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大都株式会社の会長室。その部屋の主人が速水真澄となって早一年近くが経とうとしていた。「真澄様、本日の予定はこれで終了でございます。」夜の9時、グループの役員会議を終えて戻って来た真澄に秘書の水城が告げる。「そうか、分かった。俺はもう少しやっていくことがあるから、君は先に帰りたまえ。今日は自分の車で帰るから、ドライバーも帰していいよ。」またか・・・水城は内心で呟いた。ここニ週間で、今夜で三度目だ・・・ひとりで何をやっているのだろう。何か新たな目論見でもあって、その下準備か?秘書
~愛している...言葉が世界を変える心の壁は今も消えないけど信じている...言葉がすべてをつなぐ希望と哀愁の果てに~もう・・・全てが限界だった。白い床に力無く横たわる肉体。一雫ずつ落ちてゆく、点滴だけが時の流れを告げる。それ以外は全て止まっているように見える。*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。..。.:*・゜゚・*梅の香りと苔生した岩肌にせせらぐ小川の水音。男は独りで佇んでいた。懐かしさと安らぎに満ちた里。自分にとって何よりも大切なものが息
大都芸能代表取締役社長である速水真澄のもとには、連日山のような決裁案件が回されてくる。社長付筆頭秘書である水城は、その全てに目を通し、不備のあるものは事前に再提出をさせるなど、真澄の負担を極力減らす毎日だ。真澄の経営者としての能力は、超一流である。一芸能プロダクションの社長で終わる器ではない。近い将来、真澄はこの大都グループの総帥として、日本国内のみならずグローバルな一流企業に押し上げていくことは疑う余地もない。それは、鷹宮グループの令嬢鷹宮紫織との婚約破棄に伴い、鷹宮との業務提携が暗
Prologueofmaya...追われると逃げたくなる女心・・・。嫌いなわけじゃないのに、得体の知れない恐れが私を襲う。速水さんの気持ちがわからない。紫の薔薇の人としては限りなく優しくて純粋なのに、速水真澄としては意地悪で、捻くれている。私が本当に嫌がる事はしないけど、そのギリギリの所を攻めてくる感じ・・・。しかも「速水真澄」は他人の婚約者・・・。なのに、最近の彼は私への独占欲を隠さない。私に「女優北島マヤ」以上の何かを求めてる気がする。最初は自意識過剰だと思った・・・思
焦れていた・・・。仕事のこと以外でこんなにジリジリと唇を噛むような思いなど、これまではした事なかったのに。マヤの二度目の海外公演・・・場所はベルギー王国ブリュッセル。以前、ベルギー王室の皇太子が来日した際、マヤの紅天女を観劇され、たいそう感激されて、「いつか我が国で海外公演を・・・」と言われて、それが実現したのだ。王室からの招聘で実現した今回の公演は、ヨーロッパでも話題となった。すでに大都にはヨーロッパの他の国から公演のオファーがいくつも来ている。数年後には欧州ツアーが実現するかもし
何故俺はここにいる・・・?真澄はこの状況になって初めて、自分が如何に己の心に盲目で過ごしてきたかを知る。自分の未来、理想と夢・・・全てのものを胸の奥底に沈めて、心を盲目にして今日まで生きてきた。だが、過去にこれほどに目も耳も塞いでしまいたい程の思いで過ごしたことはなかった。この日が来ると知ったその日から、真澄の灰色の未来はその僅かな光さえ失って、完全な闇に閉ざされた。もう何も見たくない・・・何も聞きたくない・・・もう、何も。ましてや、最愛の者を永遠に喪失するその瞬間になど、本当は死ん
〜maya'sprologue〜厳寒の東北の地でのロケも終盤を迎えた。マヤが主演する映画の撮影はこのロケの終了とともにクランクアップする。自分の出番を待ちながら、この映画に出るまでの経緯を思い出していた。〜あんなにあの人が反対するなんて思わなかったな・・・〜マヤの脳裡にその時の真澄の顔が浮かんだ。「大都は“北島マヤ“を安く売る気はないっ。自覚のないその辺の主演アイドルの抜けた穴埋めに君を使われるなど、俺は願い下げだ。」昔から自尊心の高い人だ。大都の看板を軽んじられたと思って
◇Prologue◇「真澄様・・・今夜の松菱の会長とのご会食は、先様のご都合で延期となりました。」午後イチのスケジュール確認で、水城が真澄に報告をした。「そうか・・・。空いた時間に何かスケジュールは入りそうか?」「いえ、今日は比較的スケジュールに余裕がございますし、緊急案件も今の所ございませんので、お帰り頂こうかと考えております。」水城は事務的に答えた。できることならこのまま、この最近めっきり世話のかかる上司がサクッとスルーしてくれることを願いつつ。しかし、そんな都合良くはいかな
師走も押し迫った今日はクリスマスイブ。真澄は大都のメインバンクの頭取宅のクリスマスパーティーに出席していた。同伴者は、大都の看板女優である北島マヤだった。頭取夫人が大のマヤファンで、是非にという申し出があったためだ。「俺は君を呼び出すためのダシだよ。」冗談を言ってマヤに笑ったが、強ち間違いではない。個人宅でのパーティーとはいえ、屋敷のサロンには日本社交界の名だたる紳士淑女が顔を揃える。真澄は正装のタキシード、マヤもこの日のために真澄が誂えたイブニングドレスに身を包んでいた。「その
「ただいま・・・」なんとか日付が変わる前にマンションに帰ってこられた。明日はマヤのオフに合わせて真澄も久しぶりの休みを取ろうと、今週はほとんど深夜遅くの帰宅だった。でも今夜はマヤが部屋に来ることになっていたから、真澄も出来る限り早く帰宅をしたのだった。しかし、部屋に入った瞬間、真澄は違和感を感じる。「マヤ・・・?」そこにいるはずのマヤの姿が何処にもなかった。そもそもマヤが部屋を訪れた気配がない。真澄は急いでマヤの携帯に電話をかけた。「・・・はぃ。」「マヤか?どうした?・・・
マヤの仕事は順調だ。紅天女の年一回の本公演も軌道に乗ったし、他の舞台作品、ドラマや映画やCMと順調にその活躍の場も広がっている。紅天女の本公演の前に、俺は鷹宮との縁談を解消し、事業提携見直しの後始末もつけた。決して楽な道程ではなかったが、マヤと一緒に人生を送り歩いて行くためには避けて通れない試練だったし、マヤの心が側にあるというだけで、俺は頑張ることができた。そして漸く、マヤとの交際を対外的に発表できるところまで漕ぎ着けた。記者会見を開くか、FAXで済ませるか、今はまだ悩み中なのだが。
昔から星を見ることが好きだった少年は、物心がついた頃から無限の宇宙の神秘とその数々の神話に魅せられていった。それは好奇心を掻き立てられる科学の対象であったり、ロマンを感じさせられる歴史であったり、時には胸ときめく文学の世界であったりもした。だが、そんな少年もやがて大人になり、殺伐とした現実の風雨に晒されるうちに、星空を見上げる心の余裕さえいつしか忘れてしまった。ただ、今や人工の光が溢れ返るこの東京(まち)では、どれだけ空を見上げたところで、大して星など見えはしない。そんな幼き頃のときめき
マヤと晴れて恋人同士になって迎える初めてのクリスマス。俺は柄にもなく、随分前から秘書の水城君に休みの確保を頼んでいた。もちろんマヤのオフも合わせて。水城君の『図々しいにも程がある!』という、白い目線にも耐え、山の様な決裁も粛々とこなし、連日の深夜までの会議にも文句ひとつ言わず、俺はひたすら従順にタスクをこなしていった。これも全てはマヤとクリスマスを過ごすためと思えば、苦にはならない。こんなにも俺は単純で現金な男だったのか・・・。「真澄様・・・大変申し上げにくいのですが、、、」クリス
去年の君の誕生日。俺は偶然を装って、君を食事に連れ出そうとした。適当な打合せを大都本社でセッティングさせて、そのまま君と出掛けるために、君を社長室で待たせていた。君の本心はわからないまでも、昔ほどには嫌われてはいないと思えるようになっていて、俺は少しずつ君へと繋がる横断歩道を渡ろうとしていた。それなのに、突然、紫織さんが現れた。思えば、彼女には全てお見通しだったのだろう。既に婚約破棄を申し出ていた俺の気持ちなど彼女は御構い無しに、君の前で婚約者然として振舞う彼女。「私やっぱり帰ります
〜速水さん、お願いがあるんです。〜俺にはいつも憎まれ口しか叩かない君が、殊勝にもアポまでとって会社を訪ねてきた。改まって向かい合う君から何を聞かされるのか、俺は柄にもなく内心ドキドキしたよ。〜年度末でお忙しいのはわかっているんですけど、出て欲しいんです・・・私の卒業式に。〜マヤは高校を卒業したら、女優一筋で月影千草の元でやっていこうと決めていた。だが、マヤを妬む周囲の嫌がらせに端を発した数々のトラブルに巻き込まれた挙げ句、マヤに追い討ちをかけるように襲った、実母春の死。それらの出
マヤ・・・今年も君とこうして二人でクリスマスを過ごせる幸せに、俺は心から感謝するよ。速水さん・・・私もよ。マヤ、今年のクリスマスプレゼントは何が欲しい?何でも言ってごらん?もう貴方には本当にたくさんのものをもらったわ。私はただ、この先も貴方とずっと一緒にいられたらそれでいいの。本当に君は欲がないな。速水さんこそ、何か欲しいものはない?私が用意できるものなんて、速水さんにしてみたらどれも大したものじゃないけど、私にできる事なら何だってするわ。相変わらずに君は可愛い事を言ってくれる
まだ季節は真冬の音楽の都ウィーン。G20の日本合同視察団の一員に加わった速水真澄は、全ての日程を終えると、一行からは離団し、ひとりウィーンの滞在を延ばした。真澄がpatronをしている日本人ピアニストに会うためだ。彼から今後の活動について前から相談を受けていて、その結論を出すためだった。「ずっと僕の中で拘り続けていたコンクール活動に区切りをつけたいと思っています。」彼の目にも言葉にも迷いはない。「そうか。でもいいのかい?ショパンを獲らないまま、コンクールから離れてしまって。」返っ
北島マヤと速水真澄の二人が歩いてきた歳月。十年ひと昔と言うけれども、十年という歳月は人の人生において充分に長い。況してや、十代、二十代の若者たちにとっての十年は黄金にも代え難い大切な時間だ。その蒼い季節を、多くの涙に暮れながら、すれ違い、傷付けあって生きてきた二人が、やっとの思いで辿り着いた地・・・。けれど、そこは二人の安住の地ではなかった。互いの想いは確かめ合えた・・・確かにそこには愛があった。けれど、今以て二人は結ばれることは叶わない。二人の間には越すに越されぬ万里の天河が無情
『大都グループ速水真澄引責辞任!鷹宮財閥の事業提携中止と令嬢縁談破棄!』いつだってマスメディアの見出しは、聴衆の興味を掻き立てるように、無責任かつセンセーショナルに書かれる。そんな事は百も承知・・・それでもマヤは週刊誌の表紙を忸怩たる思いで握りしめて、破り捨てた。世間は何もわかっていない。速水真澄という男の本当の姿を。わかって欲しいとは思わないが、興味本位で真澄について有る事無い事を実しやかに書くのは許せない。だが、それを言ったところで仕方がない事も、マヤはよくわかっていた。マヤ
薄紫色の便箋に認めた手紙と一冊の日記帳に思いを託す。そして一年以上の時間をかけて、マヤのために用意したプレゼントの数々。クリスマスイブのその日まで、毎日ひとつずつ彼女に贈るつもりだ。紫の薔薇としての最後の贈り物・・・。あの紅天女の舞台を観た時に、真澄は悟った。何をどう言い繕って誤魔化したところで、己の気持ちに、もう嘘はつけない。紫の薔薇としてではなく、速水真澄として、マヤに愛されたいと願ってしまう。どうしてもあの子の心が欲しい・・・マヤ以外、欲しいものなど、この地球上の何処にもあり
『共演者キラー・・・北島マヤ』紅天女の正式な後継者となり、大都芸能と再び契約をして、数々の良質な仕事をこなしていく中で、世間がマヤに付けたマヤの異名である。この名の通り、マヤと共演する俳優達は皆、尽くマヤに恋してしまうのだ。若手のトップアイドルから果ては、マヤの父親の年代のベテラン俳優まで、年代もタイプも違う男達が続々と恋に落ちる。大概は一過性のもので終わって行くのだが、挙げ句の果てにストーカー紛いな行動に出て、大騒ぎになった輩もいた。大都グループ総帥で、北島マヤの恋人である速水真澄に
マヤが泣きながら電話に出た・・・。何が起きたんだ・・・。1ヶ月程の長期ロケで、マヤは今夜イタリアから帰ってきた筈だ。まだ鷹宮に気遣い、俺とマヤは婚約どころか交際すら公には発表していなかったが、もう一日だって待てなかった俺は、半年前からマヤと同棲を始めたのだ。今だに、鷹宮の破談のことを許せないでいる義父の手前、俺は白金台にあるプライベートのマンションに完全に生活の基盤を移し、そこにマヤも呼んだのだ。そして、マヤと二人きりで誰にも邪魔されない甘い生活を始めた。だから今夜もマヤは当然白金台
漆黒の夜空に咲く色とりどりの華。少し離れた川辺から眺めていた。着る浴衣もない。一緒に花火を観に行く家族も友達もいない。あの鮮やかな華の下では、沢山の人が、喜びに満ち、夏のひと夜を楽しんでいるに違いない。その中に入って行くには、あまりに自分は違い過ぎる。花火を見ると少し淋しい気持ちになる・・・あの頃の自分を想い出してしまうから。十一年の時間の差はあれど、真澄とマヤの心の中に残されている夏の花火の記憶は、奇しくも同じようなものだった。花火は儚い夢の象徴・・・。「速水さんは、子供の
大都芸能社長室に、重苦しい溜め息が落ちる。溜め息の主はもちろん、この部屋の主人である速水真澄その人だった。今からほんの五分程前に、この部屋の扉を叩きつけるように閉めて出ていった彼女。長い黒髪を激しく揺らめかせ、飛び出していったその後姿が目に焼き付いている。近頃はすっかり彼女も大人びて、ぎこちなさは残るものの、二人の間には穏やかな空気が流れていたはずだった。真澄の若気の至りが引き起こした北島マヤの実母の悲劇の影が消えて無くなったわけではない。だが、マヤも大人になるにつれ、真澄ひとりに全
紫織さんとの婚約は白紙にした。鷹宮との業務提携も穏便に収束させた。そして、マヤには積年の思いを伝えた。彼女も俺のことをずっと愛していたと言ってくれた。これで何も憂うことはない・・・筈なのに。どうにも忙しい。この忙しさは何なのだ?朝から晩まで、どうしてこうも忙しいのだろうか。鷹宮との提携の後始末をしていたときよりもハードな気がしてならない真澄は、水城に尋ねた。「まぁ、真澄様・・・自覚がお有りにならないのですね?」水城がわざとらしく驚いてみせる。「仕事の量も質も以前と然程変わっ
「マヤ、今度のさやか君の結婚式に着て行くドレスはもう決まったのか?」ふと思い出したように真澄がマヤに尋ねた・・・二週間ぶりに真澄はマヤを誘って食事に来ていた。真澄も近頃ようやく人並みに、プライベートの時間が持てるようになってきた。とはいえ、相変わらず終日のオフなどありはしないし、こうして少し遅めの食事に恋人と出かけられるようになったという程度だ。それでもマヤとの思いが通じ合い、剰えあの困難極まりなかった鷹宮との諸々の問題が思いの外順調に解決の方向に向かっていると思えば、上々と思わなけれ
Prologue夢だと思った・・・。マヤが、紫の薔薇の正体を知った上で、その人物、即ち速水真澄を愛してくれていたなんて。その事実が明らかになり、真澄とマヤは晴れて恋人同士になった。マヤの気持ちを手に入れられたなら、鷹宮の破談の後始末も真澄にとっては、苦痛でも何でもなかった。あのまま何事もなく、鷹宮との政略結婚が進んでいたとするなら、その方が余程の苦痛を真澄に齎したであろう事は、容易に想像できた。マヤは真澄の望むままに紅天女の正統後継者として、その上演権を手にした。かつては、義父の英
◇止まった時間あの娘ももう二十五歳・・・。今や、日本を代表する女優だ。紅天女の成功を機に、演劇界にその名を轟かせ、今ではその活躍は国内には留まらない。ちょうど彼女が二十二歳になった時、ロンドンの高名な演出家の目にとまり、シェイクスピアの舞台に立つことになった。女性版ハムレットの主演を務めたが、弱冠二十二歳にして、重厚なシェイクスピアの世界を見事演じ切った彼女に世界は驚愕し、惜しみない称賛を送った。その年のイギリスの演劇界のアワードの主演女優の賞は、日本から海を渡ってきた女優、北島マヤ
「マヤに好きな男がいる?誰だ・・・一体どこの誰だ?」水城は真澄の眼が鋭くなったのを見逃さなかった。それが何を意味するのか・・・大都芸能社長としての怒りか、それとも一人の男速水真澄としての怒りか。水城にとっては確かめるまでのことではない。所詮、本人に問い質したところで、真実の答えは返ってこない。何故なら真澄本人がまだ気づいていない・・・いや、もう流石に気づかずにはいられないだろうが、それを必死に自身に誤魔化しているのだ。仕事においては、冷酷無比なほどに沈着冷静で理論的に行動できる優秀
・コミックス20巻<”「あの子は天才よ…!」”から”「このおれに卒業証書を…」”まで>真澄29歳、マヤ18歳・線路のように続いてきた愛情アクターズスタジオでの一件があって以来、すっかり自信を失くしてしまったマヤの高校の卒業の日が近づいてきました。ある日マヤは、校長室に呼ばれます。そこには、校長先生と共に聖が待ち構えていました。校長先生がマヤに話を切り出します。「きみの後見人の使いのこの方がきみの今後について話したいそうだ」校長はマヤの進路について話があるようです。「もうすぐ高校も卒