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宮にはすっかり静けさが戻っていた。春の祝宴会は追放から帰還した妃宮の為の催しであり、誰もがその突然の帰還に納得し祝福した。その一日を緊張で過ごしたチェギョンには疲労の表情が現れていたが数日経っても体調は優れぬままだった。シンは事を性急に動かした事に後悔の念が走る。一刻も早く妃宮の帰還を人々に認めて欲しかった。祝宴の後の晩餐会は殆どが仲間内での集まりであった。チェギョンの弟はシンの友人ファンと意気投合し、ガンヒョンは相変わらず冷たくギョンを遇らうが其処には一方通行ではない何かがあった。ヒ
「ねえ」妻のチェギョンが、シンの耳元で小さく囁いた。珍しく何も予定のない休日。使用人たちも、「今日はのんびりするように」と臨時の休暇を与えた。ブランチをシェフに作り置きをしてもらい、自分たち夫婦の寝室へ運んだ。妙に静まり返った家で、シンは愛用のソファに腰を下ろし、前から読みたかった本を開いていた。すると、ほっそりとした腕が彼の背後から伸びてきて、背中に妻の重みを感じた。シンは口の端をあげて微笑んだ。そろそろ可愛い妻が甘えてくるだろと踏んでいたのだ。彼の思った通りの行動をするチェギョンが、
チェギョンは頬を膨らませ、プリプリ怒りながら戻ってきた。まるでシンの不機嫌がチェギョンに伝染したみたいだ。「シン、すごく機嫌が悪かったみたいだけど、何の用だったの?」「全く…どうもこうもないわよ。あの横暴王子ったら何て言ったと思う?『お前は皇太子妃なんだぞ。俺以外の男とベタベタ馴れ馴れしくするな!二人きりになるな!』だって。」「本当にシンがそう言ったの?」まさか…嘘だろ?あの能面みたいな奴がそんなこと…「そうよ。馬っ鹿みたい…だって俺以外ってユル君だよ?
どうして手を握ってしまったのか…。だが、自分が出て行くのを止めてくれた事が嬉しかった。シンの幼き日の事を少しだけ知ったチェギョン。まだ5歳だったシンと、親との別生活。普通では考えられない事だ。普通ではない事が起こる。それが宮というものなんだろうか。確かに今、自分が置かれている契約結婚という状況も普通ではない。幼きシンがどれほど親を恋しがっても傍にいてくれない。言いたい事も言えない。やりたい事もできない。そんなシンを思うと切なくなる。これは同情なんだろうか…。それ
久々の東宮殿はあの頃より増して開放感のある明るい佇まいを見せた。この空間との別れを、チェギョンは惜しむ間も与えられないまま取り急ぎ宮を去った。騒動の渦中に泡沫のように消える事を余儀なくされた。思い出の残るこの場所に再び舞い戻った。緊張した面持ちで、チェギョンはかって知ったる石畳を歩いた。『足元、気をつけろ』『分かってる!』過干渉な夫に辟易しながら辺りを見渡した。いつ何時、主である妃宮が戻ってきても良いようにと女官達が甲斐甲斐しく毎日の手入れに気遣っていた証拠が其処彼処に伺える。『妃
韓国映画、『彼女のバケットリストTHEMOVIE』2022年を観ました。ラリ(キム・ソへ)には恋人がいたのですが、恋人が突然死んでしまい、彼女の世界は崩れてしまいます。そして、自ら命を絶とうとするのですが、偶然、以前、彼と一緒に作った死ぬ前にやりたいことの「バケットリスト」を見つけますラリは、バケットリストを完了することで、彼の思い出に敬意を払うことにするのですが、そんな時、舞台恐怖症のア
『ウッティレート医師、チェギョンが妊娠とは確かなんですか?確かだとしても何か他に病気があるわけではないのですか?頻繁に倒れるのは何か』『いえ、妊娠初期は様々な症状がでます。妃宮様の場合は典型的と言えば典型的ですが数値も著しく悪い訳ではありません、、食事が摂取出来ない事が何より心配ですがでは、殿下見てみますか?』『見てって…見れるのか?だったら是非』『妃宮様先程は見られるのはお嫌だと言われましたがどうされますか?』『だって恥ずかしいし』『何が恥ずかしいんだ!』『だって』『先生お願いし
「バカ!!シン君のバカ!!!」チェギョンはシンには秘密の絵を描く作業場…「心休まる場所」に来ていた。小屋の中で大声を出し、鬱憤を晴らしている。「おや、チェギョン様…」そこへこの場所の提供者でもある庭師のキムが訪れた。忘れ物を取りに来たキムはこの小屋から聞こえる声に不審人物が入り込んでいるのではないかとそっと中を窺うとチェギョンがいたという訳だ。そのチェギョンは涙で顔がぐしゃぐしゃになっていてとても妃宮とは思えぬ出で立ちである。キムは一瞬驚いたものの、何かあったの
この物語は、こちらではなくFC2でやっている表ブログで2012年末から書き始めた宮Loveinpalaceのその後物語を全て加筆修正し移しました。かなり時間経っていたので再度ドラマを見直してヤバいくらい宮沼に再どハマりましたねあちらFC2で書いていたその後は宮を見てすぐに勢いで書いていたのでかなり修正が必要でした。仕事や家事育児で離れて途中でかかなくなりましたがようやくゆっくりと書き終えることができました^_^ありがとう😊最近の一言宮のリメイク話…どうですかねー。本当ウネジフニだ
僕は知らなかったんだ。それなのに目の前に座る両陛下の顔は明らかに怒っている。シンの誕生日パーティーがあった翌日。いつものように朝の挨拶に向かった。パーティーで2人のダンスの評判が良かったと伝えられ、ホッとしたのもつかの間。皇太后が部屋を後にした途端、両陛下の表情が変わったのだ。そしてシンを問い詰める。「妃宮が池に落とされたと報告を受けている。シン、お前は何をしていたのだ!」「恐れ入りますが陛下、そうではございません。そうではなくて‥その…」咄嗟にシンを庇おうとし
『改めまして本日は、この様な茶会に招いて頂き、ありがとうございます。妻、チェギョンです。この様な登場に皆様は大変驚かれたと思いますが、次代のこの国を担う子を授かり体調優れぬ中、私が一人にならぬ様に皆様に認めてもらいたい一心で参じた様です。これからも皆様の一員として宜しくお願いいたします。』シンはチェギョンを呼び寄せると、並び立つ。先程の厳しい表情とは打って変わって参加している人々が驚くほど柔らかな表情を見せた。『皆様。紹介いただきましたチェギョンです。民間から嫁ぎ、躾も乏しくそぐわぬ私を長い
朝から上機嫌のチェギョン。それはシンからお土産で貰ったネックレスを付けているから。朝の挨拶で目敏くそれを見つけたのはヘミョンだった。「あら!どうしたの?素敵なネックレスね、チェギョン」「ありがとうございます!シン君から頂いたんです!」一気に視線がシンに集中する。「どういう事?え?お土産?私達には?え?ないの?嘘でしょ?出しなさいよ!ホラ!!」ヘミョンの尋問は恐ろしいもので、親であっても中々止めに入る事ができなかった。お土産だと言ってしまったチェギョンも、言
無事に7年とちょっと越しのその後物語を書き終える事ができ、非常にスッキリした気持ちです。思えば、宮を見終えてからが始まりでした。2周、3周する内に、続きが見たいと願うようになりました。その後物語はラストだけが頭に浮かんでいてそこに向かって書き出したわけです。最終的な終着はここに。。それだけを念頭に書き始めておいて気付けばあちこちのドラマにうつつを抜かし、寄り道しまくりでなかなか進めなくなり、そうこうしている内に内容を忘れてしまったという救いようがないパボな私が悪い訳ですが…今思えば必
シンの滞在するホテルの一室。一際重厚な扉の前には物々しい雰囲気で護衛官・イギサが立つ。チェギョンにも本国では三名の女性イギサが付く。タイへの公務中のシンを訪ねたユルはかつて皇太子だった。僅か5歳の頃まで皇太子として景福宮で暮らした。父・孝烈皇太子が急逝したため第二皇位継承権の叔父が帝位に就くと皇太子の位は従兄弟であるシンへと移行した。そして、母ファヨンと共に宮廷を追われた。それさえ無ければチェギョンの許嫁は本来、義誠君と呼ばれたユルであった。そんな昔に思いを馳せながらシンは口を開いた
日の落ちた東宮殿は女官や内官が慌ただしく行き交う。『いたか?』厳しい口調で女官の一人を呼び止め、女官は思わず肩を竦めた。『いえ…殿下申し訳ありません…』女官は深々と頭を下げる。『……』自室を右往左往し、更に思いついた様に突然チェギョンの部屋へ向かうシン。大きな音を立て扉を開く『…何処に行った!』シンは立ち止まるとチェギョンのベッドへ腰を下ろす。天井、カーテン、部屋の様子を見渡すと溜息を漏らした。彼女が帰還した途端に色彩を取り戻した妃宮の部屋に改めて妻の存在感を知る。『…チ
ユルから『シンに確認する』と言われたヒョリンは心穏やかではなかった。本当に確認されたら嘘だとバレていまう。かと言って、ユルに確認するなとも言えないし、シンにユルから確認されたかどうかも聞けない。もしもシンに問い詰められたら…何か良い言い訳を考えなければ…。そう思えば思うほど、良い案は浮かんでこなかった。☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★そんな事があった翌日。シンは大学に来ていた。教室に入るとイン達が手を上げてここだと合図する。「よぅシン!災難だったな」「風
『ちょっと!大丈夫ですか?』『…様っ?』暗がりに甲高い声が耳に飛び込んで来る。どうやら自分を呼ぶ声のようでチェギョンは薄っすらと瞳を開いた。誰かに抱き留められているようで、肩を強く揺さぶられる。『妃宮様っ、大丈夫ですかっっ?』チェ尚宮の声にもう一人が強く反応する。『え。。チェ、チェギョン?』『大変申し訳ございません、あまり動かす事も危険ですのでこのまま…護衛のものが参りますので…』『あら?貴女…チェ尚宮さん?』『あ、あなたは…』『…ん…』妃宮を支える通りすがりの人物に尚宮
それからチェギョンは演奏の練習。シンは公務での打ち合わせなどで、お互い忙しく東殿にいる時間もなく帰って来るのは深夜0時を過ぎてから。もちろん顔を合わすことなどないに等しい。特にシンは事前に勉強すべき事が沢山あり大学にも行けないでいる。チェギョンは割と余裕があるスケジュールで週に2日程度は大学に顔を出す事が可能だ。そしてその日、チェギョンは大学に来ていた。授業も終わり、これから皇后様とカヤグムの練習の為、宮に戻る所で声を掛けられた。「チェギョンさん、お久しぶりね」振り返る
++++「ダメだ」「どうして?」「ルイを裏切ることはできない」「あなたとルイは兄弟よ。構わないわ」「ヒョリン…君の狙いはそれだったのか…?」++++「シン、見て」色とりどりの花を腕一杯に抱えて、幸せそうな笑みを浮かべたチェギョンが部屋へ入ってきた。シンは頭を軽く振り物思いを追いやると、妻の姿を目をすがめて見つめた。「…さながら、春の花の精か、あるいは花のプリンセスというところか」小さく呟くと、妻の腕から零れ落ちそうになっている花に手を伸ばそうと、彼女に近づいた。「さっき、
『結婚しないか』ある日の午後、無人の教室の片隅で彼女に告げた。ヒョリンは瞳を丸くして、それでも冷静に答えた。『私達はまだ学生よ?』確かに彼女の言う通り、現実的に無理がある。皇族の結婚は早く黙っていれば勝手に妃を決められる。宮家の言いなりになり知らない女と結婚するのは癪に触る。皇太子という特殊な立場故に一般的な常識が皆無かまたは欠如した思考に陥りやすかった。『結婚』の発言自体、皇太子として生きてきたシンにして余りに突発的である。ヒョリンからすれば驚いて当然の申し出だった。厳しいしきた
ここはソウル芸術高校、芝生の広がるゆったりとした中庭の端に位置する金木犀の生垣、その手前には桜の木があり、生垣と木の間の僅かばかりの空間は校舎から視界を遮られる格好の息抜きの場所だ。いつも行動を共にしている気の置けない友人である御曹司たちからも解放されたくて、シンは昼休みだけはよくここへやって来て、足を無造作に投げ出して桜の木に寄り掛かり、そっと目を閉じて一息吐くと漸く少しだけ緊張を解く。そのシャープな横顔はゾクッとするほど端正で、悩ましげに寄せられた眉間の皴が、高校3年生らしからぬ男の色気
滑走路を行き交う航空機が真正面に見える眺めの良い貴賓室のソファーに深く腰を沈め、僕は逸る心を抑えて静かにその時を待っていた。ここ金浦空港は国内線がメインであるが、アジアのハブ空港である仁川には遠く及ばないものの、近頃では国際線の発着便数もかなり増えてきている。我が韓国を訪れる観光客の数が急増しているのがその原因だ。何でも、世界中で韓国ドラマやK-POPが大人気なのだそうだ。それでドラマのロケ地を訪れるため、またK-POPのライブ観たさに、世界各地から観光客が押し寄せているというのだか
シンとチェギョンはいつもの朝を迎えていた。先に目覚めたシンは傍らの妻を眺めている。『ん…。』覚醒しそうな妻をその胸に抱き寄せた。額にかかる前髪を指で流し、むきだしになった丸みに口付けてみるが肝心のチェギョンは微動だにせず。しかしてどういう訳か日々愛しさに拍車がかかり止まる事を知らない。『まずいな…好きになりすぎる。。』呟いた。『シン…くんもっと……たい』腕の中のチェギョンが絡みついて来るので更に目が覚める『ん?!』何の夢を見ているのだろうか、それにしても押し付けるはだけた胸
「チェギョン、ちょっといいかな?」「お兄様、なぁに?」チェギョンが振り返ると、彼女の自室の入口で兄のシンがドア枠にもたれて立っている。そう言えば、いつから兄はこの部屋へ足を踏み入れなくなったのだろう。チェギョンはシンを見つめた。今日は公務も宮殿内で済ますのだろう、太めのブルーのストライプのシャツに、ライトグレーのVネックのニット、そして、白いパンツをはいている。「お兄様らしいわ」彼女は頬を緩めた。普通の王子なら、きっと紺やグレー、ベージュなどのボトムスを合わせるだろう。それなのにシン
どうして嫌な事が連日続くのだろうか。目の前から来る人物たちにチェギョンは小さく息を吐いた。「これはこれは、今日も妃宮様はお元気そうだ!」「えぇ、お陰様で」「シンはまだ大学休んでるっていうのになー?」「いえ、殿下はもう熱も下がってお元気です。ですが、執務が溜まっていましたのでその処理の為に…」「要はそれってあなたのせいよね?」昨日と全く同じメンバーが代わる代わるチェギョンに嫌味を吐き出す。チェギョンも黙っていれば良かったのかもしれないが、つい言い返すような真似をしてしま
『陛下…申し訳ございません。今少し宜しいですか?』束の間、机上の家族写真を眺めながらシンは一息ついていた。コン内官が声を掛ける寸前迄脳裏に影が蠢くのを何の予感だろうかと考えあぐねいていた。コレはチェギョンの危機の際に起きるサインの様なもので、神の啓示にも思える。【嫌な予感】はこれまで大抵当たってきた。陰謀に巻き込まれそうな時、現代から彼女の存在が一時的に消える前。脳裏に黒い霞がかかるのだ。『ん、なんだ内官。一息ついていたから大丈夫だ。私からも聞きたい事がある』『はっ、何かございましたか
宮廷内の庭を解放した春の祝宴会は宴もたけなわ。簡易の記者会見が終わると和やかな宴会に変わり国の要人達はシンとチェギョン夫妻に挨拶をと列が出来た。誰が見ても火を見るより明らかな歓待ぶりである。記者たちも誰が何番目に挨拶したと事細かに筆記していた。かつては孝烈皇太子の友人としてファヨンに手を貸していた記者もいた。皇室の信用を失墜させる事に加担した記者は国外へ逃亡を図る直前にシンに呼び出された。記者としての業界の信頼を無にし立場を追い、この国で一切の仕事が出来ないようにする事は造作もないが報
得体の知れない不安におそわれたままのチェギョンは今しがた去っていった青年ヨナを思っていた。『他人じゃない…』単に弟に似ているだけではない。。夫シンが嫉妬心に苛まれる程、チェギョンの中でヨナという青年にはどこか近しい感覚を覚えていた。しかし、去り行く真際にチェギョンに接近した事で、チェギョンは全くあり得ない事に気付いてしまった。『そう…だってシン君に似てるのよ…似てる訳ないけど…でも似てる…』不可解で霧の峠を歩んでいるように不思議な感覚である。雲の中にいるようで、それでいて意識はハッキ
そして日曜日。お祖母様から午後来客があると聞かされていた俺は、午前中に学校の課題を片付け、昼食後は本を読みながら静かにその時を待っていた。すると、突然お祖母様が東宮殿までおいでになったんだ。「お祖母様、態々お越しいただかなくても僕がお伺いしますのに…」慌ててお祖母様をパビリオンのソファーへと案内すると、お祖母様は思いもよらないことを仰った。「太子、お客様とはそなたの大切な許嫁じゃ。それ故この私が直接東宮へお連れしたのじゃ。」「お祖母様、今何と仰いました?許嫁…って、ど
『尚宮お姉さん…どうしよう…』肩にかかる髪が風に揺れる。俯き、拗ねたように唇を尖らせた。『どうなさいましたか?妃宮様…』従うべき主の気持ちの浮沈を敏感に感じとるのも皇太子妃に仕える尚宮の仕事。本音を隠した主人の心の機微を察知するのは至難の技である。特にイ・シンに於いてはコン内官にしか見せない心の内がある。内官の宮での信頼感はそこからも伺い知れる。しかし、チェ尚宮は平然を取り繕う。チェギョンの感情の起伏を平坦にすべく考案したのはチェギョンの悩みについて感情を入れないこ