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林の中に消えたカートは、姿を現そうとしない。「中川さん、次のホールに行きましょう」漆黒の肌を持った現地職員たちが、ドライバーを握りしめて私に英語で声をかける。彼らの言葉を聞き流し、私は双眼鏡をただ覗き込んだ。おかしい。ボールが見つからないとしても、あまりに時間がかかりすぎだ。「行きましょうよ、早く」「先に行っててくれ。ちょっとカートを借りるぜ」困惑する現地スタッフたちをその場に残し、私はカートの運転席に乗り込んだ。妻が3人に連れ込まれた林に向
深夜のリビングルーム。高鳴る鼓動を感じながら、私は画面を凝視し続けた。そこに映る妻もまた、鼓動を高め、興奮を感じ始めているに違いない。「何を始めるんですか、橋口さん」首筋を撫でてくる彼の手を優しくあしらいながら、妻は艶めいた視線を投げた。「奥さん、わかっているでしょう」「今日は中川君は帰ってきませんよ」宮野、そして北原がワインを舐めながらささやく。二人の足は、どうやらテーブルの下で妻の脚をいじめているようだ。彼らの足は妻の美脚を広げ、ワンピー
「回し飲み・・・・」林君の奥様を見つめたまま、私は言葉を失った。「奥様・・・、あの、失礼ですが、奥様のお名前は?」「佐和子です」「佐和子さん、ですか。いい名前ですね」「そりゃどうも」少しばかり和んだ雰囲気をかき消すように、彼女は言葉を続けた。「ご存知ですか、どうして中川さんが私の夫の後任として選ばれたか」私自身にとっても、確かにそれは疑問ではあった。そろそろ海外に行かされるのだろう。薄々、そんなことを考えてはいたが、まさかこのアフリカの
想像せずにはいられなかった。目の前にいる美しい奥様が、上司たち3人に、しかも夫である林君の目の前で・・・。本当だろうか。そんな私の疑念をかき消すように、奥様は言った。「主人に聞いてください。嘘ではありませんから」「・・・・」「私も奥様みたいだったんですよ、最初、この国に来た時は」「私の妻、みたいだった?」「初めて海外で暮らすことに舞い上がってしまって。今日の奥様みたいに、あの3人とも楽しくお酒を飲んで」「・・・・」「ゴルフにも連れて行っ
翌朝早く、佐助を弥太郎に任せた疾風は、吉蔵と一緒に家を出た。向かう先は、昨日、南蛮船が漂着したという島の西岸にある小さな浜である。「あっという間にこのことは島中に広がるじゃろう」木々が茂る薄暗い森の道を杖をついて歩きながら、吉蔵が言った。「急ごう、じい」「そうじゃな。あいつらが知る前に」二人の考えは同じだった。この知らせが、島の北端で優雅に暮らす武士たちのもとに届くのは時間の問題だろう。その前に先手を打たねばならない。はるか彼方の異国からやっ
荒れる波は最後まで穏やかになることはなかった。その日、疾風は吉蔵と一緒にどうにか船を操り、浜にまでたどり着くことができた。「ふう。なんとか戻ったな、じい」「疾風、ようやった」「波は高かったが、今日は大漁だ」吉蔵と一緒に、疾風は獲れた魚でいっぱいのびくを砂浜におろした。中を覗けば、数えきれないほどのアジ、そしてカワハギが跳ね回っている。「桔梗も喜ぶじゃろう」吉蔵はそう言いながら、ふと上空を見上げる。「疾風、雲行きが怪しいな」「ああ」
「来ないで!」狭い台所、桔梗は後ずさりして慶次から離れようとした。だが、彼女の腰に固いかまどが触れ、それ以上の逃げ場がないことを教える。「こんなちっぽけな家に逃げ場所なんかないことは、桔梗、お前が一番知ってるだろう」男の太い腕が桔梗の肩を撫でるように伸びてくる。「触らないで・・・・」きつい視線でにらみつけながら、桔梗は背後で手をまさぐった。「今日も疾風はおやじと海にいるんだろう」「・・・・」「波が高いな、今日は。無事に帰ってこれるかな、やろう
「おーい、疾風!」飛び跳ねるように駆けてくる桔梗。子供の頃から変わらないのは敏捷な運動神経だけではない。はっとするような美貌は、15歳になった今、さらに磨きがかかってきた。可愛さと鋭さが同居した、牝猫を思わせる個性的な瞳。長い手脚、細身のその肢体は、すでに大人の女だけが持つ性の魅力をほのかに匂わせている。膨らみ始めた胸元、丸く張り出した臀部、そして男を誘うようにくびれた腰つき。細い美脚が、砂浜と重なり、官能的に白く輝いていた。「いつもああじゃな、桔
桔梗は夢中で走った。膝丈の着物で懸命に肢体を隠しながら、息を切らして獣から逃げた。森の中に逃げ込めば、時間が稼げる。そうすれば、海から戻った疾風がきっと助けにきてくれるはず。「雨・・・・」雲行きが怪しい上空から、ぽつりぽつりと水滴が落ち、走り続ける桔梗の頬を濡らす。遠くに森が見えてきた。そこを突き抜ければ草原が広がる崖の上に続く道。桔梗は森の暗闇に身を隠すつもりだった。だが、そんな桔梗の計画を嘲笑うように、背後から慶次の声が届く。「桔梗
「佐和子・・・・」椅子に座ったまま、妻は橋口に唇を吸われていた。ワンピースが僅かに乱れ、剥き出しになった妻の肩にブラの紐が覗き見える。「奥さん、いい躰してますね」宮野の手が、ワンピースの上から妻の胸の膨らみを確かめるように動いている。「いやんっ・・・・」巧みにいじめてくる彼の指先に、妻が瞳を閉じたままうっとりとした声を漏らした。北原とも手を握り合いながら、橋口との口づけを次第に激しいものにしていく妻。「奥様、随分大胆ですね」私の後ろに立った林
「お前こそ生きているのかい」突然姿を現した慶次に対し、疾風は挑発するような言葉を投げた。旧友と言えなくもない、昔から続く彼との関係。だが、武士になると言って島を飛び出したこの男は、今はもう別の世界にいる。話すことなどない。「思ったより元気よさそうじゃないか、疾風」ようやく様になってきた武士の装いのまま、彼はずかずかと疾風の家に入り込んできた。来客を歓迎するように、佐助が声をあげて彼に飛びつく。「大きくなったな・・・」慶次は一瞬表情を崩し、足元
一人で行くと言い張った疾風に、同行を強く主張したのは吉蔵だった。「じい、来るな。俺が一人で決着をつけてくる」覚悟を決めたかのような物言いだからこそ、一人で行かせるわけにはいかなかった。本土から逃げてきたとは言え、隆景は本家の殿の弟なのである。いつの日か、兄にとって代わることを狙っているとも言われている隆景。そんな男の前で、怒り狂う若者、疾風が何かをしてしまっては、取り返しのつかないことになるだろう。「駄目じゃ。わしも一緒に行く」「じい。俺は桔梗を取り戻す
「秀吉め、関白なぞになりよって」風雲児、信長が突如この世を去ったのは三年程前のこと。その後の混乱を待ち構えていたかのように、誰よりも早く動き出したのが秀吉だった。この南の国で、隅部隆久はそんな本土中央の騒乱を睨みながら、自らの力を着実に蓄えつつあった。彼の父の代、隅部家では兄弟の熾烈な派遣争いがあった。隆久の叔父、その名は隆景といった。側室の子供であった彼は、兄との争いに敗れた後、いったん南の島に逃げ、そこで再起を図った。数年後、満を持して兄との再戦に挑
「疾風、竿を離すな!強く引くんじゃ!」ぎらぎらと輝く太陽が頭上にある。快晴ではあったが、沖に出れば出るほど風は強くなり、高まる波が小さな漁船を翻弄した。「じい、駄目だよ!全然引っ張れない!」「泣き言うんじゃない!そんなことじゃ一人前の漁師になれんぞ!」「ちっくしょう・・・、こんなでけえ獲物、無理だぜ・・・」15歳になった疾風。上背も随分高くなり、いまや精悍な若者になりつつあった。粗末な服装は相変わらずだが、剥き出しの両腕は筋肉質で、男のたくま
「中川君、行ってくれるね」朝一番に部長に呼び出された時、私は既に予感がしていた。初めての海外赴任をいよいよ言い渡されるという予感だ。だが、その赴任地は全くの想定外だった。「部長、行き先はどちらでしょうか」「うむ、それなんだがな」即答は避けながら、部長はデスク越しに私のことをじっと見つめた。今年35歳になる私と部長は20歳近く年齢差がある。緊張を感じながら、私は部長の言葉を待った。「すまんがアフリカに行って欲しい」「というと、我が社が社運
二人の後方から、勝ち誇ったような声が届く。「もう逃げられないぞ!あきらめるのじゃ!」長躯の武士が叫んでいる。その周囲には、弓を構えた何人もの武士たちが、矢の先端を疾風、そして桔梗に向けていた。「観念しろ!命だけは助けてやってもいい!」武士の言葉に、疾風は笑みを浮かべた。「俺はおまえたちの主人の命を奪った男だ!そんな戯言は信じないぜ!」草原の入口に並ぶように立つ武士たち。数十人、いや数百人いるのかもしれない。崖の端にいる二人とは、なおも距
「どうして戻ってこないんじゃ、桔梗は」吉蔵の言葉が、深夜の静寂にむなしく響いた。ようやく眠りに落ちた佐助が、布団にくるまって寝息を立てている。囲炉裏の残り火が、うす暗い家の中、3人の男の顔をぼんやりと浮かび上がらせていた。「桔梗姉ちゃんが連れていかれてから、もう十日になるよ」弥太郎がぽつりとつぶやき、隣にいる男の顔を心配そうに見つめる。彼は無言でそこにいる。「疾風・・・・」吉蔵は、彼に励ましの言葉をかけようと思い、そしてやめた。そんな言葉に何
「この嵐で流されてきたようじゃ」囲炉裏に残っていた魚に遠慮なく手を伸ばし、吉蔵は言葉を続けた。「何人かの明の商人たちと一緒に、南蛮の男たちも乗っているようじゃよ」「南蛮、か・・・・」まだ小さかった頃、桔梗と一緒に崖の上に広がる草原で駆け回った日々を疾風は思い出した。俺はいつか、この海の向こうに行ってやるんだ。無限に続く大海原の果てを見つめ、疾風はいつもそんな言葉を口にしていた。あたいも一緒にいく。もちろんだ。桔梗と一緒にいつの日か、異国の地へ
「もっと近う。楽にせい」顔を畳に向けたまま姿勢を崩さない男の緊張を解いてやるように、隆久は声をかけた。だが、緊張しているのは自分のほうかもしれない。どういうわけか、この男が広間に入ってきた時から、何か圧倒されるような雰囲気が漂い始めている。「それでは」流暢な日本語で返事をした男は、ためらうことなく、隆久との距離を縮め、改めて顔を下げた。「この家中では過度な礼儀は無用じゃ。頭をあげい」ゆっくりと顔をあげた男は、くっきりとした目で隆久を見つめた。これは
いったん引いたその手を、橋口が再びテーブルの下に伸ばす。「もう、橋口さんってば」うまくあしらうようにビールを注ぎながら、妻は妥協するように彼と指先を絡めた。誰も見ていないテーブルの下で、妻の指が上司の手に好きなようにいじめられている。「奥さん、俺たちとも仲良くしてくださいよ」妻と接するほどの距離にまで椅子を近づけながら、北原が赤ら顔で声をかける。さりげなく妻の背に置いた手を動かしながら、彼は宮野に目配せするような仕草を見せた。「奥さんはゴルフとかしな
「中川君、昨日はお疲れさん」ゴルフコンペの翌日、私を自室に呼んだ橋口は、そんな台詞で会話を切り出した。「この国で初めてのゴルフでしたから、私たちも存分に楽しめましたよ」「そうかい。そりゃよかった」意味深な笑みを浮かべながら、橋口が答える。妻のことを考えているんだろう。私はそんな想像をしながら、上司の言葉を待った。「奥さんは何か言ってたかい?」「皆さんと一緒にラウンドできて、とても楽しかったと」「久しぶりに女性と一緒のゴルフで、私たちもちょっと
「この場所が一番好きよ、わたし」久しぶりにここにきた気がする。漁に出る毎日を、ただ夢中で過ごしてきた疾風。小走りに先を行く桔梗の後ろ姿を見ながら、彼は幸せな気分に浸っていた。ギラギラと照りつける南国の太陽、吸い込まれそうな青空、そして水平線にまで広がる紺碧の海。変わらないや、ここは・・・。疾風もまた、桔梗と同じ気持ちだった。子供の頃から彼女と転げるように遊びまわった、崖の上に広がる草原。島の中で、疾風はこの場所が一番好きだった。桔梗と一緒に来
「逃すな!」主人、隆景が絶命したことを受け入れられぬまま、一人の武士が叫んだ。先刻、吉蔵を切りつけた武士だ。砂の上を、鹿のように身軽に飛び跳ね、高速で駆けていく桔梗。庭のように知った土地だ。過去の記憶を呼び起こしながら、桔梗は全力で走った。「何をしておる!その女を逃すな!」隆景がどういうわけで命を奪われたのか、それを知る武士は誰もいない。彼らの耳には、その瞬間に空気を引き裂くほどに響いた乾いた轟音だけが残っている。「未知の武器じゃ・・・・」
「慶次、早くってば」服を剥ぎ取られた上半身を隠そうともせず、桔梗はその胸元を彼の口に近づけた。「慌てるなよ、桔梗」懸命に興奮を先送りしながら、慶次は桔梗の首筋、そして鎖骨のあたりに舌を這わせていく。体験したことのない震えるような感覚が、桔梗を何度も襲う。やめてっ・・・・彼の頭を抱え込んだまま、桔梗は密かに顔を歪め、顎を上に向けて小さく首を振った。「声出していいんだぜ、桔梗」女の胸のふもと付近に口づけを与えながら、先端をもう一度つまんだ。「あっ
「消えろ・・・・」激しい雨足に突き刺さるような咆哮をあげた後、疾風はそうつぶやいて慶次を解放した。ふらふらになった慶次は、もはや反撃をしようとはせず、ただ疾風を睨みつけるだけだ。「疾風・・・・」「早く消えろ、慶次」息を荒げた二人が、互いに何かを伝え合うように見つめあう。「疾風、勘違いするんじゃねえぞ」「何をだ?」「俺を殺さなかったお前に、俺は何の恩も感じちゃいねえ」「ふん、そうかい。それで結構だ」「お前に見逃してもらったなんて、俺は微塵
「すげえや、これは」船の中、小さな部屋に案内された疾風は、見たことのないもので溢れかえったその空間に圧倒された。壁には、大男と同じように金色の髪の毛を持った美しい女を描いた絵が飾られている。その女は一糸もまとわず、生まれたままの姿を曝け出していた。白く透き通った肌、豊満な胸元、そして下腹部に広がる妖しげな茂み。男を誘うような女の視線に、疾風はごくりと唾を飲み込んだ。「綺麗なおなごじゃ」吉蔵が思わずつぶやく。部屋の中央には巨大な台、四本の長い脚を備え
ゴルフ場はダウンタウンから車で1時間ほどの郊外にあった。アフリカのイメージとはかけ離れ、綺麗に整備された広いコース。南国の太陽、そして眩しいほどの青空の下、これ以上ないほどに濃い緑が広がっている。「少し先にはサファリパークがありますよ」私と一緒に回る現地のスタッフがそんなことを教えてくれた。「猛獣がうろついてますから、気をつけてください」そんな忠告は、私にアフリカにいるという現実を改めて教えてくれる。少しばかりゴルフ経験がある私は、本来であれば今日は存分
自宅で酒を飲むことは、私には随分と珍しいことだった。しかも酒の席でもあまり口にはしないウイスキーのボトルが、目の前のテーブルに置いてある。深夜のリビングルーム。何も知らない妻は、既に寝室で熟睡している。「・・・・」確かな緊張を抱えながら、私は氷が入ったグラスに黄金色のアルコールをゆっくりと注いだ。「どうだった、変わったことはなかったかい?」「あっという間の1週間だったわ、あなた」昨日、隣国への出張から戻った私に、妻は以前と変わらぬ様子で笑顔を見せた
砂浜の男たちがゆっくりと動き始めている。それまで集団で騒いでいた連中が、四方に散るように歩き、それぞれがその場でしゃがみこんでいる。白い砂に身を埋めるかのように、身を伏して顔だけを上げている男もいた。何かに怯えるような雰囲気、しかし、同時に好奇な視線を中央に一人残った男に注いでいる。「あの怖がり方。弓矢の試技にしては少し大袈裟じゃないか、じい」「そうじゃな。うーん、どうも様子がおかしい」遠く離れた場所に柱にのように立てられた細い木の上に、弓矢の的のような四角い
「よく来てくれたね。さあ、今日は中川君そして奥様の歓迎会だよ」到着した翌日、会社の先輩駐在員が早速ささやかな歓迎会を催してくれた。この国の首都から車で8時間。一応、第二の都市なのだが、生活環境はすこぶる悪い。そんな街に唯一ある欧米系チェーンのホテル、そして唯一ある中華レストラン。夕食会はそこで開催された。年間を通じて、日中は30度を超える日が続く。半袖の解禁シャツのラフな装いの先輩社員は、計3名。40代から50代、全員が単身赴任で、既に駐在3年目に