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「どうぞ。目を開けていいよ、中森青子さん。」そう言われて、青子は目隠しを外され、ゆっくりと瞼を上げる。「ここは・・・。」呟いた青子の目の前に歩み寄る人影。おそらく外国人だろう。青い瞳に透き通るような白い肌。ゴールドに輝く髪は肩までまっすぐ伸びて、見るからに上質のジャケットと相まって、その人をより高貴に見せていた。その人が青子に優雅な笑みを浮かべ言った。「ここがどこだか、わかるよね。君には・・・。」その問いに青子は頷くと、微かに目を細め、視線だけで部屋の中を見回した。そこがどこ
昴さんが部屋を出ていって間もなく、俺も部屋を出ようと、扉の取っ手に手を掛けた。その時、押し出された扉に押されて俺はその場で尻餅をつく。「いってぇ・・・。」「大丈夫ですか?コナン君。」たずねた昴さんが俺の前でしゃがみこんで立膝をついた。「黒羽君が部屋の中にいなかったので家中探してたんですけど見つかりませんでした。」「えっ・・・?」その言葉に俺は大きく目を見開き顔を上げる。「昴さん、今なんて・・・。」呟いた俺に昴さんが首を傾げる。「だから、黒羽君が見つからなかったと。どこにいった
玄関で彼女がいないことを確認した俺は、すぐにあいつの部屋に向かった。「おい!!彼女がいないぞ!!」ノックもせずにドアを思い切り開けて俺は部屋に駆け込んだ。だが、そこにいたのは、一足先にあいつを探しに来ていた昴さんだけだった。「コナン君。」「昴さん。あいつは・・・?」たずねた俺に昴さんは窓を指さして険しい顔をした。「あれを見てください。」「あれ・・・窓の鍵が開いてる?」俺は窓際に駆け寄ると、普段はぴっちりと閉じられているはずのカーテンが半分だけ開いている事。それに、外側のシャッ
バタバタバタッ名探偵がオレに辛辣ともいえる言葉を残して部屋を去ってからほどなくして、廊下から聞こえてくる足音にオレは耳を澄ませた。人の足音というのは、それだけでいろいろな情報を教えてくれる。その人間の体格、さらには、感情までも読み取る事が出来る。オレがきいたその足跡は、ものすごく歩幅が小さかった。つまり、対象人物は子ども。この家の中でそれに当てはまるのは、あの名探偵しかいない。それに、いつもは静かなこの屋敷の中で、あわただしい駆け足で走る足音。それは、間違いなく非常事態を表してる
「昴さん。頼みがあるんだけど。」俺が声を掛けると、キッチンでティーカップを洗っていた昴さんが水道のハンドルをひねり振り返る。「どうしました?コナン君。」「彼女を至急アメリカにいる中森警部のところに送れる様手配してくれないかな。」「それはまた急に、どうして?何かあったのかい?」その問いに俺は先ほどのあいつとの会話を思い出して掌を握りしめた。「あいつと話しててわかったんだよ。あいつには彼女は守り切れない。その覚悟もない。いざとなったら必ず逃げ出す。あいつはそういうヤツだって。」俺がそう
「いかがですか?」リビングで青子の前に並べられた紅茶の入ったティーカップと昴さん手作りのクッキー。「お・・・おいしいです。」「そうですか。良かった。」応えた青子に、昴さんが細い目を更に細めてにっこりと微笑む。「少し落ち着きましたか?」その問いに、青子は両手でカップを包み込むように抱えたまま小さく頷く。「すみません。恥ずかしいところを・・・。」「いいんですよ。気にしないでください。それに・・・。」そう言うと昴さんが少し遠くを見る様な視線で青子を見つめる。「僕にも妹がいるんですよ
青子が部屋を出た後、オレがベッドの上で横になりうなだれていると、コンコンッ・・・と。扉をノックする音が聞こえた。「いいか?入るぞ。」オレが応える間もなくそう言うと、扉を開けて入ってきたのは、本来この家の家主である世界的小説家、工藤優作の息子である工藤新一。東の高校生探偵として世間の注目を集め、一時期は警察の救世主とまで呼ばれていたが、今はとある組織に毒薬を飲まされたとかで体を小さくされ、身を隠す為に江戸川コナンと名乗る名探偵だった。「まだ返事してねぇけど。」「バーロ。元々ここは俺の部
バタンッ・・・と。青子が部屋を出た後、そう強い音を立てて扉が閉まった。その大きな音に青子はびっくりして立ち止まり振り返る。「えっ・・・?」その瞬間、スーッと頭が少し冷静さを取り戻していくのと同時に、心の中で湧き上がってくる感情で目許に涙があふれてくるのを自覚する。「快斗のバカ・・・。」呟いた青子はその場で俯くと思わずぺたんと力をなくして座り込んだ。後から後からあふれてくる涙を手の甲で拭って。それからハッとして後ろを振り返り、再び閉まったままの扉を数瞬見つめると、立ち上がり急いでそ
しばらくして、オレはゆっくりと顔を上げた。まだオレの中で、青子との口づけの余韻が残っていて。オレはじっと目の前の青子の少し潤んだ瞳を見つめる。純粋でくもりがなくて。大きくて綺麗な瞳。その瞳に見つめられて、オレはわずかに視線を逸らした。そうしないと、オレの中にある邪(よこしま)な気持ちを見透かされてしまいそうだと・・・。そう、思ったから。青子にもっと触れたい。抱きしめたい。青子にすべてを伝えてから、オレの中で膨れ上がっていくその気持ち。オレのすべてを青子に伝えたい。そして、
「快斗君。コーヒー飲むかい?」「はい。あっ、オレいれましょうか?」問いかけたオレに中森警部が顔を上げる。「ああ、じゃあ頼むよ。」応えると、警部は台所にある洗い物を食洗機に入れながら片づけを始める。オレは、その横で警部とオレ、2杯分のコーヒーをつくる為、コーヒーメーカーに豆を入れて水をセットした後、オンのスイッチを押した。いつも朝食は、青子とオレと警部、3人で食べて片づけをしてから出かけるんだけど、今日は青子が早出する用事があるというので、青子を送り出した後、オレと警部の二人で片づけを
『100万ドルの五稜郭』の少しだけネタバレを含みます。また、後日談なので、そのあたりは創作となります。まだ見ていない方、イメージが崩れるのを懸念される方は、ご了承いただいた上での閲覧をお願いいたします。-------------------------------------北海道函館で中森警部が狙撃された事件から2週間ほど、青子は学校を休んで函館の病院に泊まり込み看病を続けた。それから警部は東京の病院に転院したのに合わせて、青子はやっと学校に復帰してきた。「快斗、ただいま。」
「大丈夫。」青子が部屋に入ると、青子を抱き寄せて、口づけをして。それから少しだけ切なげに顔を伏せた快斗の顔を青子が覗き込むと、快斗はそう応えた。青子はちょっとだけ頬を膨らませると、軽く快斗の頬を引っ張って唇を引いた。「何すんだよ、青子。」ベッドに腰掛けたまま、そう、抗議の声を上げた快斗を正面から青子は抱きしめた。「大丈夫・・・じゃ、ないでしょ?」抱きしめたまま耳元でささやいた青子に快斗がハッと顔を上げると、息を吐き苦笑する。「ちょっと前の青子なら、これで軽く騙せてたんだけどな。」
快斗。覚えてる?初めて出会った時の事。青子は新しい街に引っ越ししてきたばかりで。すごくドキドキしてたんだよ。青子のお母さんは青子が小さい頃に亡くなってたから。青子はものごころついた頃から、ずっとお父さんと二人きりだった。そんな中、お父さんとお出かけする為に、あの時計台の前で一人で待ってた。お父さんはなかなかこなくて。仕事が忙しくていけないかも・・・って。そう、いわれていたお父さんの言葉も思い出して。ひとりぼっちの青子はさみしくなってきちゃったんだ。とても。泣きそうなくら
先日の事件でオレは、名探偵と哀ちゃんを狙う組織と直接関わり、今後、名探偵の戦いに自分も本格的に参戦する事になったと、春休みで上京した服部に告げた。「ホンマか、それ。」「ああ。」頷いたオレは溜息を吐く。「蘭ちゃんが攫われた。それで・・・。オレがあいつの姿を借りて助けに行って・・・。最後は全部キッドがやった事だからあいつは関係ない・・・って事にしてきた。」「さよか。大丈夫なんか?黒羽、お前はそれで。」心配そうに顔を寄せる服部にオレは応える。「他に選択肢が無かったんだよ。青子も蘭ちゃんを
コナンがあえて携帯から非通知で蘭の新しい電話番号を電話帳から呼び出し、コールボタンを押すと、ワンコール経たずに電話が繋がる。『新一!?』「蘭か?」慌てて呼びかける蘭にコナンは変声機を口許にあてながら冷静に応えた。それから数瞬後息を吐いてたずねる。「泣いてたのか?」その問いかけに蘭は何も言えない様子でしばらく沈黙が続いたが、しばらくすると、しゃくり上げる声が聞こえてきた。「やっぱり泣いてたのか。」大きく息を吐いた新一の声に蘭が泣きながら言った。『しょうがないでしょ!!』そういう
蘭は一人ベッドにもたれて机の上にある一枚の写真を見つめていた。新一と一緒にトロピカルランドに行った時に二人で撮った写真だ。その写真の中では新一も蘭も満面の笑顔で。そして、あの日を境に新一は姿を消した。新一と別れる間際、蘭は心の中で感じていた。新一がいなくなってしまう・・・と。誰が信じるだろう。そんな、ハッキリとした予感が、あの瞬間自分の中をよぎっていたという事実を。きっと、誰に話しても、それは後づけの感情に過ぎないといわれるに違いない。だから蘭は、その事を誰にも話していない。
翌日の夜、コナンは蘭には阿笠博士の家に泊まりに行くといって、工藤邸。つまり、自宅に戻っていた。夕食後、リビングで有希子が用意してくれた紅茶の入ったティーカップを持ち上げた、その時。コナンの携帯の着信音が鳴った。すぐに画面をスライドさせて電話を受けたコナンは、何度か相槌を打ちながら、最後にはフッと息を吐いて苦笑した。「わかった。まあ、想定内の結果だよ。了解。じゃあ、また、連絡する。」そう通話を終えたコナンの顔を、有希子が銀製の丸いトレーを胸に抱えたまま覗き込んだ。「もしかして、今の電
「警部。」夕食の後、快斗は警部の書斎をノックして呼びかけた。「快斗君。待っていたよ。」そう声が聞こえた直後、内側から扉が開き、目の前にはにこやかに笑う中森警部がいた。青子の父であり、警視庁捜査2課所属で階級は警部。そして、紛れもなく、怪盗キッド専任の責任者で、キッド確保の使命を負う、警察官である。本来はキッドであるはずの快斗にとって、一番の天敵であるはずの存在なのだが、今の快斗にとっては実の父親同様。時にはそれ以上に頼りになる存在でもあった。だからこそ、守りたい。警部が傷つく姿
快斗はそれから夕方まで眠り続けた。目を覚ますと目の前には青子がいた。「おはよう、快斗。」「ああ、おはよう・・・って。今、何時だ?」「もうすぐ夕方の5時になるところだよ。」応えた青子に快斗は一瞬だけ目を見開くと頭をかいた。「そうなんだ。もうそんな時間。」すげぇ寝すぎた・・・と。そう、息を吐いて呟いた快斗に青子が切なげに目を細める。快斗には時を忘れるくらいゆっくりと休んでもらいたい。正直それが青子の本音ではあったが、そうはいかない事も青子はわかっていた。「快斗、お父さんが夕飯支
カーテンの隙間からのぞいて、窓の外を見ていた快斗。(良かった。二人とも無事で。)まだ、あの組織に快斗が怪盗キッドである事がばれたわけではない。だから、二人が何事もなく帰宅してくるのは当然の事なのだが、快斗はその『あたりまえ』が何よりも大事なんだと改めて心から思った。おそらく、一晩中徹夜で働き続けていた警部も、警視庁で仮眠くらいしか取れなかっただろう青子も、そのまま家に帰って休むのだろうと思っていた。だが、その予想と反して、それから間もなくして快斗の家のインターフォンが鳴った。モニター
快斗は家の前まで来ると、まず自宅の前で足を止めた。そして、青子の家の方を見て、まだ青子達が帰宅していない事を確認すると、そのまま自宅の玄関へと向かい鍵を開ける。扉を開き、家の中に入ると後ろ手に鍵を閉めた快斗は大きく息を吐いた。「やっと終わった。」思わず零れた呟きに、自分で苦笑をもらす。緊張の糸がほぐれて思わずその場で座り込みそうになるのをぐっと堪えると、階段を上がって自室へ入り、父のパネルの前に立った。「ただいま、親父。」そう声を掛けた快斗は、上着を脱ぐと、そのまま携帯を取り出し、
快斗が帰った後、コナンは静かに、音をたてないように注意深く、蘭が眠る客間のドアを開けた。眠る蘭の横に立ち、ポケットに手を入れたまましばらく見つめていると、ゆっくりと蘭が瞼を開けた。蘭の曇りのない綺麗な大きな瞳がまっすぐ目の前にいるコナンを見つめる。「コナン君・・・。」「蘭姉ちゃん、大丈夫?」」コナンはたずねると、蘭のそばにより顔を寄せた。「大変だったね。」「うん。そうだね。でも・・・。」そう言いかけた蘭がふとベッドサイドにある携帯に視線を向ける。「これ、私の・・・。」「うん。
「それじゃ、また来ます。」夜明け前に快斗は工藤邸を出ると、そのまま一人で歩き始めた。ふと空を見上げると、濃い闇の中で空一面に瞬き輝く星に目を細める。フッと息を吐くと、少しだけ後ろを振り返り、今出てきたばかりの工藤邸を見上げた。「さあ、どうすっかな・・・。」呟くと、昨日(さくじつ)の事を思い起こし、わずかに瞼を伏せる。あの後、話は快斗にとって何よりも大切な青子。それに中森警部と寺井をどうするか・・・という事が話し合われた。優作は、組織が混乱しているだろう今のうちに、青子、警部、寺井
快斗は人気のない場所に降り立つと、腕に抱えていた蘭を下ろした。そして、蘭の腕に抱かれていたコナンがポンと飛び降りると快斗を見上げた。次の瞬間、快斗は左肩を掴むと、サッと強く引いて、本来の自分の姿へと早変わりを終える。それを何も言わずに見つめていたコナンの前に中腰で視線を合わせると蘭が言った。「コナン君は知ってたの?黒羽君の事。」「うん。」素直に答えたコナンに蘭が目を細める。「そっか。」そう言うと、蘭はそのまま快斗に視線を向けた。「黒羽君、さっきの話は・・・。」不安そうにたずね
コナンと別れた後、快斗は黒のコートを纏い闇に紛れると、夜の街を駆けて組織から送られてきたメールに書かれていた場所に辿り着いた。「あそこか・・・。」そう言って快斗は目の前にあるビルを見上げる。まるで時代の波に取り残された様なその場所は、いかにもというくらい年代物の古い今にも崩れ落ちそうなビルが立ち並ぶ地域であり、指定されたその場所はその中でもとりわけがたつきが酷く、壁も崩れ落ちて、窓ガラスも割れている。外壁も剥がれ落ちて、ビルの外側にある鉄製の非常階段も腐食してところどころ穴が開いている状
「はい、もしもし。」コナンの手の中にあったスマートフォンをサッと抜き取り快斗は自分の耳許にあてると、コナンに背を向けて話し始めた。『お前・・・工藤新一か。』「ええ、もちろん。」その問いかけに快斗は新一の声で口許を上げて応える。コナンは強く唇を結んだまま、そんな快斗の背中をじっと睨む様に見つめていた。『お前の女は今ここにいる。返して欲しけりゃ、お前一人でここに来い。サツに連絡したら、この女をぶっ殺す。』「わかりました。それで、もちろん蘭は無事なんでしょうね?」『それはお前次第だ。』
工藤邸を出た後、すぐにコナンは蘭の一番の親友である園子に電話を掛けた。それから、博士の家や念の為学校にも電話を掛けてみたが、依然蘭は見つからず、手がかりもまったく掴めないままだった。蘭が良く行くスーパーやお気に入りの雑貨店なども回ってみたが、やはり蘭は見つからず、コナンは一度探偵事務所に戻ろうと思い喫茶ポアロの手前まで歩いてきた。その時だった。「そのあたりだぜ。蘭ちゃんがお前に電話を掛けたのは。」その声にコナンは大きく目を見開き振り返る。「お前・・・。なんでここに!?しかもその恰好・
それから快斗は30分ほどパソコンで作業をすると、フッと息を吐いてディスプレイを見つめたまま目を光らせた。「見つけた。」呟いた快斗は立ち上がると、青子に行った。「青子、そろそろ警部帰ってきたろ?家に送っていくから。」「うん。でも、快斗は?」たずねた青子に快斗は目許を細め応える。「オレは行かなきゃいけないとこがあるから。」その言葉に青子は唇を強く引いて頷く。「ちょっと待ってて。」快斗はそう言うと、クローゼットの扉を開けて着替えを始めた。青子はソファーに座ったまま着替えをしている快
「快斗、コナン君から返事来た?」「うん、一応きたは来たんだけど・・・。」応えた快斗は手の中にあるスマートフォンに視線を落とした。先ほどコナンに、例のSNSについてメッセージを送ったのだが、ただ一行『それは対策済みだから大丈夫、心配するな。』と。そう返って来ただけだった。「対策済み・・・って。ホントにちゃんと見てんのか?あいつ・・・・。」そう呟いた快斗の隣で青子が不安そうな顔で快斗を見上げる。「快斗。この写真がもしその、工藤君と哀ちゃんを狙う組織に見つかった場合、一番危ないのって・・
「それじゃ、今のところ父さんと母さんの周辺では特に目立った異変は起こってないっていう事だな。」「ああ、そういう事だね。」応えた優作にコナンは頷く。その時。ポンッ・・・と。コナンのスマートフォンの通知音が鳴った。コナンはすぐに懐からスマートフォンを取り出しメッセージを確認すると、軽く息を吐いた。「たくっ・・・。それはもう既に対策済みだっての。」呟いたコナンに有希子が首を傾げる。「どうしたの?誰から?」「あいつだよ。母さんがさっき騒いでた・・・。」「黒羽くんね♪」語尾