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さよなら、サヨナラ……大切な人8131休み明け出勤すると|あの人《遠野さん》から招集がかかった。招集をかけられたのは私と小暮さん。私だけじゃなくてよかったわ。社食を急いで終えるとせかされるようにして私たちは仕事で使うブースのうちの一つに席を取り、各々チョイスして購入した飲み物をテーブルに乗せて彼女の話を聞く態勢を整えた。じき、遠野さんのマシンガントークが始まる。「掛居さん、小暮さん、私……大変なことを知ってしまったの。あぁ~、知りたくなかったわぁ~。アタッ
さよなら、サヨナラ……大切な人8130「そうでしたか。昨日はそんなことがあったんですね、ちっとも知らなくて。ほっとしました?」「うーん、ほっとした。ストーキングはメンタルやられるよ」「相原さんてモテそうだから……。今回で何人目ですか?ストーキングされたの」「いやいやいやぁ~、今回のようなのは過去に一度も……」と言いながらハッとした様子の相原さん。何かを思い出して困っているようだ。「過去に一度や二度はやっぱりあるんですねー」「いやっ、そんなこともないけ
さよなら、サヨナラ……大切な人8129「ようこそ、いらっしゃいませ。凛ちゃぁ~ん、さっ花ちゃんにおいで」私は相原さんから凛ちゃんを受け取る。『う~ん、愛しい重みに心が和むぅ~』「おじゃまするよ」「どうぞどうぞ。すぐにお茶淹れますね」20帖の広いリビングにはフローリングの上に絨毯を敷いてある。実は凛ちゃんの為に買ったもの。自分ひとりだとフローリングに座ることなんてないから。相原さんが凛ちゃんの為に小さなボールや絵本、積み木なんかを持ってきてくれていた
さよなら、サヨナラ……大切な人8128⌚時計の時刻を見るとすでに9時を回っている。どうしようか……。迷った末、花は相原にメールを送った。「こんばんは。こんなに遅い時間になってからの申し出なので都合がつけづらいかもしれませんけど、明日よろしかったら凛ちゃんと一緒に我が家のルームツアーにいらっしゃいませんか?まだ片付けが完璧ではありませんが完璧を目指していたらきっと、いつまで経ってもお誘いできないと思うので見苦しいところは目を|瞑《つぶ》っていただけたらと思
さよなら、サヨナラ……大切な人127今週の夜間保育のあった日も、遠野のなんらかのリアクションがないとも限らずそれを恐れて、相原が『送るよ』と言ってくれたのに大事をとって花は電車で家に帰った。楽しいドライブTimeもなく、そして少し期待してしまっていたカフェでのモーニングの誘いもなく、花は土曜の夜を迎えてしまった。恋人でもあるまいし、必ず一週間に一度、二人だけの時間を過ごすなんてこと、決まってないし確約もされていない。それなのに新しい週が始まる前に一度彼と会わなくち
さよなら、サヨナラ……大切な人126「サーコ、悪いけど凛連れて少しの間、外出てて」「あぁ、健ちゃん、わかったわ」沙江子がジャケットを掴み凛を連れて出る時、遠野は玄関から一旦共用廊下に出て道を開け、凛たちがエレベーターに向かって歩き始めるとまた玄関の中に入り直した。だが相原は部屋の中に案内はせず廊下に佇み、玄関で立ったままの遠野と、そのままの状態で話を済ませようとした。「驚いたよ。|家《うち》の住所、どうやって知ったの?」「いきなりですみません。あのぉ~、いきなりつ
さよなら、サヨナラ……大切な人125花がそのような楽しい週末を相原と過ごした後、またまた一週間が経ち、夜間保育の金曜を迎えることになり、また遠野の突撃があるのではないかと怯えていたが……それもなく、金曜の夜間保育はいつものように穏やかに過ぎていった。ただ油断はできず、残念ではあるが、花はこの日も相原の車に便乗させてもらうことを見送った。◇◇◇◇◇顛末先週に引き続き掛居をモーニングに誘いたかった相原だがこの日は沙江子が凛に会いに
さよなら、サヨナラ……大切な人124先週相原さんから請われて約束しちゃった私の家のルームツアー、どうしようかなっ。遠野さんの顔がチラついて積極的な気持ちになれないのよねぇ~。今すぐというのではなくても、気持ちが切り替わって招待しようってなった時の為に休日は整理整頓を心がけよう。昔からストレスのある時ほどどういうわけか部屋の片づけが進むので、ちょうどいいじゃない?と、遠野さんのことも前向きに捉え、土曜は半日を片付けに割いて過ごした。入浴を済ませてあとはまっ
さよなら、サヨナラ……大切な人123なんか、どっと疲れを感じた。遠野さんったら、やってくれたわねぇ~。自分の恋愛ごとに周囲の人間を、それもいきなり巻き込むなんて由々しきことだわ。それにしても、遠野さんの片思い、恋心を相原さんに話すというのも何かちがうと思うのでここは静観するしかないのかなぁ。遠野さんの積極的と言えば聞こえはいいけれど、強引なところを見せつけられ、つい島本玲子のことを思い出してしまう。自分の想いを成就させるためには手段を|択《えら》ばず、
さよなら、サヨナラ……大切な人122「ちょっと疲れてたからしばらくの間掛居さんにお願いして休憩してたのよ。いらっしゃい、遠野さん。この間はご希望に添えなくて申し訳なかったわね」「いいえ、気にしないでください。社内規定なら仕方ないです。今日は私も掛居さんと同じように凛ちゃんパパに『お疲れさまです』って声掛けさせていただいてもいいですか?」「3人もの美女から声掛けされて凛ちゃんパパも少しは疲れが取れるかしらね」芦田さんが当たり障りのない対応をしていると、ちょう
さよなら、サヨナラ……大切な人121週明け出勤後、何となく私は遠野さんのことが気になってしようがなかった。芦田さんに直談判に行ったという遠野さんだったが、その後2度ほど一緒に昼食を摂った時も小暮さんがいたせいかもしれないけど相原さんや芦田さんの名前が出ることはなかった。彼女は唯一のとっかかりを失くしてアプローチを諦めたのだろうか。そんな風な思いを抱いて一週間……。また金曜の夜間保育の日がやってきた。別段相原さんから緊急連絡は入ってないので今日も彼は
さよなら、サヨナラ……大切な人120「いえ、別に私はそういうのは……」「ええ、ええ。分かってます。私の勝手な言い草だと思ってスルーしてね。あぁ、面白がったりしているわけではないことだけは分かってね。ただの私の勝手な想いなの。もう恋愛なんてっていう難しいお年頃になっちゃったので、自分を可愛らしい掛居さんに置き換えて妄想して楽しんでるだけ。私じゃあ相原さんのお相手には絶対なれないから、ふふっ」「可愛らしいだなんて……ありがとうございます、ふふっ。じゃ
さよなら、サヨナラ……大切な人119「こんばんは」「あぁ、掛居さん、ちゃんと来てくれて良かったわ」「……」「いやぁあのね、週初めに遠野さんから掛居さんに代わって夜間保育をやらせてほしいってお願いされてたのね。それで何気にまたなんでそういう気持ちになったのか訊いてみたの。そしたら夜間保育には必ず相原さんのお子さんがいるっていうことを掛居さんから聞いたのでって彼女が言ったの。その時は私も全然遠野さんの意図が読めなくて何も考えず『凛ちゃんのファンなの?』って訊
さよなら、サヨナラ……大切な人118遠野さんだったら私のように匠吾や島本玲子から逃げ出したりせず、各々と向き合い対決して怒りをぶつけたり、折り合いをつけたりと、自分でちゃんと決着つけられるのかもしれない、とふとそんなことを思った。当時の私は無防備で、相手に依存し安心しきっていた上に完璧を求め過ぎ、そして何より弱すぎた。ある日突然終わってしまった私の悲しい恋と恋心。あの日から私の時間は止まってしまった。私はちゃんと生きているのかな?時々戸惑いを覚える。あん
さよなら、サヨナラ……大切な人117遠野さんの分かってます発言はほんとに分かっていての発言なのか、非常に怪しい。最後の含み笑いは私を困惑させるのに十分な威力を備えていた。周囲には隠して付き合っている、というストーリーが彼女の頭の中で展開されている節がある。何故なら相原さんと付き合っているのか、という問いかけはなかったからだ。まぁあれだ、彼女は小説を書く人だから、一般人よりは妄想たくましい可能性はあるよね。相原さんとデートしたことなんて絶対知られない
さよなら、サヨナラ……大切な人116◇遠野理子のびっくり箱「|皆《みんな》モチモチしていて可愛かったぁ~、大満足ぅ~。掛居さんが抱っこしてた子って凛ちゃんですよね」「あぁ、うん。でもどうして……」遠野さん、どうして凛ちゃんのこと知ってるのだろう。「実は2回ほどひとりで昼休みに子供たち、見に行ったことがあって芦田さんから聞いてたんです。夜間保育のことか休日のサポート保育のこととか。私、ちょっと後悔してるんですよー」「えっ?」「その理由が姑息過ぎて余り大きな声で
さよなら、サヨナラ……大切な人115「じゃあここで。すみません、送っていただいて。今日はいろいろとありがとうございました」「いや、これしきのこと。しかし……ひゃあ~、まじまじとこんな間近で見るのは初めてだけどすごいね、35階建てのマンション。今度さ、凛も連れて行くからお部屋見学してみたいなぁ~」「いいですよ。片付けないといけないので少し先になりますけどご招待しますね」「ありがたや。一生住めない物件だから楽しみにしてるよ。じゃあ」「はい、また明日」い
さよなら、サヨナラ……大切な人114「えーと、私と一緒に食事して怒ってくる恋人的存在の女性がいたりってことはないですね?後でトラブルに巻き込まれるのは困るのでここは厳しくチェックさせていただきます」「掛居さん、子持ちなんて俺がどんだけ素敵オーラを|纏《まと》っていても誰も本気で相手になんてしないから。そういう心配はないよ」「えーっ、そういうものなのかなぁ~。私は凛ちゃんみたいな可愛い子、いても気にしませんけど……。あっ、私ったら余計な一言でした。恋人になりたい
さよなら、サヨナラ……大切な人113相原さんとの初デートは音楽と美味しい食事、そして語らえる相手もいて思っていた以上に楽しい時間を過ごすことができた。こんなに近距離で長時間、洒落た時間を共有したことがなかったので、朗らかに活き活きと話をする相原さんを見ていて不思議な感覚にとらわれた。私はこれまで交際していない男性と一緒に食事をするという経験がなく、世の中には恋人ではない異性の同僚と一緒に食事をするという経験のある人ってどのくらい居るのだろう?なんて考えたりした。
さよなら、サヨナラ……大切な人112お礼に、たぶんだが……何かご馳走してくれるらしいけどそれを彼は『デート』と表現した。シングルなのか既婚なのかは知らないけれど今でこそ子持ちパパだからデートする特定の相手がいるのかもどうかも分からないけど、独身だった頃はあの見た目と積極的な性格を見るからになかなかな浮名を流していたのではなかろうか。初めて社外でプライベートに会うのに『デート』という言葉をサラッと使ったところを見ての私の感想だ。私たちの初デート?は相原
さよなら、サヨナラ……大切な人111メールアドレスを残して帰ったものの、相原からは次の日の日曜Help要請が入らなかったので体調は上手く快復したのだろう。今日は出社かな、週明け、そんな風に相原のことを考えながらエレベーターに乗った。自分の後から2~3人乗って、ドアが閉まった。振り返ると気に掛けていた|人《相原》も乗り込んでいた。「あ……」「やぁ、おはよう」「おはようございます」挨拶を返しつつ私は彼の顔色をチェックした。うん、スーツマジックもあるの
さよなら、サヨナラ……大切な人110気が付くと、凛ちゃんの『あーぁー、うーぅー』まだ単語になってない言葉で目覚めた。ヤバイっ、つい凜ちゃんの側で眠りこけてたみたい。私はそっと襖一枚隔てた隣室で寝ているはずの相原さんの様子を窺った。『良かったぁ~、ドンマイ。まだ寝てるよー』私の失態は知られずに終わった。私はなるべく音を立てないよう気をつけて凛ちゃんの子守をし、彼が目覚めるのを待った。しばらくして起きた気配があったので凛ちゃんを抱っこして近くに行くと、笑えるほ
さよなら、サヨナラ……大切な人109「知りませんよー。適当に話を合わせただけなので」「酷いなー。俺との付き合いを適当にするなんて。雑過ぎて泣けてくるぅ」ゲッ、付き合ってないし、これからも付き合う予定なんてないんだから適当で充分なんですぅ。「別に雑に接している訳ではなく、分別を持って接しているだけですから。そう悲観しないで下さい」「掛居さん、俺とは分別持たなくていいから」「相原さん、私、今の仕事失いたくないので誰ともトラブル起こしたくないんです。特に異
さよなら、サヨナラ……大切な人108「ね、真面目な話、どうして保育士の仕事してるの?」「ま、簡単に言うと芦田さんにスカウトされたから、かな」「ふ~ん、相馬から苦情来ないの?」「相馬さんにはその都度仕事の進捗状況を聞いて保育のほうに入ってるので大丈夫なんですよ~」「ね、相馬ってどう?」「どうとは?」「……仕事振りとか?」「相馬さんとはバッチし上手くいってますよ」「……らしいよね、周りの話を聞いてると」「周りの話って?」「相馬ってさ、甘いマスクの高身長で癒し系だ
さよなら、サヨナラ……大切な人107相原さんのお宅は120戸ほどある8階建てのマンションだった。「こんにちは~、お加減いかがでしょうか」「熱が出ちゃってね。一人ならなんとかなるだろうけど、チビ助の面倒までとなるとちょっとキツくてね。Help要請してしまったんだけどははっ、掛居さんが来るとは予想外だった。なんかヘタレてるところ見られたくなかったなぁ~」『へーへー、そうですか。私も来たくなかったけどもぉ~』と子供っぽく心の中で応戦。「芦田さんじゃなくてスミマ
さよなら、サヨナラ……大切な人106「そういうことなら相原さんはやっぱり掛居さんにお願いしたいわ。実は……掛居さんだから話すけど、私はカッコイイ|男性《ひと》は緊張しちゃって駄目なのよー。おばさんが何言ってんだーって笑われそうだけど。そんなだからこの年になっても未だ独身なんだけどね」「芦田さん、私は笑いません。私も相手が素敵な|男性《ひと》だと同じです。緊張しますもん」相手に合わせて?調子のいいことを言いながら自分自身に問いかけてみる。私
さよなら、サヨナラ……大切な人105「お待たせしました、掛居です」「休日でお休みのところ、ごめんなさいね」「いえ、大丈夫です。自宅訪問の件ですが行けます。伺う時間とサポート内容、場所、それから滞在時間の目安など教えていただけますか」「有難いわ、助かります。詳細は後からメールで送るわね。掛居さんに担当してもらうのは相原さんなの。場所は……」私は『相原』という名前を聞いた途端、頭やら耳の機能が停止してしまったようで、芦田さんの話してる言葉が何も入って来なかった
さよなら、サヨナラ……大切な人104◇突然の嵐夜間保育に係わるようになって3ヶ月目、秋も一段と深まり時に寒さが身に染みる季節になってきた。あぁ、仕方がない、重い腰を上げる時がやってきたのだ。本格的に冬物の衣類を収納ケースから取り出し、クローゼットに吊るさないとなぁ~などと花が休日の予定をぼぉ~っと考えながらまったりと寝起きのミルクティーで身体を暖めているところへ、芦田からの1通のメールが届く。三居建設(株)の子育て支援はほんとに手厚い支援体制になっていて
さよなら、サヨナラ……大切な人103目の前の女は俺の問い掛けには答えず、涙をためた目を見開いて穴の開くほどじっと俺を見ている。ここで俺は大人げないことをしている自分の所業に気が付き、恥ずかしくなった。そうだ、なんでこんなに彼女のことを構うんだ。相馬の彼女だというのに。自分の愚行にどっと疲れを覚えた。ボタンから俺の指が離れ扉が開いた途端、スルリと彼女は俺の前からすり抜けて行った。|相原清史郎《あいはらせいしろう》は周りから見られているイメージとは180℃違っ
さよなら、サヨナラ……大切な人102『あと一日出勤したら休みだぁ~、あと一日がんばっ、そしたらたっぷり朝寝して過ごせる休みなのよぉ~』と仕事帰りにも係わらす身も心も軽やかなまま、花は下へ降りるエレベーターに飛び乗った。体制を変えて振り向くと目の前に後から乗って来た相原が目の前に飛び込んで来た。『えっ、えっ、どどっ、どうしよう』私が押すはずだったボタンを彼が押した。「掛居さん、何か俺のこと避けてない?」『するどい、避けてますぅ~、なんて言えないよね。……