紅天女を継承して、早三年の歳月が流れた。その間に起こった様々な出来事。恩師月影千草の死・・・最愛の速水真澄との最初で最後の夜・・・そして、その真澄と鷹宮紫織の結婚・・・そのすべてをマヤは、その小さな身体と繊細な精神で受け止め、喜びも哀しみもすべて舞台で昇華してきた。紅天女の唯一の継承者としての誇りと使命を拠所にして。マヤの周囲には、彼女の才能とその直向さをリスペクトし、惜しみない慈しみを与えてくれる人達が大勢いる。女優北島マヤは、そうした多くの人々に支えられて、今日まで生きてこら
〜こんな問題もできないのか?〜口元まで出かかった言葉を飲み込む。そんな事を言おうものなら、一瞬にして目の前の少女は怒って飛び出してしまうだろう・・・。この4月に高校三年生になった北島マヤ。出席日数が足りないのに加えて、成績不振。このままでは卒業が危ぶまれるという事で、春からずっと速水真澄の秘書である水城冴子が家庭教師を勤めている。週に2回、水曜日と金曜日の夜、大都芸能本社を塾がわりに、マヤは通って来るのだ。秘書室で一回2時間ほどの補習を行う。水城は日本最高学府で優秀な成績を修めた
真澄はマヤの入院している東都医大附属病院を訪ねた。マヤの病室よりも先に、マヤの主治医と面談をする。主治医は、真澄が北島マヤの実質の後見と認め、マヤの病状から今後の治療方針に至るまで、詳細に情報を開示してくれた。「骨髄移植はしなくてもいいんですね。マヤは・・・助かるんですね、先生。」医師の説明には納得した真澄だが、マヤを思うあまり、何度も確認をしてしまった。マヤを心配して、同行して来た水城も真澄と同じ心境であったから、その気持ちは痛い程分かる。けれど、こんな心許なさそうな真澄を見るの
「・・・緊張してるの?」速水邸のメインダイニング。マヤは昨夜から速水邸に泊まっていて、今真澄と一緒に朝食をとっているところだった。いつもなら朝から旺盛な食欲を見せてくれる恋人が、先程から口にしているのは、サラダにあしらわれたハーブ数枚とクロワッサンの端くらいだ。そんなマヤに真澄が声をかけた。特に体調が悪いわけではないことはわかっている。今マヤを悩ませているのは、極度の緊張なのだろう。「舞台の上では、なんの苦もなくあんなに大勢の観客を魅了できる君なのに、不思議だね。」メイドが新たに
これから秋本番を迎える九月。半年前に大都グループ総帥となった速水真澄は、女優北島マヤと結婚をして三ヶ月の新婚真っ只中でありながら、結婚前と何ひとつ変わらぬ多忙な日々を送っていた。大都の総帥となればそれも致し方無しではある。一方マヤの方も、結婚の直後から連ドラの主演作の撮影が始まり、撮影もいよいよ佳境に入ってきていた。10月の番組改変期に最終回が2時間枠のスペシャルで放送されるが、今はそれを絶賛撮影中といったところだ。平均睡眠時間は4時間程度で、少しでも長く睡眠時間を確保するため、撮影現
「真澄様、もう危機は脱し、鷹宮との提携解消の峠も越えたのですから、今夜こそご自宅にお帰りになって下さい。」時計の針が午後七時を回る頃、帰り支度を済ませた秘書の水城が真澄に声をかけに来た。もうひと月近く真澄はまともに帰宅していない。大都本社の取締役専用フロアーにある社長室の隣には、セミダブルのベッドとビルトインクローゼットを備えた仮眠室とシャワーまで備えたサニタリールームが併設されていた。都心ホテルのデラックスルームくらいの広さと機能性を持っているため、贅沢を言わなければ充分生活は出来る。
昔から星を見ることが好きだった少年は、物心がついた頃から無限の宇宙の神秘とその数々の神話に魅せられていった。それは好奇心を掻き立てられる科学の対象であったり、ロマンを感じさせられる歴史であったり、時には胸ときめく文学の世界であったりもした。だが、そんな少年もやがて大人になり、殺伐とした現実の風雨に晒されるうちに、星空を見上げる心の余裕さえいつしか忘れてしまった。ただ、今や人工の光が溢れ返るこの東京(まち)では、どれだけ空を見上げたところで、大して星など見えはしない。そんな幼き頃のときめき
「マヤさん、打合せが終わったら、お茶でもいかが?」マヤの携帯に水城からのメッセージが届いた。今日は久しぶりの事務所での打合せだ。この水城からの誘いがあっても無くても、今日は水城の元を訪れるつもりだった。今日は一年でたった一度、女性から男性に想いを伝えられる日だ。とは言っても、本気の告白なんてする気はない。これ以上傷つくのはもう嫌だ。今日だけは、好きという言葉を笑って使える気がする。義理チョコという、この国特有の風習のおかげだ。マヤは昨夜寝ないで作ったスコッチの効いたトリュフを持
◇予期せぬ嵐「・・・何かの間違いではないのか?」こんな重大事に間違えた報告などする筈もないことをわかっていながら、俺は聞き返さずにはいられなかった。「間違いでは無いようです。事態をいち早く知った聖さんが急遽、事実確認をされたということなので。」「マヤ本人にもか?」「はい、直接お会いになって、聞いたと。」「・・・誰の子だ?」「・・・ロンドンに着いてすぐに知り合った、英国在住の日本人男性だとか。ただし、相手の情報についてはこれ以上、マヤさんが伏せていて調べようがないとのことです。」
「水城、今度の日曜日は何があっても俺はオフだ。絶対に予定は入れないでくれ。」俺は敢えて書類から目を離さずに、水城にそう伝えた。聡い彼女のことだ、その日が何の日か、何故俺がそんな事言い出すのか、御見通しだろう。「わかりました、仰せの通りに。」だが、そんな水城でさえ、きっと知らないだろう。俺のこの並々ならぬ想いを・・・。マヤと出逢ってもう十年、、、色々な事があった。そんな言葉では言い尽くせない程の紆余曲折の連続だった。そしてそれは悲しい事に今も続いている。いつしか、今年こそは、、
何故俺はここにいる・・・?真澄はこの状況になって初めて、自分が如何に己の心に盲目で過ごしてきたかを知る。自分の未来、理想と夢・・・全てのものを胸の奥底に沈めて、心を盲目にして今日まで生きてきた。だが、過去にこれほどに目も耳も塞いでしまいたい程の思いで過ごしたことはなかった。この日が来ると知ったその日から、真澄の灰色の未来はその僅かな光さえ失って、完全な闇に閉ざされた。もう何も見たくない・・・何も聞きたくない・・・もう、何も。ましてや、最愛の者を永遠に喪失するその瞬間になど、本当は死ん
この前、マツコの知らない世界でバラに魅了されたマダムがバラの世界の話してましたね~香りの例で出されたのがイングリッシュローズばかりでした(そのうち我が家にあるのはフルーティな香りの代表として紹介されてたレディエマハミルトンのみ)今日は久々に太陽を拝めましたねしかも蒸し暑かったこういうのを本州以南では梅雨の晴れ間って言うのかなぁ?久々の好天だったし、白い恋人パークと雪印種苗園芸センターのバラ見本園に行って来ました園内のバラもそれぞれ見頃を迎
マヤと恋人同士になって、今日初めて男と女の喧嘩をした。真澄はオフィスの窓から夜景を見渡す。ただ出るのは溜息ばかり。煌びやかな都会の宝石箱も今の真澄には色褪せて見えた。今夜は一緒に食事をする筈だった。本当なら今頃、マヤと一緒に時間を過ごせた筈なのに。明日からマヤは仕事で渡仏し、そのままオフを向こうで過ごす事になっていた。だから本当は少し早めのクリスマスをするつもりだったのだ。しかし、二人が恋人同士になって初めてのクリスマスを別々に過ごす事が寂しくて仕方がなかった真澄は、その気持ちを
秋の釣瓶落とし・・・就業時間の定時を迎える頃は、もうすっかり日も暮れて、街は夜の帳に包まれる。これからの季節は秋の夜長。心静かに自身を振り返るにはいい。しかし、今の俺は自分の心を見つめ直すのが怖い。それをした時、行き着く先は見えているから。どうしても打ち消せないたったひとつの願いがある。けれど、その願いはどうにも叶わない。叶えようとしたその時に、俺のたったひとつのその夢が壊れてしまうだろう。完全な袋小路に陥っている自分。だから、何も考えなくて済むように、俺は現実から目を背けて
12月24日クリスマスイヴ。クリスマスなんてどうでもいい・・・この季節が巡るたびに、彼、速水真澄はそう思って生きてきた。〜あの子と一緒にはいられないクリスマスに何の意味があるというんだ〜それでも、紫の薔薇の人としての彼は、マヤのために毎年クリスマスプレゼントを贈ってきた。それは本当に細やかな真澄自身の慰めであり、幸せなひと時だった。彼女にクリスマスプレゼントを贈り始めて十年・・・10回目のクリスマスプレゼントは、オフホワイトのカシミヤのコートに同色のロングブーツだ。そして、コートに着
焦れていた・・・。仕事のこと以外でこんなにジリジリと唇を噛むような思いなど、これまではした事なかったのに。マヤの二度目の海外公演・・・場所はベルギー王国ブリュッセル。以前、ベルギー王室の皇太子が来日した際、マヤの紅天女を観劇され、たいそう感激されて、「いつか我が国で海外公演を・・・」と言われて、それが実現したのだ。王室からの招聘で実現した今回の公演は、ヨーロッパでも話題となった。すでに大都にはヨーロッパの他の国から公演のオファーがいくつも来ている。数年後には欧州ツアーが実現するかもし
十五夜〜Jugoya〜そして今夜もマヤのいない部屋で秋の夜長を過ごす。一緒に暮らし始めて、こんなにも離れていたのは初めてだった。始めはマヤと同棲ができているという心の余裕から、寂しさも然程感じることはなかったが、流石にマヤに逢いたいという気持ちが隠せなくなってきていた。真澄はそんな気持ちを紛らそうと、シャワーを浴びて、リビングでウイスキーを飲んでいたところに、マヤからLINEが入った。『窓の外を見て!お月様が綺麗ですよ。』言われるままに、窓際に立つと、望月のような月が煌々と輝いていた
カシミヤの膝掛け、万年筆、舞台の写真の数々・・・。マヤがこれまで紫の薔薇の人に贈ってきた、彼の誕生日の贈り物たち。それらは全て、聖の手に託してきた。初めは分からなかった・・・贈り物の行き先など。だが、マヤはやがて、紫の薔薇の正体を知った。だからといって、真澄がその事を隠している以上、彼を想って贈り物を選ぶことはできない。もちろん彼の誕生日・・・11月3日に届ける事も叶わない。そしてそれは今年も同じだった。今年の分はもう、年の初めに聖に託していた。マヤが今年、真澄に贈ったものは、
◇Epilogue「失礼します〜」間も無く日付けも変わろうかという、真夜中の大都芸能社長室を北島マヤが訪ねてきた。正確には、大都芸能社長である速水真澄に呼び出されたのだが。「ああ、北島君か。悪いな、撮影で疲れているところをわざわざ来てもらって。」「大丈夫ですよ、私若いんで。」「ん?それは11歳も年上の俺に対する嫌味か?君は俺のことを嫌味虫と事あるごとに言うが、君もなかなかのものだぞ。」真澄はクスクスと笑ってそう話しながら、マヤを応接用のソファに招く。マヤは真澄に勧められるままに席