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「〝医仙〟無事帰還の知らせ余も安堵した大護軍チェヨンよまことに大儀であったなんなりと褒美を申せ」宣仁殿で王の前に跪き帰還の挨拶をしたヨンの耳に信じられない王の言葉が聞こえ重臣たちにも動揺が広がった「王様〜大護軍と共に参った女人はまことにあの医仙でございますか?」重臣の一人が問うた「そうじゃ天はこの高麗に再び天人を遣わせてくださったのじゃ」チェ・ヨンの開京到着の喜びは一瞬で消え去りウンス
よいか。決して侮られぬように。華美でなく品よく……チェ家の嫁に相応しい形(なり)に仕上げるのだ。叔母様が、スンオクにそう言伝たらしい。「……大丈夫でございますか?奥様」ソニが、私の着付けや化粧をしてくれているのを、脇で黙って見ていたスンオクが、ずしん、と響くような声で言う。「え、何が?」「今朝はあまり……お話しになりませんので」顔を合わせてまだ2日目だというのに、スンオクは、私のお喋りの無さに違和感を覚えたようで。「昨日のお疲れが抜けませんか?」「へっ??な、何の??」「…
鍛錬場で野太い声を上げ、迂達赤(ウダルチ)の新人達が打ち込みの地稽古をしている。それをテジャンと並んで眺めながら、俺は内心この上なく安堵していた。ようやくテジャンが元国より戻られた。テジャンの耳に入ったら「お前がそんな事でどうする」とお叱りを受けるだろうが、王様を守る迂達赤(ウダルチ)、その隊長の留守を預かるのは……副隊長として情けない事ではあるが、ともかく、テジャンが無事戻られた事が嬉しくてならない。だが、現状を楽観視は出来ない。元の支配下からの離脱。その足掛かりとして、王様は本格
キ・ジクが立ち去った後も、チェ・ヨンは口を噤んだまま『名分』という言葉を胸の内で反芻していた。ふと横を見れば、ウンスは苦り切ったような表情を浮かべ、雑な手つきで茶器を片付けている。先程までのキ・ジクに対する態度との違いに、チェ・ヨンの胸も微かに痛む。しかしそんな状態で口を開けば、当然出て来る言葉は嫌味でしかない。「天のお方は余程警戒心というものが無いらしい。徳成府院君からあれだけの事をされて、まだ懲りませんか」「そのキ・チョルが寄越したのがキ・ジクさんなんだから、今回ばかりは突っぱねる
「ふふ、まだ盛り上がってる……」「そのようですね……」宴の喧騒は未だ、俺達の閨…寺の離れまでも薄っすらと届いていた。渇望していたものがようやく満たされ、上がっていた息も落ち着き……俺は、己れの腕に乗せている愛しい人の顔を、じ、と見つめた。窓の障子越しにも月明かりは皓皓とし、夜目の利く俺だけでなく、イムジャの目にも……十分見えるのか、直ぐに触れられる程の距離だからなのか、微笑みながら見つめ返してくれる。俺は、もう片方の手をイムジャの柔らかい頬に当て、指の背でなぞりつつ、落ちてくる髪を梳く
「妻も高麗の民、か。確かに一理あるが……大護軍はその、国防も国の繁栄も、全て妻の為だと?」「そうです」あっさり答えた俺に、セクの目が行き場なく泳いだ。——セクよ。あの男だけは敵に回すものではないな。何と厄介な夫婦が出来上がったものか……あの日ジェヒョンがそう溢していたと、後々セクが笑って語った。............................................................ようやく家に戻った俺は、出迎えのギチョンにイムジャの様子を尋ねた。テ
『3度目のソウル⑦2日目「駅三〜ハンティ駅」』⑥↓のつづきです『3度目のソウル⑥2日目「駅三バラ公園」』何かと慌ただしくて(ドラマも見なきゃだし)つづきを書く時間がなかなか作れず💦でも早くしない…ameblo.jp⑦↑のつづきですふつうの観光ハンティ駅から地下鉄に乗り宣陵駅で2号線に乗り換えて三成駅へ次の目的地は清潭にある現Fantagio社屋ですが通り道にある普通の?観光地らしい所も2箇所見学しましたまずは三成のコエックスモ
大司憲(テサホン)の胸倉を掴みながら、俺は腰元の仕込み刀に手を掛けた。「喋らせる方法など、幾らでもある」その時ーー。「大護軍チェ・ヨン。その手を放すのだ」芯のある声が耳を打つ。俺は即座に小刀から手を離し、入り口に佇む我が主の前に片膝を突いた。「王様…」「すぐに沙汰するゆえ、今暫く堪えよ。よいな、大護軍チェ・ヨン」王様は一瞬俺の肩に触れた後、かすかな衣擦れの音と共に、ゆったりとした足捌きで室内に踏み入った。「司憲府(サホンブ)大司憲キム・ヒョク」寝台から飛び降り身を伏していた大
こんなにも日差しが眩しくなっていたのだな——大護軍とドチ達を伴い、王宮の庭園をゆっくりと歩く。大きく息を吸い込んで、じっくりと吐き出してみる……気分が良い。ゆっくり見る間もなく花の季節は終わり、新緑を覆う雨もようよう落ち着いて……暑さも感じるが、それでも水面を上がってくる風は爽やかだ。日々国事に忙殺されてい……いや、君主としては当たり前の事であるのだが……心穏やかに過ごせる時間は多くない。今日は久々に、チェ・ヨンが護衛に参った。迂達赤隊長であった頃もそうそうは無かったが、護軍、大
早朝から行われていた二軍六衛上層部との合議を終えて、迂達赤兵営へ戻った俺へ、チュンソクが待ち侘びたように声を掛けて来た。「大護軍、急ぎの報告が上がって来ています。今、宜しいですか」「ああ、俺の部屋で聞こう」「それと…大護軍にお会いしたいと、先程まで医仙様がこちらでお待ちでした。ちょうど今、テマナが典医寺までお送りしています」昨晩お会いしたばかりのあの方が、早朝から俺を訪ねて来た理由が気に掛かる。しかし今は急ぎの報告が先だと思い直して、典医寺を訪れる為の繰り合わせを思案しながら、二階の自
ほらほら、固まってる……予想した通り、唖然としたまま微動だにしないヨン。だから……おかしな事を聞くけど、って、最初に断ったでしょ?まぁ、そう前置きしたところで、何が変わる事もないんだけど……「……あの…イムジャ。父とそうるで話した、という事と、俺の墓に何の関わりが……?」「それがあるのよ。だけどその前に。今、お父様のお墓は、ここ鉄原にあるでしょ?しかも、お母様も、チェ家代々のお墓も」「……はい。故に、俺もいずれはここに入ると思います」「そうよね……」「あの、イムジャ。わかるように
「私に向けても何か言っていただきたかったですが…」カンファレンスがお開きになるとチャン・ジンが少し拗ねたような口調でウンスに話しかけた「やだわジン先生からかわないでください私がカンファレンスで自由に話せるのは何かあればジン先生が助け舟を出したり軌道修正してちゃんと導いてくださるってわかってるからですそれに私が話したことなんて先生はとっくにご存知のことばかりだったでしょう?」「とんでもありませんとても勉強に
「美味しい。ファジャさんは、お茶を淹れるのが上手なのね」茶碗を両手で包み込むと、じんわり熱が広がって、知らないうちに凝り固まっていた心と身体が、少しだけ解れるような気がした。向かいに座ったチェ・ヨンは一口喉を潤して、ふっと小さく笑う。「俺が客を連れてくると聞いて、よほど嬉しかったのでしょう。茶葉も奮発したようです」美味い、と小さく呟いて、この人はもう一度茶碗を傾けた。「随分と大きなお屋敷だけど、お二人だけで管理をしているの?」「俺と叔母さんもここに住んではいないので、維持管理だけなら
叔母様と涙の再会をして、私は坤成殿(コンソンデン)でも同じように、王妃様と抱き合って泣いた。王妃様にハグなんて、本当は咎められる所なんだろうけど、今日はそんな事はなかった。「医仙……医仙……良かった。必ずお戻りになると、信じておりました、医仙」王妃様が、変わらない美しいお顔を、涙でぐちゃぐちゃにして喜んでくださった。おそらく、それに負けないくらいヒドイ顔で、泣き笑いの体の私は、畏れ多くも王妃様の涙を拭った。ひとしきり再会に喜び泣いた後、私は心配事を口にした。「王妃様……少しだけ聞きま
——今私は闘っている。目の前のこの……紐と。「……その輪っかの中に、上から入れて掬い上げる……あ!違います、右からですよ、奥方様」「え?こうじゃないの?右からこう……」「イムジャ、まず輪の中に紐の先を入れて、あ」「うう〜。何でぇ……」「やれやれ……奥方様は見た目と違って不器用なお人ですね」「よく言われるわ……」今日のデートの記念に——私が欲しいとねだったのは、メドゥプだ。ノリゲをはじめあらゆる装飾に使われる、韓国の組紐。伝統工芸品。昔からあるのは知ってたけど、
「話とは……其方が我々を訪ねようとした理由か?」ジェヒョンが静かに問うのへ、俺も至極冷静に返した。「そうです。お2人の我が妻への執着に、いささか辟易いたしましたが、国を思うお気持ちはよくわかりました」「!テっ大護軍っ!何と失礼な物言いを……っ!」セクが大慌てで諌めるのを、ジェヒョンは涼しい顔で「——構わぬ。それで?」「私と医仙の婚姻は、確かに元に口実を与える可能性があります。キ皇后の庇護下にいる徳興君……あの者にとっては許しがたい事でしょう。キ皇后もしかり。キ一族の没落は、あ
医仙がヨンの元へ戻って来てくれて、婚儀も無事に終わり……度を越す程、仲睦まじい姿を目にしてきた故、じきに良い知らせを聞けるだろう……とは、思っていた。いたが、まさかこのように早くとは……私は、つい緩んでしまう己れの顔を、何とか戻す、また緩む、を繰り返していた。あの日、いち早く知らせを持ってきたテマンに、思わず少々の駄賃を握らせ、私は小躍りする勢いで王妃様のもとへ向かうも……すぐにその足を止めた。懐妊したのは、うちの嫁だけなのだ——王妃様とウンスが、共に“妊活”とやらを始めたのはこの春の
イムジャの口から『メヒ』という名が飛び出した事に、俺は驚きを隠せない。それは五年前に己の血肉と化し、記憶の棺に閉ざした名だった。メヒは声を立てず目で笑う娘で、仲間から相棒そして妹のような存在を経て、俺が二十二の頃には言い交わす仲になっていた。そして…最後に見た痛ましい姿を思い出せば、今でも胸がじくりと痛む。俺達二人の思い出が詰まった児手柏(こてがしわ)に愛用の鞭を掛け、メヒは自ら首を吊った。師父を殺したのは自分だ…そんな妄念に囚われていたのを、俺は知っていた筈なのに。他の仲間を逃す事
一刻も早く家に戻って、イムジャと2人きりになりたかった。本音を言えば、常に傍に居て、片時も離れたくない。コモに呆れられようが、イムジャから失笑を買おうが、俺がそう思うのは仕方のない事だ。4年だぞ?4年……俺はあの方を待ったのだ。その姿を目にする事無く。その身に触れる事も無く。その声を聞く事も……それは一度だけ…あったな。そうだ。あの時の事を、イムジャにまだ話していなかった。きっと他にも、話し足りない事、聞き足りない事がある。ようやく己が腕に取り戻せたものを……都へ戻っ
王宮から戻った俺を、駆け出す勢いのイムジャが、門前へ出迎えてくれた。「おかえりなさい!ヨンァ」「すみません、遅くなりました。夕餉は?」「旦那様を待たずに、先にいただきました」満面の笑みで迎えてくれる愛しい妻。長い間、夢に見てきた情景が、今目の前にあり——「ご気分はいかがですか?イムジャ」「いいわ。貴方も怪我は無い?」「はい。ありません」俺は、幸せというものを噛み締めていた。「土産があります。コモがイムジャにと」「え、なぁに?……あー!薬菓(ヤックァ)だ!嬉しい〜!」差し出
典医寺の調剤室にて、薬員達に混じり漢方薬の計量をしていたウンスの元へ、一人の客人が訪れた。「貴女が医仙でいらっしゃいますか」顔を上げたウンスの目に映ったのは、年の頃なら27、8といった所か、白い肌と細い目が印象的な、身なりの良い男だった。「ええ、そうですけど。貴方は?」「私はキ・ジク。徳成府院君キ・チョルの遠縁に当たる者でございます」折り目正しい様子を見せる男へと、最初はさして警戒した様子も無く尋ねたウンスだったが、自分を監禁した男の名が耳に届いた瞬間、不快感を露わにして顎を引いた。
とっぷりと日が暮れた真冬の庭園は、夜露の兆しで湿り気を帯び、影さえも凍りついてしまいそうな程に冷たい空気で満たされている。俺の隣を歩くイムジャは、まるで肌に染み入る寒さを確かめるように、白くけぶる息を細く長く吐き出した。「見て、真っ白。冷えるわね」「足元も見てください。転んでしまいますよ」「大丈夫。チェ・ヨンさんがいるじゃない」「まったく、貴女という人は…」俺が掲げる手持ち灯籠の明かりをぼんやりと眺めながら、イムジャが微かに笑う。瞳の中に、ゆらゆらと頼り無げに揺れる柑子色を纏わせな
坤成殿(コンソンデン)から下がった所で、見送りに出てくれた叔母様が、難しい顔で口を開いた。「御前会議に呼ばれるなんて……何事だろうね、一体」「さぁな。コモ、心当たりはないのか?」「さてね。お偉い方々の考える事など、分かったものじゃあない」「あの……結婚のお許しって、重臣の方達からも必要なの?」私が尋ねると、いいえそんな、と、目を見開いた叔母様だったが、でも、もしや……と、思案顔になっていく。「何だよ?コモ」ヨンが訝しんで見るのへ、叔母様が気まずそうに私を見……「医仙が聞きたくない話
「日が暮れ始める前に発ちます」そんな俺の言葉に、茶を飲み干して空になった碗を両掌の上で回しながら、イムジャが伏し目がちに小さく呟いた。「そっか…もうここを出なきゃいけないんだ」いかにも残念だといった姿を見て、俺は密かに胸を撫で下ろした。この方に妻問う時、少なくとも我が屋敷に住まう事を嫌い、拒まれるという線は無くなったと見ていいだろう。(俺の元へ留まると、ようやく決心して下さったというのに。何と弱気な事だ…)そう自嘲する反面、油断は禁物だと自らに言い聞かせる。イムジャは高麗の水を飲ん
「な…ん…ちょちょちょっと待ってください!テホグン!待ってくださいってば!」抜き身の鬼剣の先はヒョンウの首筋に添い、それを見たトクマンが盃を放り投げて止めに入る。その時既に、チュンソクは俺の利き手を両手で固め、テマンは俺の腰を抱き込み後ろへと引き、チョモに至っては捨て身で俺とヒョンウの間に飛び込んでいた。「今お前は、ユ・ウンスと言ったな。それは、見た事のない医術を施す、明るい色の髪を持った女人のことか」「イェ」微動だにせず、辛うじてそう言ったヒョンウのこめかみから冷や汗が流れるのを見て
イムジャが歩く道すがら、すれ違う老若男女が皆惚けたように振り返って行く。俺自身も油断すれば、未だに目の前の艶やかな姿に見入ってしまいそうになるのだから、さもありなんと言った具合なのだが。しかしこの方は、そんな事など全く眼中に無い様子で、物珍しそうに店先を見回している。恐らく生まれ育った場所でも、こうやって人々の視線を集め続けたであろう結果の無関心かと察すれば、心中穏やかではいられなかった。(自分の女の過去にまで嫉妬し出すなど、戯け具合にも程があるな…)「あっ!ねえねえ、あれ可愛い!」
奥様のご出産が近い。毎日、今日ではないか、今日こそは、と思って過ごしている。私だけではない、旦那様も奥様も、ウォンスク様…チェ尚宮様も。チェ家に仕える者、関わる者、皆がそう思って——その日の夜半、旦那様から奥様が痛みを訴えられている、と、お知らせをいただいた。非礼をことわり、ソニと共にご寝所へ入らせていただくと、陣痛が始まったようだ、と、ご自分で脈を診ながら奥様がおっしゃる。その奥様を後ろからお支えしながらも、落ち着きのない旦那様……いざその時が近づいてきた、と、さすがの旦那様も狼狽え
大広間の中央に置かれた大きな机の上に、次々と料理が並べられて行く。豆もやしのクッパを始め、貝の和え物や大根の水キムチ、冬野菜のジョンなどが、それこそ所狭しと。先程味わった恥ずかしさは、強引に頭の隅へと追いやって、私は食欲をくすぐる匂いを、鼻から思い切り吸い込んだ。「凄い。美味しそう!」両手を打ち鳴らして歓声を上げた私に、マンボ姐さんは満足そうに笑って頷く。「たんとお食べ。何かあったら呼ぶんだよ」そのまま慌ただしく店内へ戻って行ったところを見ると、今日は客足が好調なようだ。最後にチェ
「本当に宜しかったのですか」リュ・シフ侍医に気遣わしげな声音で尋ねられ、私は目を通していた診療録から顔を上げた。話し合いの結果、ソアさんは典医寺に残る事になり、更には私の無月経の治療を全面的に請け負うとまで約束してくれた。それらを昨日の内に、リュ・シフ侍医には伝えたはずなのに、一晩経って再び蒸し返してくる理由が分からなくて。私は憂いを帯びた美しい顔立ちをじっと見つめたまま、次の言葉を待った。「見ず知らずの地で記憶を失ってしまった医仙様にとって、大護軍の存在は普通の想い人とは重みが全く違
ヨンヒョンと医仙様にお子が出来たって——嬉しい知らせを言付かって、オレは大急ぎでチェ家を訪ねた。安州(アンジュ)での軍事訓練を終え、トクマンさん達が帰京するのに合わせて、オレも同行させてもらい都へ来て……普段は禁軍の兵舎で寝泊まりしているけど、チェ家にお世話になる事もしばしば。チェ尚宮様やヨンヒョン、医仙様も、「ドンジュは身内同然だから」と言ってくださって……用人の皆さんも親切で、チェ家の方々には、本当によくしてもらっている。今日も、ギチョンさんが、「おぅ、ドンジュャ。どうした?そんなに