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早馬として海州を発った同日の夕刻にはジョンフンは開京に入り満月台(マンウォルデ)に着いていた大護軍からの書状を無事王様とチェ尚宮に直接手渡し終えて安堵したジョンフンすぐにでもガインの待つ屋敷に帰ろうとしていたところチェ尚宮から声をかけられた「ヨン殿申し訳ないが半刻後再度康安殿へ参られよ」***呼び出しの理由がわからぬジョンフンは大護軍の書状に何か懸念の報せがあったのか…とすれば徳興君のことかと予測し
おれ、耳がいいんだ。お前の特技だな、自慢していいぞ、って、言われたこともある。そっか。役に立つ耳かぁ。そりゃあいいや。だけど今…うーん、今だけじゃなくて、医仙の護衛に付くようになってから、しょっちゅう……この耳が、こそばゆい事が多くて。嬉しいんだけど、困る事が増えた、っていう——御者として馬車に乗ると、医仙ひとりの時は、天界語混じりの、訳の分からない独り言が聞こえてくる。(医仙の独り言はデカいんだ…)大護軍と2人の時は、お幸せそうな、穏やかな会話と雰囲気が伝わってくる。ただ…それだけ
起きた時にはすでにヨンの姿がないためヨンが連日自分に添い寝しているとは夢にも思っていないウンスヨンに抱きしめられて眠る夢を見るなんて無意識でもヨンのことが気になっているのねでもお陰でぐっすり眠れたかもだけど現実は奥方がヨンの腕の中で眠ってるのかしらヨンが屋敷で奥方とどう過ごしたのだろうかと内心では気になりもやもやしていた朝から妙に張り切ってジウォンらと石鹸を乾かしマンボ姐と相談して選んだ瓶に化粧水を詰めていたウンス皆はウンスの空元気に気づいており少
“私以外に妻は居ない”“私だけが欲しい”妻になってくれ、と———そう、この人は言ってくれた。第二夫人って何、第一は何処に居るのよ、調べたんだからね、って泣き喚いた私に、困り顔で、真っ直ぐに、嘘の無い瞳をして。わかってる。わかってるのよ、私だって。ヨンの気持ちを疑った事なんて無いわ。……………ごめん。ほんのちょっと……ちょっとだけ、あった…かな?疑った、というか、不安に思っただけよ。離れてしまって、いつまた会えるかもわからない中だったから。私のヨンへの気持ちは本物よ。それだけ
「俺を止めたければ、どこでも構わぬ…殴れ」低く唸るように言い終わるや否や、攫うように抱き寄せられて、目眩がした。肩と腰の辺りにある鎧の金具が当たって痛みを感じるほど、力強くその腕に囲われる。土とお日様、そして杉のような涼しげな匂いが混じり合った、この人独特の匂いが私の欲を掻き立て刺激する。嗅ぐたびに胸が絞られる様に切なくなって、心臓を中心に全身を、掻き毟りたくなる程甘い痺れが伝播して行く。この人の心の深い所に触れてみたい、少しでもその心根に寄り添いたい。そんな欲を持て余した私は、なす
予定通り白州の宿に入った一行元気のないウンスが心配なヨンは旅の疲れを取るためにも風呂好きのウンスに温泉をすすめたウンスはジウォンを誘い温泉に入ることにしたがジウォンはかなり緊張していた「ジウォナ温泉は初めてなの?」「いいえオンニ大人になってから誰かと一緒に湯に入るのが初めてなのだから恥ずかしいわ」「そうなのね私は此処に来る前にいたところで小さい子たちを湯に入れてたけどそういえば大人とゆっくり入るのは
「一度だけお情けを」そう言って、あられもない格好で俺の足に取り縋ったリュ・ソアを、流石に兄であるリュ・シフ侍医の面前で力任せに突き退ける事も出来ず。かと言ってこのまま、木偶の坊の様に突っ立っている訳にもいかず。当惑しつつ声を掛けようとしたその時、絶対に今ここにあってはならない筈の気配が、俺の背後から近付いて来るのを感じて総毛立つ。「わあ、すごい。修羅場だわ」そんな呑気な声と共に、俺とリュ・シフ侍医の間に割り込んできたイムジャは、俺と目を合わせる事無くリュ・ソアの腕を掴んで立ち上がらせる
やけに静かね。雪でも降ってるのかしら……深い眠りからゆっくり戻ってきた私の意識は、まだ浅い所でゆらゆらと揺れていた。冷え込む冬の夜の寝室。外はおそらく雪……でも、ここは温かい。背中に感じるヨンの温もり。私を抱き込む腕の重さが愛おしくて。もう少しこのまま眠っていたい……私は瞼を閉じたまま微睡んでいた。無事に息子——タムが生まれてひと月あまり。嬉しくて幸せで……そして、子育てがどれだけ大変な仕事かという事を、私はイヤという程、身に沁みて感じていた。子どもは自分のお乳を飲ませて、自分の
「〜〜〜!何で俺がっ⁉︎」幕舎の外で、ヒジェが今まで見た事もない程弱り切った顔で溢した。「詳しい者に案内させよ、との仰せだ。お前以上にこの地に詳しい奴が居るか?」「いや、だけどよ、」「つべこべ抜かすな。王命だぞ、ヒジェ」僅かな兵に紛れて(チュンソクがお側に張り付いてはいたが)お忍びで安州に来られた王様が、元との国境である鴨緑江(アムノッカン)を、もう一度見たいとおっしゃった。長い人質生活を終え、元国より高麗王として帰京される途中。舟で鴨緑江を渡ろうとした折、足止めを喰らい、王妃様
安州の軍営地から少し離れた山間に、かつての赤月隊の隠れ里がある。その更に奥の、其処彼処にある大小いくつかの土饅頭の墓——屈み込んだヒジェが、慣れた手付きで草を引いていく。俺もその隣に膝を着き、それに倣った。「……ずっと世話してくれてるんだな」「こっちに居る時にはな。けど、しばらく来られねぇだろ。せっかく安州(ここ)に居るのに、お前は忙し過ぎんだよ。俺がこうして引っ張って来てやらねぇとな」ヒジェのもっともな言いように、俺は苦笑いで頷いた。テジャン、ヨンの奴が来ましたよ。随分と久しぶり
衣を乱した大護軍が深夜に湯桶を持って医員様の部屋に入った巡回していた隊員の一人はつい先刻ぎしぎしと寝台が軋む音と微かに混じる女人の声を聞き胸をどぎまぎさせていたが大護軍の行動でその意味をはっきり理解して顔を火照らせたやはりご夫婦なのだな明日からどんな顔をして医員様を見たらよいものか隊員はウンスが兵営に来てからの日々を思い返した一番印象が変わったのは大護軍だな寡黙で冷静で女人に無関心だと思っていたのにできるだけ医員様と共に
「コモ。頼みがある」そう言ってヨンが訪ねてきたのは、王命で北へ進軍する少し前だった。「何だい」「医仙の事だ」……全く、この甥は。あの頃も今も、口を開けば医仙の事ばかり。恐らく、随分と前から想いを寄せていたのであろうな。己れは気づいていなかったやも知れぬが。「あの方が戻られたら……妻に迎えたいと思ってる」——で、あろうな。想いを寄せてはならぬ、と言うた事もあったが、やれやれ……やっとこの叔母に言うてきおったか。したが、ヨンよ……今頃言うてどうするのだ?当の医仙が居らぬとい
ヒジェに見送られて、寄り添いながら部屋に戻った俺達だったが……互いに何となく視線を合わせないまま、身支度を始めていた。「着替えを用意しました。よかったら着てください」「ありがとう」………………何とは無しに、若干の気まずさ…いや、気恥ずかしさなのだろう。それ以上の言葉は出ないままで。布巾で濡れた髪を挟み持ち、ポンポンと水気を取っているイムジャが、目の端に入る。……見るな見るな、俺。ヒジェに右手を差し出した時の、イムジャの溢れるような笑顔が。ヒジェに止められるまでの、イムジャ
俺にしがみついて上下していた背中が、ようやく静かになって……イムジャ自身が顔を上げてくださるまで、俺は辛抱強く待った。「……落ち着きましたか?」「……うん……」ちら、と俺を見、また俯く——イムジャが俺から身体を離し、ごめんね、と呟いた。こんなに泣いてばっかりで恥ずかしい…私って、もう少し強い人だと思ってたのに…俺と目を合わせないようにして、大層気まずそうな様子で。そんな姿も愛しくてならない。我慢強いほうだとは、自負していたが……4年もの間、よくこの方を目にせずに居られたも
「ハァ…」迂達赤兵営の中央に設られた砂の広場の片隅にしゃがみ込んだ私は、今日だけで何度目かも分からない溜息を性懲りも無くまた吐いて、目の前で繰り広げられる鍛錬の様子をぼんやりと見回した。王の剣とも言える迂達赤の隊員達は、流石に皆平均して良く鍛えられた体躯をしている。しかしその中にあっても、大護軍チェ・ヨンは一際目を引いた。鍛え上げられた肉体には違い無いけれど、筋肉の質量は程々といった所だろうか。音の伴わない美しい所作が、その姿態のしなやかさを際立たせ、他の隊員たちとは常に一線を画した存
『天界語も覚えたら?発音も簡単だし』『テジャンは天界語を話したがらないんです』懐かしい日々が、走馬灯のように流れては、私の心を甘く締め付けた。「どうしてその言葉…王妃様から聞いたの?」尋ねるための声は震えてしまい、辛うじてテジャンの耳に届く程度の囁きにしかならなかった。するとこの人は目線を左下に流した後、熱を少し逃すように細く長い息を一つ吐いて呟いた。「叔母さんから聞きました。『言葉にできないほど相手を想い、そばにいるのに恋しいと想うのが愛です』そう王妃様にお教えになられたと」握ら
ヨンヒョンと医仙様にお子が出来たって——嬉しい知らせを言付かって、オレは大急ぎでチェ家を訪ねた。安州(アンジュ)での軍事訓練を終え、トクマンさん達が帰京するのに合わせて、オレも同行させてもらい都へ来て……普段は禁軍の兵舎で寝泊まりしているけど、チェ家にお世話になる事もしばしば。チェ尚宮様やヨンヒョン、医仙様も、「ドンジュは身内同然だから」と言ってくださって……用人の皆さんも親切で、チェ家の方々には、本当によくしてもらっている。今日も、ギチョンさんが、「おぅ、ドンジュャ。どうした?そんなに
「なぁ…やっぱ、あれかな。子どもが生まれたら、ヨンの旦那でも変わっちまうのかな?」シウルが、スッカラをクッパの椀に沈めたまま、ボソリと口にする。朝から飯抜きで走り回って、腹ペコすぎて我慢ならねぇ……勢いよくクッパを掻っ込んでいたオレは、「何がだよ?」と、手も口も動かしながら聞いた。「今まではさ、何があってもウンスが一番だっただろ?ヨンの旦那」「おぉ、だな」「だけどさ、何つっても跡継ぎの息子が生まれたんだからさぁ。チェ尚宮様なんかもう……手放しで喜んでただろ?」「スンアジュンマもな。
【至福】ふ、と目が覚めた。燭台の蝋燭はすっかり小さくなっていて、もう少しあと少しと揺らめいている。まだ外は真っ暗ね……吐く息が薄っすら白い。おお、寒い寒い。ここが……布団の中が一番だわ。私は身体を捩って隣りで眠る夫に向き合うと、その愛しい顔をじっ、と見つめた。自然と頬が緩んじゃう。誰よりも強くて誰よりも凛々しくて何処までも果てしなく優しい私の最愛の旦那様。ここは安心。ここに居れば暖かいわ——私は迷わず、その懐に入り込もうとしたのを、はっと思い留まった。目
王宮から共に帰宅し、今夜も夕餉と湯浴みの後は、イムジャと2人で少しの酒を楽しむ。今朝よりもずっとすっきりした表情で、イムジャの心地よい声が弾んでいた。「ねぇ、ヨンァ。覚えてる?」「何をですか?」「デートよ」「ああ……はい」「デートって何だった?はい、言ってみて」「……待ち合わせ場所を決めて、わざわざ別々に其処へ集まるという……何とも非効率な行動かと」「集まるだけじゃなくて」「何処かへ出掛けるのでしたよね」「そう!それ!!私達、まだデートの途中なんだけど?」「まぁ……それは
セラさんの診察を終えた私は、離れの庵で着替えを済ませた。セラさんが回復して本当に良かった。私がこっちにいる間に……と、思っていたから。心残りがひとつ無くなったわ。私がこの時代に来た意味は、未来のヨンを救う為。だからその為に必要だと思われる事を、消化してきたつもりよ。……そう、つもり。頑張ってきたけど、果たして全てクリア出来たかどうか……だって、華陀の形見3点セットは、キ・チョルの手元にまだ無い訳だし。しかも所在はバラバラ。手術道具はネルが持っていて、手帳とプロジェクターは、ジテ
「……でね、トギにヒジンさんの処方を頼もうと思って、典医寺に行ったのよ。トギ、ちょうど薬草部屋(通称トギ部屋)に居たから、お茶を飲みながらアレコレ話してたんだけど……その間テマンたら、ずーっと外で待ってるの。中で一緒にお茶飲もう、って何回誘ってもダメだったわ」眠る前の晩酌のひと時。イムジャがちびちびと盃を舐めながら言う。「それはそうでしょう。テマンは貴女の護衛です。困らせないでやってください」「そうだけど……部屋の中に居ても護衛は出来るでしょ?外には武女子(ムガクシ)の子達も居てく
双城と鴨緑江西域の奪還が成り、王様は大層お喜びになられた。宣仁殿(ソニンデン)での謁見の折。王様は各々へ褒賞を約定され、ゆるりと身体を休めるようにと、将軍達、そして、イ親子を労う。その面々が御前を下がっても、俺は額ずいたまま、その場に残っていた。「護軍……いや、今日よりは大護軍(テホグン)に任ぜよう。よいな?チェ・ヨン」「王様……」驚いて顔を上げると、満面の笑みをたたえた主君と目が合う。「無事で何よりだ。まこと大義であった」「恐れ入ります——」俺が再び深々と頭を垂れるや、その真
こんばんは。ついに昨日最終回を迎えました「チェ・ヨンとウンスの軌跡」のあとがきという名のまとめです。長いし、画像もないので興味のない方はスルーしてくだされ~最初はウンスがいつからヨンに惹かれて、ヨンを好きになったのか?という疑問がこの記事を書くきっかけでした。とは言っても。誰しも明確にあの瞬間からあの人が好きになった、というのは少ないように思います。一目惚れでもない限り。いつの間にか意識して気になって仕方なくて好きになるというのが一般的?な恋愛のメカニズムだと思います。
※『とわになぐ』こちらは、拙作『菊花恵愛』『相聞歌』からの続編です。そちらを済まされてからお読みいただけると、お話が繋がります。よろしくお願いいたします♡(^人^)◆凪ぐ(和ぐなぐ)……心が静まりおさまる。穏やかになる。なぐさむ。なごむ。風がやみ海面が静かになる。風波がおさまる。[広辞苑より]............................................................朝。目覚めた時に、一番に見たい顔。一番に聞きたい声。一番に
聞きましたか?新任の隊長(テジャン)若干22歳の若造だそうですよ!赤月隊の部隊長で並外れた武功の持ち主ひと振りで何人もの敵を倒し手から稲妻を放つとか赤月隊なんて、敵の寝首を襲って逃げるそれだけの奴らだろ口を慎め今の高麗があるのは、赤月隊のおかげだ……全部聞こえてるぞ。とんだお喋りがいたもんだ。やれやれ……はぁーーーー俺は大きく溜め息を吐くと、開いたままの扉から音もなく中へ入り、目の前に蹴り現れた隊員の足を掴んだ。呆気にとられる隊員達の顔、殺風景な兵舎の様子……ぐる
「指示を待て。俺ひとりで行く」イムジャの異変を知ったあの時。後を追うというトクマンを皇宮へ残し、俺は唯ひたすら馬を走らせていた。イムジャがキ・チョルに拐われた。奴が目指すのは天門。行く先々でかき集めた情報から、確実にイムジャに近づいてはいた。しかし、あと一歩。あと一歩及ばなくて。店の柱に見つけた天界の文字。“괜찮아요”(大丈夫よ)一気に身体中の血が上がる。貴女はこんな時でも俺のことを想っていてくださるのか。俺が必ず行くと。だから待っていると。俺を信じている、と。.
慶昌君様が即位した後も、今までと何ら変わらず、高麗は元の属国だった。そもそも、高麗王は元によって決められてきた。高麗朝廷も、元に従う官僚達、忠恵王の頃からの重臣、そして、慶昌君様の母である尹(ユン)氏の一族。幼い王に代わり、政はそういった連中の物だった。王はただ王として、朝廷で飾り物にされていて……俺も、迂達赤としてお側に仕えてはいたが、そのあまりの扱いに呆れ果てた。——宣仁殿(ソニンデン)を出ると、ようやく息が出来る。王様はよくそうおっしゃっていた。そして、形ばかりの政務や勉
※こちらは、拙作『菊花恵愛』の続編です。そちらを済まされてからお読みいただけると、お話が繋がります。よろしくお願いいたします♡(^人^)◆相聞歌(そうもんか)……恋の歌。恋人同士の間で詠みかわされた歌。[ブリタニカ国際大百科事典小項目事典より]............................................................どれくらいの間そうしていたのか……気が遠くなりかけて、私は、はぁ、と口付けの間に大きく喘いだ。それを合図のように、私
何があってもヨンの側へ戻ってくる——王妃様に見透かされ、私は自分の気持ちを、改めて思い知らされていた。「毒に侵されていた折、ご自分の命よりも大護軍の心配をされていた、と、チェ尚宮から聞きました。そんな医仙であれば、高麗がどうなろうと、大護軍の側にいたいと思うのでは……違いますか?医仙」「ウンスャ、其方……」王妃様と叔母様、両方から見つめられ、私は息を飲みつつ、なんとか口を開く。「あの時は……天界へ帰ったら解毒出来て命は助かる。でも、二度とあの人には会えなくなる。だから帰らないって言って