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~愛している...言葉が世界を変える心の壁は今も消えないけど信じている...言葉がすべてをつなぐ希望と哀愁の果てに~もう・・・全てが限界だった。白い床に力無く横たわる肉体。一雫ずつ落ちてゆく、点滴だけが時の流れを告げる。それ以外は全て止まっているように見える。*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。..。.:*・゜゚・*梅の香りと苔生した岩肌にせせらぐ小川の水音。男は独りで佇んでいた。懐かしさと安らぎに満ちた里。自分にとって何よりも大切なものが息
人の悩みは尽きぬもので・・・。周囲の人間だけでなく、会社の運命さえも巻き込んでの大騒動をした挙句に、ようやく恋人同士となれた真澄とマヤ。長らく両片想いで、不器用に募らせた積年の想いも通じた。二人の間にいた鷹宮紫織も別の御曹司と晴れてめでたく華燭の典をあげた。もう何も憂う事などないはず、、、だったのに。「水城、、、、桜が散る、、、、」真夜中のオフィスで、いつになく情けない声音で泣き言を漏らす真澄から、決裁済みの稟議資料の束を受け取る。「大丈夫です。今年は花冷えが続いて、まだ元気に咲
沢山の親切と心配をありがとう沢山の気づかいと人生をありがとうどれもこれもあなたには出来ない無理をさせたのねそんなにいつの間にボロボロになってたのまだ続けるつもり?だからだからだからこれきりですこれでこれでこれで楽(らく)になってね恩を仇(あだ)で返します恩知らずになりましたまだずっと好きだけどごめん心苦しいんです申し訳ないんです私に会わなければあなたはどうだったでしょうこのままあなた命懸けで無理をさせてはいけないどうかこれからは自分のために生きてまだ間に合う
〜精密検査の結果、北島さんの病気は悪性リンパ腫と診断されます。今後、抗がん剤治療をしていきますが、北島さんの場合、初期段階の発見であり、自己骨髄の採取が可能です。抗がん剤でガン細胞を完全に死滅させたあと、自家移植といって、元気な自分の骨髄を体内に戻してやる治療法です〜紅天女の試演が終わり、後継者の座を手にしたマヤ。ある日、首の付け根に違和感を感じ、病院へいったところ、事態は思わぬ方向へと進んだ。痛みも何もなかったため、そんな生命に関わるような重病を宣告されるとは思いもよらなかった。幸
「真澄様、今夜の黒沼スタジオへの視察は中止となりました。」突然のスケジュール変更。分刻みのスケジュールを強いられることも珍しくない真澄にとって、それは取るに足りない出来事だ。既に水城の調整も終わっており、何も問題はないのだろう。だから自分は「わかった」と一言相槌を打つだけで良い。だが、真澄にはそうできない理由があった。「何故だ?」水城はそんな真澄の反応など想定内とばかりに、平然と黒沼から聞いた話を伝える。「ここのところお稽古に根を詰めすぎて、役者達が行き詰まっているから、今夜は花
Prologueofmaya...追われると逃げたくなる女心・・・。嫌いなわけじゃないのに、得体の知れない恐れが私を襲う。速水さんの気持ちがわからない。紫の薔薇の人としては限りなく優しくて純粋なのに、速水真澄としては意地悪で、捻くれている。私が本当に嫌がる事はしないけど、そのギリギリの所を攻めてくる感じ・・・。しかも「速水真澄」は他人の婚約者・・・。なのに、最近の彼は私への独占欲を隠さない。私に「女優北島マヤ」以上の何かを求めてる気がする。最初は自意識過剰だと思った・・・思
もう何も信じたくない・・・。マヤはかつてない絶望感に苛まれていた。鷹宮紫織から聞かされた真澄の話を疑うべくもなく信じるマヤの素直な気性は、マヤ自身を時に酷く傷付ける。何よりも大切だった紫の薔薇・・・けれど今は一番見たくない花になってしまっている。とにかく苦しくて哀しくて、何も考えられなくなってしまう。こんな状態で、紅天女の試演に望むことなんて無理だ。マヤは憔悴した表情で、稽古場を後にした。「マヤちゃん・・・」「水城さん?」水城はマヤをアパートまで送っていき、そのまま部屋に上げて
「真澄様、私はこれが気に入っているのですが、真澄様はどれがお好みかしら?」マホガニーのデスクに広げられた数枚のデザイン画。それは海外ブランドの有名デザイナーによるオートクチュールのウェディングドレスだ。いつになく興奮気味の婚約者に穏やかに微笑んで答える。「僕は紫織さんがお気に召したものが、一番貴女に似合うと思います。」何よりも彼女の気持ちを尊重しているかのようで、まるで思いのない言葉を返す自分に真澄は内心自嘲する。まるでこれは大切な取引先の接待と同じだ。愛想笑いに心にもない上部だけ
Prologueこの世で最も見られたくない存在に、この姿を見られた瞬間・・・。その時の胸の痛みと重さを知り、愚かにも俺は初めて気づく。この結婚で、俺は生涯、この感情と付き合っていかなければならないことを。マヤの隣には永遠に立てない・・・どんなに彼女を愛していても。真澄と紫織の婚約披露パーティーにマヤがお祝いの花束を持って現れた。淡いピンクの薔薇のブーケだ。「速水社長、紫織さん、御婚約おめでとうございます。」「ありがとう、マヤさん、素敵なブーケね。」事務所社長と所属女優としてなら
薬指が痛い・・・。己の人生を鷹宮に縛り付ける結婚という名の契約の証である銀のリング。それは指だけじゃなく、真澄の心にも食い込んで、疼痛をもたらしていた。愛してもいない女とひとつのベッドに眠る苦痛は、想像以上だった。背後で息をひそめるようにして、自分を見つめる紫織の視線が痛い。どんなに遅くても、床の中で眠らずに待っている紫織の執念が、煩わしさを超えて恐ろしくもある。だから真澄はいつも、夜更けになってからしかベッドには入らない。どうしようもない程の眠気が来るまで、夫婦の寝室には行かずに
焦れていた・・・。仕事のこと以外でこんなにジリジリと唇を噛むような思いなど、これまではした事なかったのに。マヤの二度目の海外公演・・・場所はベルギー王国ブリュッセル。以前、ベルギー王室の皇太子が来日した際、マヤの紅天女を観劇され、たいそう感激されて、「いつか我が国で海外公演を・・・」と言われて、それが実現したのだ。王室からの招聘で実現した今回の公演は、ヨーロッパでも話題となった。すでに大都にはヨーロッパの他の国から公演のオファーがいくつも来ている。数年後には欧州ツアーが実現するかもし
Ayumi'seyes...今日はマヤさんの誕生日。私は彼女を食事に誘ったわ。本当なら、私ではなく速水社長と一緒の方が、マヤさんにとっては嬉しいのだろうけど、自分から速水社長に声をかけるなんて、彼女にはあり得ないことだと思うの。あ、皆様、私自己紹介がまだでしたわね。私は姫川亜弓・・・マヤさんとは紅天女を競ったライバル同士ですの。けれど、マヤさんは舞台を降りれば、仲の良い友人で、私にとっては恋人や家族以外で、唯一癒される存在なの。そんなマヤさんを悩ませる、由々しき殿方が、大都芸能社
私の初恋の人・・・速水真澄さんずっと貴方が好きでした・・・だから、サヨナラマヤ「・・・マヤ・・・」マヤは知っていた・・・自分の正体を。それだけじゃない、マヤの心にいたのは自分?でも何故、突然・・・。思い当たるとすればただ一つ・・・もしもマヤが鷹宮との件を何処かで知ったとしたら。真澄の中で全てが繋がった気がした。ずっと正体を隠してたことも、騙されたとは思わないまで
街の舗道、木枯しに金色の木の葉が舞い散る頃にもなると、社交界は華やぎを見せ始める。室内管弦楽の調べの隙間に人々の楽しげな会話が飛び交う中、北島マヤはホールの隅でひっそりと宴の様子を眺めていた。手に持ったフルートグラスのシャンパーニュは、乾杯の時から殆ど減ってはいない。元来マヤはこうした場が得意ではなかった。女優を生業としながらも、一度舞台を降りれば平凡な女性だと彼女自身そう思っていた。今日も後援会の大物役員のたっての要望でなければ、わざわざこんなところに顔を出したりはしない。こんな不
「今、天女さまにスパダリ達が夢中!」大都株式会社代表取締役社長の執務室のデスクの上に置かれた、その場にはあまりに不似合いなメンズ向け雑誌。速水真澄が定期的に購読するビジネス誌に混ざって、それが一番上に置いてあった。大都芸能の社長を退いてからも、ある女優の動向だけは欠かさず追っている。何故なら、真澄はその女優から紅天女の上演権を受託し、その総合プロデュースに携わることを速水真澄個人として契約しているからだ。しかし、真澄がその女優を追いかける真の理由は、他にある。確かに以前の真澄は、紅
この婚約に愛はない。真澄のかつての婚約者の紫織もそうだった。単なる政略結婚の道具だった。その事に嫌気をさした紫織が自ら破談を申し出たのだと、マヤは真澄から聞かされていた。紫織の時は大都の事業拡大が目的の政略結婚だった。だが、結局は真澄の手腕で鷹宮との合併などなくても、大都の野望は果たされた。だから真澄もあっさりと紫織との破談を受け容れたのだろう。そして真澄が次に狙ったのは紅天女・・・その上演権だ。故にその上演権の継承者であるマヤとの結婚を言い出したに違いない。そうでなければ、マ
「真澄様、もう危機は脱し、鷹宮との提携解消の峠も越えたのですから、今夜こそご自宅にお帰りになって下さい。」時計の針が午後七時を回る頃、帰り支度を済ませた秘書の水城が真澄に声をかけに来た。もうひと月近く真澄はまともに帰宅していない。大都本社の取締役専用フロアーにある社長室の隣には、セミダブルのベッドとビルトインクローゼットを備えた仮眠室とシャワーまで備えたサニタリールームが併設されていた。都心ホテルのデラックスルームくらいの広さと機能性を持っているため、贅沢を言わなければ充分生活は出来る。
梅雨の晴れ間となった6月の、とある日曜日。都内のカトリック教会の大聖堂に、ひとりの男が足早に入ってきた。〜どうやら間に合ったみたいだな。〜190センチ近い長身にアスリートを思わせる筋肉質な体躯を上質なカシミアスキンのブラックスーツに身を包んだ新藤龍太郎であった。都会の喧騒を忘れさせる緑の敷地に建てられた大聖堂の中はとても静かでパイプオルガンの響きだけが清らかに流れている。他の参列者は既に着座しており、静かにその時を待っていた。新藤は祭壇に向かってバージンロードを挟んで右側、新郎の関係
~prologue~北島マヤと出逢って七年・・・。中学生から高校生になった君。女優としてこれからという時に、その華やかな道から転げ落ち、それでもどん底から自分の力でここまで這い上がってきた君。そして十年・・・今日、君はついにその手で紅天女を掴んだ。君が掴んだもの・・・それは紅天女だけじゃない。この俺の心まで君はその手で掴んで放さない。君はまだそれに気づいてはいないけれど・・・俺の心に永遠に棲むたったひとりの女性・・・北島マヤ・・・。Side-Masumi思えば君も二十歳になっ
紫織さんとの婚約は白紙にした。鷹宮との業務提携も穏便に収束させた。そして、マヤには積年の思いを伝えた。彼女も俺のことをずっと愛していたと言ってくれた。これで何も憂うことはない・・・筈なのに。どうにも忙しい。この忙しさは何なのだ?朝から晩まで、どうしてこうも忙しいのだろうか。鷹宮との提携の後始末をしていたときよりもハードな気がしてならない真澄は、水城に尋ねた。「まぁ、真澄様・・・自覚がお有りにならないのですね?」水城がわざとらしく驚いてみせる。「仕事の量も質も以前と然程変わっ
師走も押し迫った今日はクリスマスイブ。真澄は大都のメインバンクの頭取宅のクリスマスパーティーに出席していた。同伴者は、大都の看板女優である北島マヤだった。頭取夫人が大のマヤファンで、是非にという申し出があったためだ。「俺は君を呼び出すためのダシだよ。」冗談を言ってマヤに笑ったが、強ち間違いではない。個人宅でのパーティーとはいえ、屋敷のサロンには日本社交界の名だたる紳士淑女が顔を揃える。真澄は正装のタキシード、マヤもこの日のために真澄が誂えたイブニングドレスに身を包んでいた。「その
「Trickortreat〜!きゃははぁっ!」今日は10月31日。今や世間ではクリスマスに次ぐイベントとして認知され始めたハロウィンの日である。夕方になって、ハロウィンの仮装をした怜が家の中を走り回っている。蝙蝠の羽根を模した悪魔風の衣装に、黒い角の生えたカチューシャ、悪魔のしっぽの黒いパンツ。そして怜の顔といえば、マヤのドレッサーの前で悪戦苦闘した見事な芸術品になっている。マヤの使い古しのシャドウや口紅を自由にさせてもらって、真っ赤な口に、青紫の瞼、そして頬にはハロウィング
「・・・緊張してるの?」速水邸のメインダイニング。マヤは昨夜から速水邸に泊まっていて、今真澄と一緒に朝食をとっているところだった。いつもなら朝から旺盛な食欲を見せてくれる恋人が、先程から口にしているのは、サラダにあしらわれたハーブ数枚とクロワッサンの端くらいだ。そんなマヤに真澄が声をかけた。特に体調が悪いわけではないことはわかっている。今マヤを悩ませているのは、極度の緊張なのだろう。「舞台の上では、なんの苦もなくあんなに大勢の観客を魅了できる君なのに、不思議だね。」メイドが新たに
ある日の昼下がり。会議の合間に、真澄を追い立てるように電話をかけてくる婚約者に、感情を押し殺して対応する。「真澄様のお誕生日には帝国ホテルで・・・」「申し訳ありません、紫織さん。その日は終日大阪で、最終の新幹線で帰って来られるかどうかのスケジュールなんです。」紫織が話し終える前から、真澄は彼女の誘いを断る。せめて最後まで話を聞くのが礼儀と思いつつも、彼女の期待を膨らませたくないという気持ちが先立って、ついデリカシーのない対応をしてしまう。誘いを断る事に後ろめたさも感じない真澄だった
晩夏といいながら、まだその陽射しは肌を焼くように熱い。ぎらつく太陽を覆うのは真っ黒な雷雲。昔は「夕立ち」という風情ある古風な名で呼ばれていたそれは、今ではゲリラ豪雨と言われて、情緒の欠片もありはしない。今日は午後二時くらいからそのゲリラ豪雨に見舞われ、執務室のガラスに滝のように雨水が打ちつけられ、流れていた。その間も真澄は、外の嵐などには目もくれず、黙々と仕事をこなしていた。今の真澄にとって、仕事意外に心血を注げるものは何もない。義父の言うがままに鷹宮紫織との政略結婚とも言うべき婚姻
◇紡がれる未来幸せだった・・・とマヤは言った。マヤにとって俺は、最初で最後の男と決めた存在だった。きっかけはどうであれ、俺に抱かれた事で、マヤは潔く身を引く決心がついたのだと言う。そして渡英し、暫くして子を身籠った事が分かった時、マヤは何があってもこの生命が欲しいと思った。だから誰にも知られる事なく、必死に身体を守り、それでも舞台には何の影響も見せずに、ひっそりと怜を産んで、育ててきたと、マヤが教えてくれた。たった一人、世間に疎いマヤが、遠い外国の地で、必死になって俺への愛を貫き、守
◇試される絆あれから俺は、紫織さんとの協議離婚を進めていた。弁護士の藤堂の紹介で、その方面が得意な弁護士を紹介してもらい、今も協議が続いている。思いのほか、紫織さんは冷静なようで、離婚の成立も時間の問題との報告で俺も安堵し始めたその時、事件は起こった。怜が何者かに連れ去られたという。マヤが風邪をひいた怜を病院に連れて行ったのだが、検査中に看護師に怜のことを頼んで、御手洗に行ったその一瞬にあの子がいなくなったという事だった。マヤはすぐに水城に携帯で連絡をしてきて、俺もその事実を知った。
その男は悩んでいた・・・この世に大凡叶わない願いはないだろうと思われる社会的地位と財力。そして誰もが初めて目にした時に瞠目してしまうほど、瑕疵の見当たらない顔立ちと恵まれた体躯。学歴に至っては日本の最高学府を首席で卒業し、果てはオックスフォードのビジネススクールにおいて、最短でMBAを修めてきた、誰もが望むものを全て持ち合わせる男。そんな速水真澄が、眉間に深い皺を寄せて、物憂げに悩んでいる。「真澄様、今夜は首藤グループCEOとの会食がございますが、体調が優れませんか?」秘書の水城冴
ノーブルな空間で極上のワインと料理。そして目の前には婚約者(フィアンセ)が微笑んでいる。誰もが羨む光景の中に当然のように男もまた静かに微笑む。「真澄様・・・紫織は幸せ者ですわ。愛する殿方とあとひと月後には結ばれることができるんですもの。」「それは僕も同じですよ。」さらさらと流れるように紡がれる言葉に、躊躇いはない。自分はこの目の前の女性と結婚するのだ。その事に何の疑問も不安もありはしない。だが、どうしてか、心のどこかに感じる歪み。これは一体何なのだろう?その正体が分からない
◇止まった時間あの娘ももう二十五歳・・・。今や、日本を代表する女優だ。紅天女の成功を機に、演劇界にその名を轟かせ、今ではその活躍は国内には留まらない。ちょうど彼女が二十二歳になった時、ロンドンの高名な演出家の目にとまり、シェイクスピアの舞台に立つことになった。女性版ハムレットの主演を務めたが、弱冠二十二歳にして、重厚なシェイクスピアの世界を見事演じ切った彼女に世界は驚愕し、惜しみない称賛を送った。その年のイギリスの演劇界のアワードの主演女優の賞は、日本から海を渡ってきた女優、北島マヤ