ブログ記事2,194件
“今度ギイが来たら時間とるように言って。みんなで会おう。”政貴の言葉に少し複雑な貌を見せた託生。祠堂の仲間たちとの再会は懐かしいだけでは済まないことを察しているのだろう。突然消えてしまったギイ。みんなそれぞれ思うところがある。何故一言相談してくれなかったのか。自分だけではなく、みんな。想いはきっとこの一語に尽きてしまうのではないか。“うん、わかった。伝えとくね。”少し前の複雑な貌を引っ込めて、力強く応えた託生。その表情に政貴ははっとさせられた。―――すごく綺麗だったから。
◇◇◇数日前何年も前から進めてきたプロジェクトの契約締結の日、島岡と二人、先方が来る前に最終チェックをしていた時、書類の間からするりと落ちてきた名刺。「・・・島岡、これって、相手方の弁護士チームの一人じゃないか」まさにこれから来る客人の弁護士の中の紅一点、10人男がいたら10人が振り返りそうな美人だ。(オレは見向きもしないがな)「おや、こんなところに名刺を忍ばせておくとは、なかなか油断ならない女性だ」名刺を見せても顔色一つ変えやしない。「先日一緒に飲んだんですよ。偶然バーで会い
マンション前で車を降りて。運転手への労いの言葉もそこそこに、エントランスへと駆け込んだ。少し前から降りだした雪は、その質量を増していって。これは積もるだろう。寒さにめっきり弱い恋人は、今ごろ震えているかもしれない。はやく!と焦れながらエレベーターが最上階へ着くのをじりじりと待つ。急く心のままに足早に歩み寄った託生の部屋のドア。その前でもう一度、時間を確認する。日付が変わるまであと10分。滅多に使わない合鍵で扉を開けると、しん、とした静寂が俺を迎えた。託生が起きている気配はない
葉山の家に来てみたが、無駄足だった。どうやら託生はNYから出ていないらしい。しかも崎の家にいるなんて・・・。絵利子とお袋が、面白がってかくまっている姿が目に浮かぶ。とにかく、一刻も早くNYに帰らなければ・・・。10,000キロ以上離れた距離、飛行機で半日以上かかる距離・・・。イライラがマックスに達していたオレに、絵利子からの電話。日本にいるなら、あれを買ってこいなど、どうでもいい話に散々付き合わされ、頼み込んでやっと託生に代わってもらえても・・・、聞こえてきたのは、不機嫌
尚人と別れて家に連れてきたはいいが、託生はさっきからポカンと口を開けて、家を見ているだけで何も話さない。「託生?」「・・・ここが、ギイの家?・・・すごいね」引いてるな。セキュリティを重視して、外から家が見えないように、塀と高い庭木、敷地の半分が庭園で、ゲートを抜けてからしばらく車で走る。一般家庭よりは広いだろうな。「オレの家って言うか、親父の持ち物だけどな」フォローのつもりで言った言葉は、託生の耳に届いているのかいないのか。家の中に入ると、出迎える使用人を見て、更に固まってし
写真のフレームをそっと愛しげに撫でた託生。コトリ、ともとの棚に載せた。横にはもうひとつの写真立て。その中にはギイと託生、二人並んで笑顔の写真。すっかり大人になった自分たちの姿。―――ギイの隣で自分はこんな風に笑っているのか・・・。この写真を撮ってくれたのは誰だったか。祠堂の仲間たち、その誰かであることは間違いない。ギイと祠堂のみんなの再会は、懐かしい思いを楽しめるだけのものでは決してなかったけれども。(矢倉は殴りかかる寸前だったし、三洲なんて顔を出しもしなかったのだから。)それ
「奏太、行っちゃったね。」託生の寂しげな呟きに、ギイは大人げなくもムッとする。幼い頃から育ててきた奏太のことが託生には未だに小さな子どもに見えるらしい。親心とはそういうものなのだろう。だが。ギイから見れば奏太はもう、立派な男にしか見えないのだから複雑である。ここで、やっと邪魔物がいなくなって清々した等と言おうものなら間違いなく機嫌を損ねてしまうだろう。だからと言って思ってもいないことを言うことは出来ない。ギイの心境は間違いなく、確実に、前述の通りなのだから。ギイは言葉を選ぼうと
♭君と一緒にタクミくん音大卒業後、助手三年目の設定で書いてます。“タクミくんの音をみんなに聴いて貰いたい”と“二人を幸せに”を目標に勝手に未来捏造していくオリキャラ満載のシリーズです。→♪1(1~2)完タクミくん、一念発起でコンクール出場を決意します。→♪2(1~4)完大学での佐智さんとタクミくん。オリキャラ関くん登場。→♪2のおまけ(1~3)完関くん視点での♪2。オリキャラ、門下生の皆さん登場。→3(1~4)完託生くんとの出会いから現在までを佐智さん視点で。黒佐
祠堂のみんなに会う前に。ギイと寄り道をした。よく知っている道。「ギイ、どうして・・・?」小高い丘の白い建物。その裏手にある墓地の群れから少し離れた墓石を前に託生は訝しげに呟いた。ここに寄るとは前以ては聞かされていなかったから。辿る道筋からもしかして・・・?と、薄々思ってはいたけれども。何故、ここに?ギイは手にした花束を墓の前に供えた。「俺、約束、破っちまったからさ。」約束?「ここに一緒に来た時、約束しただろ?"来年も、再来年も、それから先も、ずっと、毎年オレはお前とここに
「…三洲、いつからタクミの父親になったんだ?」そんなことあり得ないのは判ってはいるが、章三がこんなことを言うのが信じられず、思わず聞いてしまった。「そうだな…大学四年の頃だったかな、母さん」お母さんと言った先にいるのは勿論、章三だ。「お前ら夫婦になったのか?」そのやり取りにツッコミを入れたオレに、章三のスリッパが飛んできた。《パコン!》「いってぇ!なにするんだよ、章三!」苦情を言うが、オレより苦情を言いたげな章三がスリッパ片手に正面に立つ。「お前がバカなことを言うからだ。三洲を
10年の空白ですが、あの人はからの続きになっています‥。すぐに終わらせるつもりでタクミとギイで番号を振りながら書いてたんですが、どうにも長くなってきて‥気づけばまだ終わってません。託生→Tギイ→G三洲→M赤池→A真行寺→Sとして番号を落としてます。ですが、系列的にはそのまま、続けて読んでいただく方が分かりやすいのかもしれません‥途中番号振り直すかも‥ピロピロなったらごめんなさい(T_T)あと少しで終わるつもりではいます‥
場所はギイが用意した。言わなきゃ良かったのに、あのときに「ケーキ代は今度行った時に飯奢ってやるからそれでチャラだ」とか言うから‥ケーキ代の何倍払うんだろ‥でも楽しみにしてるようだからお任せするけどね(笑)予約してたのは古民家温泉付きのお店。外から見たら完全に豪農の家だ。庭は広いし花木も素晴らしい。ダイヤモンドリリー『また会う日を楽しみに』サフラン『歓喜』リンドウ『悲しんでいるあなたを愛する』『正義』なでしこ『純粋な愛情』『貞節』コスモス『調和』『乙女の純真』彼岸花
…だがそれより驚く言葉が葉山から出た。「『タクミが、タクミがぼくを誘惑したんだ!ぼくは悪くない!』って兄さんは母さんに泣きついた…」なんだ、それ!!まぁストーカーの類いは自分を悪だとは思っていない…むしろ、全ては相手が誘った、相手が好意を見せたから…と言うのが大半だ。それを実の兄に言われるとは思いもしなかったろう…さらに追い討ちをかける母親。「『…なんてこと!あんたが尚人を唆したのね!あんたなんか、うちの子じゃない!』って間髪いれずに言ってくれたよ…」どうやって小学生が高校生を誘惑出来
「…おはよう…」昨夜は遅い昼と晩御飯を一緒に取ったのと、酒も飲んだこともあって、いつもより早く寝床に着いた。確か、PM10時前には寝てたと思う…今はAM7時。大学に行く日より早い目覚めだ。しかし、葉山は朝が苦手な為覚醒に至ってない…。まぁ、昨日寝付いたはずだったのに途中から半覚醒で魘されてたから仕方ないかもしれないな。昨日は寝付いたのを見計らって、コンシェルジュから受け取っていた保冷剤を、濡らしたフェイスタオルで巻き、泣き張らした葉山の目に当ててやった。あれだけ泣いたんだ、あのままだ
確かに、井上さんだ‥あんまり覚えてないけど、あの階段の出来事の時に見た顔のように思える‥何しろぼくって顔を覚えるの苦手なんだよね‥「‥そーだな‥、おっあそこに居るの島田御大じゃないか?」ぼくたち三人はテントから歩いてくる島田先生を見つけた。10年経って、更に温かみのある人になってる‥‥「やぁ、元気にしてたかい」「「「はい!」」」「御大、その節は申し訳ありませんでした!」ギイはあの文化祭のことを言ってるんだろう‥でもあれはギイだけが悪い訳じゃない‥確かに文化祭の間、部屋から
「崎先輩…ご無沙汰してます」俺の名を呼ぶ彼は…思いもよらない人物で…そしてかなり印象が変わっていた。「キミは…」「ギイ、覚えてるのか?いや…わかるのか?」章三にその人物を認識してるのかと問われる。多分だが…俺の思ってる人物なら…ただ、かなりイメージが変わってる。人間、10年でこんなに変わるのか?幼い子供から成長して、青年になってから再会すれば驚くほど変わっていても不思議じゃない。だが…その人物と思われる彼と最後に会ったのは高校三年の時だ。そこまで成長していれば、ここ
期待も虚しく肯定された。「あぁ、多分お前が思っているものはそうだ。その写真で色んなことが起きた。それでも葉山の強さで乗り越えてきた。その強さが今度は月詠の心を動かした。憎んでいたはずが、好意に変わったんだ。そこから、月詠はストーカー化した。自分の気持ちに気づいた月詠は朝比奈をFグループに売った。葉山がコンクールを蹴っていたのは朝比奈のせいだと、証拠も付けて。朝比奈は息子を誑かした男として葉山を陥れるつもりだったらしいが、目論みは崩れ去り二度と日本に戻ってくることはなかった。月詠が言う
「もう止めて!ギイが可哀想だ!」泣きながらオレに抱きついて止めさせようとするタクミ‥それを三洲が「まだゲームは終わってない」と、自分の方に手を引いて連れ戻す。まだ罰ゲームを続けるようだ。しかもまたバットを使い、スイカ割りをする時のような回転をし他の誰にも触ることなくタクミを捕まえろと言う。10回も回ればさすがのオレもかなりフラつくのは間違いないだろう。それを腕一本分の隙間しかないのに掴めと言う‥そして、捕まえる事が出来れば晴れて迎え入れてやると。それだけオレはこのメンバーに不義理を
「……葉山、大丈夫か?」くちびるを震わせていた葉山は、だんだんと蒼白い顔になっていく。小さく、「……三洲くん、ごめんね…」と聞こえるか聞こえないかのような小声で俺に謝罪を述べる。何に対してだ?「謝らなくちゃいけないことが書いてあるのか?」途端、その手紙を手の中で丸めポケットに無造作に突っ込む。「おい葉山!謝るくらいなら見せろ!」またこいつは一人で背負おうとしている!そう思った…「お母さんが言ってただろ、俺も巻き込まれたって。だから俺に隠し事は無しだ!」あまり強く言いたくは無か
時間が経ち、席もほとんど埋まった。住職が読経し始める。松本の親父さんはご近所に顔が厚かったのか、かなり幅広い年齢層の弔問者がきていた。その中には、嗚咽を漏らす人も居るほどだ。住職も懇意だったのか、最後の説法の時に過去を遡りぽつりぽつりと言葉を説く。「松本さんは、とても人情の厚い方で‥困っている人が居ると手を伸ばして差し上げる、そんな方でした。それはご家族であったり、ご近所の方であったり、時には最近多い外国の方だったり‥英語が話せる訳ではないのに、困っているんだからと身ぶり手振りで会
来年はぼくたちの成人式だ。でも、みんなバラバラだから会場が違う。それに静岡に帰って出席するほど執着もない‥だからぼくに興味のない両親に、いつ開催されるかも知らないであろうコンクールに向けて今から集中したいと、帰らない口実にし帰省しないことを伝えていた。今日は大晦日‥ぼくの家。「「葉山は成人式の日、実家に帰るのか?」」赤池くんと三洲くんがご飯を食べながら聞いてきた。なんだかんだ気にかけてくれて、二人とも一緒に過ごしたい人が居るだろう日に時間を使ってくれる。きっと、ぼくに寂しさを感じさ
ーーーー「どんな夢をみてる?」まずは夢の話を聞く方が葉山は話しやすいだろう。「…ギイが高校一年生なんだ…。でもぼくは二年生…」学年の差は自分が崎を身近な人物と認識しているからだな。「俺は腰を折らずにしばらく話を聞くよ。気になったら声をかける」そう言って葉山だけに話をさせる。「それでね、ギイはぼくに葉山って声をかけるんだ。ぼくは違和感を持つけどその声が優しくて…だから嫌じゃない。むしろ、ああ、一年の頃にもっと向き合って居たら良かったなぁって。そしたら短かった高校生活も僅かながら想い出も増
『男を惑わせる…』葉山のトラウマを刺激する言葉…まさか、あの手紙にそこまでの内容が隠されていたとは…一体、誰なんだ!そこまで調べあげて葉山を追い詰めるのは!ギリギリと音がする…それが自分の歯だと認識するまで時間がかかった…「葉山、もういい」これ以上聞かなくても想像がつく…なら言わせないでもいいだろう。そう思って止める…が、「…ううん…いいんだ…それとも気分が良くないかな、やっぱり…」ほら、また…「いや、俺は全部受け止めてやるって言っただろ?葉山がいいなら、続けてくれ」それなら
「では、祠堂学院高等学校卒業式を始めます」井上の一声でそれは始まった。「在校生代表、真行寺兼光送辞」「はい!」体育会系の勢いよろしく、手を上げマイクに近寄る真行寺。「卒業生のみなさん、ご卒業おめでとうございます。本日は春ではございませんが、気持ちの上では3月という気持ちで挨拶をしたいと思います。春の木漏れ日溢れる本日、皆様の良き旅立ちに相応しいものとなりました。私たち下級生にも優しく、時には厳しくご指導頂き感謝しております。私たちは皆様から頂いたものを4月から仲間となる新入生、2年
ーーーーー「彼はね、最近ぼくの練習に付き合ってくれてたんだ…」そこまで近くなってたのか!…これは完全に狙ってる?…「それで?なんで頭を下げてたの?」一部始終見てたってことを匂わせる。「それはね、練習に付き合ってもらうのを今日でやめてもらったから…」三洲の言った通り、ちゃんと断ったんだ。「そうなんだ…で、彼はなんて?」そんなに知りたいことなの?って顔で見るけど気にしない。「なんて言われたの?」先を進める。「…えっと、練習は教授に任せるけど、いつでも相談に乗るからって…」それって
それはだんだんクライマックスに近づく。そこにはオープンカーに乗り笑顔で沿道に手を振るタクミがいた。そしてレッドカーペットを歩く姿や、登壇して挨拶をしているもの。イベントの終わりを迎える演奏。その顔は…今まで見たことのない晴れ晴れと、そして自信に満ち溢れたものだった。タクミはsubrosaをレンタル(俺はプレゼントしたつもりだったが)したとき…いやオレが退学するまでは、まだ自分に自信がなかった。それがどうだ…。こんなにも生き生きとバイオリンを弾き、沿道にまで観客を増やしている。写
「佐倉さん、あなたたちの可哀想な話は今はどうでもいいんです。葉山に矛先が向かったことを知りたいんです、俺たちは!」三洲が進まない話に苛立ちを見せる。そこで自分がたたされてる現実に戻され「申し訳ありません!軌道修正します」佐倉氏が謝罪する。そして、月詠にどうして高校生の時から葉山を知っているのか聞いた。「ボクは高校生のタクミを知っていると言ったが、ここにいる3人のことも知っている」それは祠堂メンバーを知っているということか?「どういう意味だ!」三洲がその先を早く言えと言わんばかり
「遅くなりました。お待たせして申し訳ありません」障子を開け、正座をし、手をついて頭を下げる。その姿はやはり巫女だなと感心する。しかし風呂に行っていたんじゃないのか?出会ったときと同じ格好なんだが。「大丈夫!ぼくたちも今揃ったところだから。ね、ギイ」「ああ、そうだな」「咲耶ちゃん、ここにおいで」タクミはそう言って自分の横を勧めた。章三とタクミの間の椅子。まぁ、オレとタクミの間を勧めなかっただけマシか…しかし、いつの間にこんなに親しくなってたんだ?しかも顔見知りである二人の間に
なんだが、長雨に入ってからスッゴク長くなってます…。一度長くなってすいません!と謝罪をいれましてもう少しで終わると思う…なんて書いてたような気もするんですが…なにぶん、話の構成を立てずにツラツラとポチるので迷惑をかけてる次第と言うわけです…(T_T)もうほんとに飽きちゃった!読むのめんどくさい!なんて思ってる方もおられるでしょう…そんな方々にはタダタダ、謝罪しかございません…m(__)mそれでも読むよっていうキトクナ方、感謝しかございません!段々と雨も止んで来てるように見えてきま
「で、どうだったんだ?感想を聞いてやるよ。それと聞きたいことがあるなら、分かる範囲で答えてやる。多分僕より三洲の方が詳しいだろうがな。もし、僕でわからないことなら三洲に聞けばいいさ。答えてくれるかわからんが…な」やはり、思った通り章三より三洲の方が近かったのか。ラインの繋がりも章三より多いとは思ったんだ。なら感謝は三洲にも伝えないと。「三洲、こっちに来れるか?」タクミの傍に居た三洲に声をかける。無表情のまま振り返りオレを見た。「何か用か?お前といるよりここに居たいんだが…」そのク