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「わあ〜可愛いコッソンピョン!」松餅が出されるとウンスは小さく歓声をあげて手を叩く「この時代でもこんなにいろんなコッソンピョンがあるのね食べるのがもったいないわ〜…食べるけど」そういって松餅を頬ばる栗鼠のような愛らしいウンス「うん美味しいなんだかほっとする素朴な味だわ貴方も食べて……ねぇヨンァ五味子茶どんな味がした?」ヨンが一口ソンピョンを食べ五味子茶を飲んで茶碗を卓に置いた途端
夕餉後部屋に戻ったヨンとウンス扉を閉めるなりウンスを抱きしめヨンは口づけた「どうしたの?」口づけの合間にヨンと額を合わせながらウンスが聞いた「昨日まではずっと一緒にいたゆえ離れてる時間が長く感じて…イムジャのことが心配なのです」ヨンが苦しそうに答えた今日兵営に来たばかりなのにすでにウンスを見染めた輩がいる気がした「私は無事で今貴方の腕の中にいるわ」ヨンは首筋に顔を埋めてウンスの香りを深く
ジテの日誌の何冊目か——俺は目を奪われる記述に出会った。都から北の領地に戻ったジテが、懇意にしていた寺を訪れた折。そこでジテは、驚きの光景を目にする。荷車に轢かれ負傷した少年を、ある女人が治療する、というくだり。『……その女人は世にも稀有な道具を使い、少年の傷を縫い止めていた。痛みに喘ぐ少年を、大人数人がかりで押さえ込むのへ、叱咤激励しながら治療を終える。その医術は素晴らしく、都にもこれ程の医員はいないと思われる。そしてその姿形の美しさ。このように美しい女人を、我は見た事がなか
《2024年1月19日改定》王宮から歩いて半時辰(約一時間)馬で駆ければ一刻(約十五分)程の、閑静な通りにヨンの生家がある。ヨンの父が亡くなり、ヨン自身も赤月隊に入ってしまうと屋敷は誰も住む者がいなくなり、長い間その扉を閉ざしていた。ヨンとウンスは婚姻後、晴れてその屋敷の主人となり、新婚生活を送っている。もちろんテマンも一緒だ。ヨンは毎朝屋敷から王宮へ出仕していき、ウンスは家を護る。高麗で十の指に入るほどの名家であるチェ家の屋敷は、流石というべき立派な構えだったが、暫く空き家だっ
【少し直接的な表現があります】【原作の雰囲気を大切にされる方にはお勧めできません】「俺が使っている物は、杉の香油と蜜蝋を用いて作られているそうです」チェ・ヨンの言葉を受け、私はふとその香りに思い当たるところがあり、無意識の内に温かな胸元に鼻を押し付けた。甘さを含んだ涼やかな香りを嗅いだ途端、胸がすくような心地になって、思わず笑みが漏れる。「そのハンドクリーム、きっと貴方の肌と同じ香りがするわね」特におかしな事を言ったつもりも無かった。けれど、美しく整った男らしいチェ・ヨンの顔が
金青の空が徐々に白さを増して、忘れがたい長夜に幕を引こうとしていた。目当ての物を探し当てた俺は、蔵の戸に施錠し直し母屋へ引き返した。閨室に足を踏み入れると、濡れた髪を拭き終わったイムジャが、何やら熱心に毛先を眺めている。「イムジャ。髪を梳いて差し上げましょう」俺は母の遺品である黒松の櫛を使い、豊かな蘇芳色の髪を慎重に梳(くしけず)っていく。「長い間蔵に仕舞い込んでいた品ですので、行幸啓から帰ってきたら、きちんと油を塗って手入れをして差し上げます」そのまま使い終わった櫛を手渡すと、大き
「あ…チェ・ヨンさん。お帰りなさい!」兵舎一階の大広間に足を踏み入れた俺を出迎えたのは、イムジャの朗らかな笑顔だった。予想外の出来事に、先程までのチェ尚宮とのやり取りが鮮明に脳裏に蘇り、顔を見られた嬉しさよりも、僅かばかりの後ろめたさが先に立つ。「何をしていらっしゃるのですか」この方の前には非番の隊員達が、皆一様に明るい表情で列を成している。「行幸啓に行く人達に、健康診断を受けてもらおうと思って」「健康…診断…ですか」「旅先で急に体調不良にならないように、事前に診察させてもらってる
前夜すっかりヨンに悪戯されたっぷりヨンに愛されて周りの生活音をものともせずにウンスは熟睡していた昼前になりごそごそ何かが胸を這うような違和感で目が覚めた「起こしてしまいましたか?」ちっとも悪びれず満面の笑顔のヨンあ〜ダメだってその甘々の笑顔可愛すぎる〜蕩けそうなんでも許してしまいそう私だけが知ってる私だけに見せる顔もうたまらん今朝もひとしきり脳内で身悶えるちらっと胸元を見下ろすとヨンが聴診器を当ててウンスの心音を聞いている「ねぇチェ
大広間の中央に置かれた大きな机の上に、次々と料理が並べられて行く。豆もやしのクッパを始め、貝の和え物や大根の水キムチ、冬野菜のジョンなどが、それこそ所狭しと。先程味わった恥ずかしさは、強引に頭の隅へと追いやって、私は食欲をくすぐる匂いを、鼻から思い切り吸い込んだ。「凄い。美味しそう!」両手を打ち鳴らして歓声を上げた私に、マンボ姐さんは満足そうに笑って頷く。「たんとお食べ。何かあったら呼ぶんだよ」そのまま慌ただしく店内へ戻って行ったところを見ると、今日は客足が好調なようだ。最後にチェ
案内され入った部屋にヨンは顔を顰めた静かに集中せねばならぬのに焚かれていた麝香が邪魔をした酒に混ぜられた薬を中和するだけだ時間はかかるまい蝋燭の灯が揺れるヨンは結跏趺坐しウンスを思い浮かべた昔は運気調息の時はメヒの名を呼んでいたのにウンスでなければならなくなったのはいつからだろうヨンは丹田に気を集中させるウンス…名を呼ぶといつもウンスを初めて見た瞬間の凛とした姿が浮かびあがり小菊を差し出し
※こちらは、拙作『菊花恵愛』の続編です。そちらを済まされてからお読みいただけると、お話が繋がります。よろしくお願いいたします♡(^人^)◆相聞歌(そうもんか)……恋の歌。恋人同士の間で詠みかわされた歌。[ブリタニカ国際大百科事典小項目事典より]............................................................どれくらいの間そうしていたのか……気が遠くなりかけて、私は、はぁ、と口付けの間に大きく喘いだ。それを合図のように、私
「何をしようとしてるのかって聞いたわね。私は貴方と愛し合いたい、そう言っているのよ」一聴甘いように聞こえる言葉を口にしながらも、イムジャは緊張した様子で何度かこくりと喉を鳴らし、腰に回されたままの両手は微かに震えている。恐らくこの方は、先程の件を有耶無耶なまま終わらせるべきではないと考えているのだろう。胸底に沈む重石の如き苦悩を取り除き、どうにかして俺の心を救いたい…その為に約束などという言葉を盾に取ったに違いない。もし今ここで俺が引いてしまえば、この方が震えながら絞り出した勇気すらも、
そう言えば、って、後から気づく事っていろいろあるけど——妊娠もそのひとつだったわ。妊活を始めてから、王妃様の事はもちろん、自分の体調も気にかけていたのに。脈だって、毎日自分でも診てたし。生理は……もともと不規則だったから、ちょっと自信無くて。来ない……あ、来たわ。出来てなかったのね……来ないな。ん?本当に来ないな……アレ?……て、感じだったわ。だから、もしかして…と思ってた時に、滑脈があった気がしたから——でも、自分では確信が持てなくて、ヨンにはすぐ言えなかった。とにかく、
蘇芳色の頭がゆらゆらと揺れている。俺が椅子を寄せて座り直すと、イムジャはこちらに凭れて小さな寝息を立て始めた。そんな俺達の様子を、アン・ジェが頬杖を突きながら、ぼんやりと見ている。「なあ。チェ・ヨン」「何だ」「お前…今、幸せか?」いい年をした幼馴染みの男から掛けられるには、些か面食らう内容の問いだった。「藪から棒に何だ」「良いから。聞かせろよ」付き合い切れぬと軽く往なすつもりが、アン・ジェの口調はいつに無く神妙で。(どう答えたものか…)一瞬思案するも、取り繕った言葉で応じて
「王室から賜った珍しい樹木だそうです。何でも、この地には根付き難いのだとか」すると突然、イムジャが駆け寄って来るなり、俺の袖口を握り込んだ。「何です」「うん…」「何か気になる事がありましたか」イムジャは俯いたまま、何か言いにくそうに逡巡している。屋敷に着いてから、この方が何度か物寂しげな表情を浮かべていたのが気になっていた。そして、今もまた同じ様子を見せている。何も伝えず見知らぬ場所へ連れて来た所為で、心細さを感じさせてしまったのかもしれぬ。いずれにせよ、状況の説明が必要に違い
「チュホ〜ンただいま〜元気だった〜?」ウンスは懐かしいヨンの相棒の鼻面を撫でたチュホンは初対面からウンスを気に入っていたが何度も鼻でウンスの胸をつつき覚えていることをアピールした「どこに向かっているの?」「着けばわかります」腕の中にウンスを囲い髪から漂う香りにヨンは口角をあげたチュホンの背に揺られ半刻見覚えのある岩場の景色「ここはまさか妙香山なの?!じゃあ普賢寺に向かってるのね!」
さすが良家の子息チョイス!トクマンが選んだ宿はウンスも納得のこの時代にしては素敵な宿だった静かな二間続きの離れで護りも効き隣りの棟も空室にされており他の泊まり客の身元も調べ済であったトクマンも随分使える様になったものだとヨンは珍しくトクマンを見直した「医仙様〜とりあえずこの饅頭をどうぞ夕餉はた〜んと用意してくれるよう頼んでありますのでそれまではこれでご辛抱くださいあとこの宿は湯殿がございます手拭い
少し乾燥した手の平から頬へ、じんわりと熱が伝わってきて、何とも言えず心地いい。そんな私の視線を逃さず絡め取った後、チェ・ヨンはとんでもない台詞をまるで何でもない事のように、さらりと口にした。「それならば。余計な事を考える余裕すら無ければ、何も問題はありません」そして強引にも聞こえる言葉とは裏腹な優しさで、この人は私の眉間に口付けた。反射的に瞑った目蓋にも。目尻、目頭、鼻筋から鼻先…ゆっくりと何度も、温かく乾いた感触が落ちていく。唇を避けて顎先まで降りた後、頬に触れていた手と共にチェ・
「……何だと?」俺は目の前の男の考えが読めず、剣先を突きつけたまま困惑していた。「日誌は処分なさってください。私の目的は果たしました」故にどうか刀を収めていただきたい。そう俺を見返すソン・ユの、凪いだ目の奥に感じる薄い闇。霧に包まれているような、明けそうで明けない薄ら闇……俺はゆっくりと鬼剣を鞘へと収め、つ、と思った問いを口にする。「目的を果たしたとは……どういう意味だ?医仙の身を、どうすると言うのだ?」「ここにいない者を、どのようにして罪に問うと言うのです?」ソン・ユは、や
つきりと目の奥が痛んだ。気が付けば私は床に座り込んだまま、膝の辺りをぼんやりと眺めている。「あれ…?」顔を上げて辺りを見回すと、客間にはチェ・ヨンの姿しか見当たらない。(もしかしてアン・ジェさん、帰っちゃったのかしら…)首飾りを取り戻してくれた事。幼馴染みに紹介してくれた事。それらがすごく嬉しくて、ありがたくて。この人にお礼を言ったところまでは覚えている。それなのにーー。(その後の記憶が無いなんて。年甲斐もなく、酔って羽目なんか外してないわよね…?)長時間俯いたまま居眠りで
チェ・ヨンの部屋を出てすぐ真向かいにも部屋があり、その扉の前で突如手を引かれ、私は立ち止まった。(ここは、最初に居た客間のひとつ奥の部屋になるのよね…)横に立つチェ・ヨンを見上げると、形良く浮き出た喉仏が上下に動いた。まるで緊張しているかのように。「どうしたの?」「先に言っておきます」低く硬い声で口を開きながら、何故かこの人は私の方を見ようとしない。「ここは生前母が使っていた部屋ですが、中にあった物は全て、蔵に仕舞われています」「じゃあこの部屋も、何も無い殺風景な…」「いいえ」
「ねぇ。ねぇってば。チェ・ヨンさん」「何です」「どうしたの。何だかぼんやりしてる?」「いいえ」取り付く島もない態度のチェ・ヨンに向かって、私が一方的に話し掛けているような状態が、ずっと続いている。大きな荷物と小さな荷物、そして私達二人を乗せた黒鹿毛の馬は、ゆっくりゆっくりと薄暗い道を進んで行く。どこに行くの?何をするの?そんな他愛もない事を話し合いたいのに、この人は無表情で押し黙ったまま、前に座った私を胸に囲い込むようにして、器用に手綱を捌いている。「待たせちゃったから、怒ってる
チェ・ヨンに手を引かれるまま離れ家の入り口をくぐると、すぐ右奥には長い三和土の通路が敷かれていた。そこを通り抜けた先は大広間に繋がっており、中央に置かれた大きな机の上には、私達の持って来た荷物が置いてある。(わぁ…前回来た時にはこんな大きな部屋があるなんて、気が付かなかったわ)周囲をキョロキョロと窺う私に、チェ・ヨンは自分の荷物の中から櫛を取り出すと、目も合わせずに差し出した。「お使い下さい」そこで私はようやく、先ほど向けられた視線の意味を悟った。几帳面な性格のこの人は、私の髪が絡ま
「儂の祖父は幼い頃天女殿と暮らしたことがあるそうでよう話をしてくれました祖父と言っても血脈の繋がりがあるわけではありません儂ら寺族は法脈で繋がっておるのですが…その祖父がいうておりましたこの世のものとは思えぬほど美しゅうてよい香りがするみなに分け隔てなく不思議な医術と賢くて優しい心でみなを癒すと」「住職様のお爺様はあの時の幼い小僧さんかしら一緒に川で遊んだり薬草を摘んだりしたわたまに天界の御伽噺をしてあげたとても素
——イムジャが戻られたら。俺の為に大変なご苦労をされたあの方を、どうお迎えしたら、俺の気は済むのだろう。欲しい物は何でも買って差し上げたい。食べたい物は何でも食べさせて、酒も呑みたいだけ……いや、酒は俺が一緒の時に、程々に呑んでいただく。とにかく、あの方が笑顔になる事なら、俺は何でもしよう。そして、あの方の無事を確かめて、共に都へ戻ったら王様に願い出るのだ。イムジャを妻に迎える事を。その為の準備は進めてきた。後は、あの方のお戻りを待つばかり……そう思い定めて、約束の樹の下で待
ユリが典医寺に来た時ウンスは一度目を覚ました「ウンスやわかるか?大丈夫か?」「叔母様…」返事はするもののまだ虚な様子のウンス「ここは典医寺じゃ其方は旅の疲れが出たのじゃ侍医の見立てではちぃと血虚にもなっておるそうじゃ最近食が細かったと聞いたぞ王妃様との夕餉は御辞退申し上げ今夜はチェ家でゆっくりするか?」ウンスは驚いて首を振った「叔母様心配かけてごめんなさい王妃様との夕餉
「さーて。脈を診ますね、チェ・ヨン大護軍」「しっかりと、務めを果たされませ」「イェー」ようやく邪魔な腕貫を取り去って、骨太な手首を暴き出した私は、チェ・ヨンの言葉に応えるように、芝居がかった振る舞いで頭を下げる。そして冗談はここまで…とばかりに、さっそく両手中央三指の指先を使い、頚動脈と橈骨動脈の拍動に触れた。(標準より少しゆっくり、かな?それより人迎と寸口の差異がほとんど無いなんて…)余りに整った気血の循行に驚くばかりだけれど、内功というものを使う人にとっては、これが普通の事なのだ
かつて母によって使われていた部屋の前に差し掛かった瞬間、俺は急な恐れに見舞われて、握っていた薄い手を無意識の内に引っ張った。(この部屋の中をイムジャに見せる事になろうとは、思いもよらなかった…)しかしあれほどの想いをこの方から向けられて、逃げるような真似も出来かねて。緊張感から、ごくりと喉が鳴る。「どうしたの?」「先に言っておきます」俺の様子がいつもと違う事を察したのか、イムジャが訝しんでいるのが分かる。だが今は、その顔を見る余裕すら無かった。「ここは生前母が使っていた部屋ですが
午後一旦小雨になったものの遥か先まで西の空はびっしりと濃い雲に覆われ暫く雨は続くと思われたそんな時地元の郡守が国境隊長を訪ねてきた日頃の感謝を込めて兵士を招き宴をひらきたいと訴えるしかも今日にも催せるほど既に支度済みだと大護軍と別れの杯を交わしたい国境隊長は渡りに船と郡守を連れ大護軍と迂達赤隊長がいる兵営へ向かった***主に迂達赤が使っている兵営の軒下ではトルベを囲みウンスが王宮の話を聞いていたテマンが
ヨンと医仙…奥方が、一瞬、意味深な目線を絡めた事には気付いていた。しかし、それがそのまま俺に向けられ、まさか、あのような事を耳打ちされようとは……しかも、ヨンから。“赤子が腹に落ち着くまでは、奥方に無理を強いるな。我慢しろ”そして、返す言葉も無く瞬きする俺の肩を、あやすように叩くと、ヒジンに会釈をして、ヨンは医仙の後を追って出て行った。ヨンめ……覚えてろよ。今は他人事だと思ってるだろうが、お前だって直(じき)に——「……あなた」俺はヒジンに呼ばれて我に返り、慌てて振り向く。目が合う