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妊娠によってぼくの身体は変化した。身体の奥に子宮ができて、赤ちゃんが育っている。悪阻もあったし、お腹も少しずつ大きくなってきた。そして、妊娠と同時に胸も少しずつ膨らんできた。順調に大きくなれば母乳も出るようになるとか。そしてもう一つ、産道ができていて、子宮からここを通って赤ちゃんが出てくる、らしい。診察の時にこの説明を受けたけど、途中からぼくはパニック状態で、あまり内容を覚えていない。情事の後、ギイにあれこれ聞かれたけど、久しぶりの行為でぼくは疲れ切っていたし、そもそも覚えていない
「今日は、良い夫婦の日だって。託生、知ってた?」「良い夫婦の日?・・・て、なに?」「日本語の語呂合わせで、11月22日、1122で、いいふうふ、って読めるだろう?」「ああ~、そうなんだ」「相変わらず、託生は日本語に疎いな」「すいませんね」ギイは、昔から日本人より日本語が堪能なアメリカ人だからね。「正に、オレ達の為にあるような日だよな?」「だからこの花?」いつもより早く帰って来たギイは、大きな花束を抱えていた。誕生日とか結婚記念日とか、プレゼントと一緒に花を欠かさないギイだけど
秋休みの二日目、意外にも早く託生から連絡が来た。散々待たされて、やっぱり会えないと断られると覚悟していただけに、こんなに早く連絡を貰えるとは思わなかった。だから、携帯のディスプレイに見知らぬ番号が表示された時、託生だと確信して、飛び上がらんばかりに喜んでしまった。「もしもし!」勢いよく電話に出て、聞こえてきた声に一気に気持ちが沈む。『・・・崎くんかな?託生じゃなくて悪いね。兄の尚人だ』「あ・・・、こんにちは」お兄さん、ですか。『崎くんも東京にいるんだって?誘ってく
さて、どうするか。義一様からはすぐに託生様を家に戻せと言われている。手段を選ぶな、ということだ。てっとり早いのは、託生様に我々の身分を明かし、家に帰ってもらうこと。義一様と電話を繋げば、すぐに信じてくれるだろう。しかしできればそれは最終手段にしたい。ご自分にSPがついてると託生様が知れば、そんなものはいらないと、我々は任務を外されてしまうかもしれない。・・・私は何を考えているんだ。私は崎家の皆様をお守りするのが役目。他のご家族の警護に回ったとしても、何も問題はないではないか。
「託生さんをこんなに怒らせるなんて、ギイったら、一体なにをしたの?そろそろ教えてよ」「うん・・・」二日前、大きな荷物と望未と葵生を連れて急に来たぼくを、絵利子ちゃんもお義母さんも快く招き入れてくれた。夫婦喧嘩をしたのだろうと、ぼくが落ち着くまで何も聞かずにいてくれたのだ。「実は、これなんだけどね。ギイのスーツのポケットに入っていたんだ」ぼくの怒りの原因となっている物を取り出して、テーブルの上に乗せた。「・・・え?これって・・・・・」本当はギイの物だから勝手に持ってきてはいけない
薄暗い室内。ここは、見慣れたぼくの部屋。さっきまで読んでいた本が、開いたままベッドの上に置いてあって、いつの間にか寝ていたみたいだ。「・・・すごく良い夢を見た気がする」胸を奥がじわっと温かくなるような、そんな幸せな夢だったのに。「どうして夢って覚えていられないんだろう」ぼんやりと記憶に残っているのは、綺麗な外人の男の子。「・・・名前、なんだっけ?」確かにその子の名前を呼んだはずなのに、どうしても思い出せない。それどころか、その子の顔も輪郭がぼやけて、容姿があやふやなものになって
絵利子ちゃんがギイに連絡を取ってくれたのが今朝のことで、ギイは、すぐにNYに戻るから、どこにも行くなよ、と言っていたらしい。すぐと言っても、東京と静岡の移動に、飛行機の便があるし、てっきり帰りは明日になるものだと思っていた。だから、ディナーを終えてデザートにフルーツを頂いていた時に、ギイが部屋に飛び込んできたのを見て、本当に驚いた。「託生!!」「え?ギイ!?」「あ~、パパだぁ~」乱れた髪、額に浮かぶ汗、肩で大きく息をして、ひどく慌てた様子で部屋に入ってきたギイは、ぼくと子供たちを
次の日の朝の便で日本に飛び、空港で待たせておいた車に乗り込み静岡へ。迎えてくれたのは、ひどく驚いた様子のお義母さんだけだった。「え?託生、来てないんですか!?」「日本に帰ってくるなんて聞いてないけど・・・。ごめんなさいね、ここ数日旅行に行ってて、今朝帰って来たところなの。託生、どうかしたのかしら?」どうりで、何度電話しても出ないわけだ。お義母さんの困惑の表情は、託生に頼まれて嘘をついている、とは思えない。実家に帰ってないのだとしたら・・・。「いや、大したことじゃないんです。ちょ
1歳になった望未を連れて訪れた赤池くんの実家。お盆で帰っているというので、お邪魔させてもらった。残念ながらギイは仕事だけど、婚約中という奈美子ちゃんにも挨拶したかったので、望未と二人で遊びに来ている。赤池くんと奈美子ちゃんは、来春式を挙げる予定で、式は4月1日、赤池くんの誕生日。籍を入れるのは、その前の奈美子ちゃんの誕生日だとか。意外とロマンチストだよね?なんて突っ込んだら、土曜で式場が空いていたのがこの日だけだった、なんて言っていた。確かに、エイプリルフールに式を挙げようとは、考
◇◇◇数日前何年も前から進めてきたプロジェクトの契約締結の日、島岡と二人、先方が来る前に最終チェックをしていた時、書類の間からするりと落ちてきた名刺。「・・・島岡、これって、相手方の弁護士チームの一人じゃないか」まさにこれから来る客人の弁護士の中の紅一点、10人男がいたら10人が振り返りそうな美人だ。(オレは見向きもしないがな)「おや、こんなところに名刺を忍ばせておくとは、なかなか油断ならない女性だ」名刺を見せても顔色一つ変えやしない。「先日一緒に飲んだんですよ。偶然バーで会い
仕事中に着信、相手は託生につけているSPから。託生に何かあったのかと急いで出ると、冷静が信条のはずのSPが慌てた声。『仕事中に申し訳ございません。火急の用件かと思いまして』「どうした?託生になにかあったのか?」『はい。正確には託生様になにかあったというわけではないのですが、義一様の耳に入れておいた方がいいかと・・・』SPのはっきりしない物言いにイライラが増す。「だから、託生がどうしたんだ!」『それが、何と言ったらいいのか・・・』言い淀むSP。「オレに気を使って遠回しな言い方をし
託生が泊まる部屋は、一番広いゲストルームを用意させて・・・。でも、恐らく託生は、「こんな広い部屋・・・」と遠慮するだろう。そしたら、「なら、オレの部屋で寝る?」と誘うんだ。もう一台ベッドを入れてもいいし、キングサイズのオレのベッドは二人で寝ても余裕のある大きさだ。・・・駄目だ。託生と同じベッドに寝て、手を出さずにいる自信は、全くない。同じ部屋で一晩過ごすと想像しただけでヤバいのに。期待が膨らみ過ぎたオレは、翌朝使用人に手伝わせて、ベッドを一台部屋に入れた。飲み物と一緒に見
葉山の家に来てみたが、無駄足だった。どうやら託生はNYから出ていないらしい。しかも崎の家にいるなんて・・・。絵利子とお袋が、面白がってかくまっている姿が目に浮かぶ。とにかく、一刻も早くNYに帰らなければ・・・。10,000キロ以上離れた距離、飛行機で半日以上かかる距離・・・。イライラがマックスに達していたオレに、絵利子からの電話。日本にいるなら、あれを買ってこいなど、どうでもいい話に散々付き合わされ、頼み込んでやっと託生に代わってもらえても・・・、聞こえてきたのは、不機嫌
待ちに待った金曜日。朝から落ち着かないオレ。託生の様子はというと、当然のことながらいつもと変わらない。あれ以来、吹っ切れたような託生は、落ち込むこともなく、夜もよく眠れているようだ。オレは悶々として眠れないというのに・・・。授業の内容はもちろん頭に入ってこない。一番後ろの席に座るオレから、前方の席の託生がよく見えて、つい視線は託生にいってしまう。黒板の数式を書き写す真剣な表情、ほっそりした首筋、半袖のシャツから覗く白い腕、涼し気な薄い背中。今まで全身を覆っていた固い殻が取れて、本
発情期の託生はエロ可愛い。それは子供を産んだ後も変わらない。いや変わらないどころか、年々大人の色気が増して、もうそれは、凶悪なレベルだ。「やっぱり、子供を産んだからだよね・・・」隣から聞こえる小さな呟き。ソファで明日の会議の書類をチェックしていたオレにピタリと寄り添うように座り、自分の頭をオレの胸にこすりつけたり、指に指を絡めてきたり、甘えまくる可愛い存在。発情期真っ只中の託生は、オレが仕事をしていようがお構いなしで、こんな風にべったりだ。そのくせ、オレがちょっかいをかけると、
午後一で来た彼らが帰ったのは、夜の9時過ぎ。途中から同窓会は宴会にかわり、ギイが用意したお酒は次々と空になっていった。「ギイ、飲み過ぎたんじゃない?大丈夫?」何度シャンパンで乾杯していたことか。ちなみに、ぼくは授乳中なので、アルコールは一切飲んでいない。「ああ、平気。シャワー浴びたらすっきりした。それにしても、あいつらよく飲むよな」「もう仕事も休みに入ったって言ってたから、忘年会みたいなのりだったね」望未はシッターさんに見てもらって、ぼくも久しぶりに楽しませてもらった。「そういえ
「託生!お前、オレと離れている間、何もなかったって言ったよな!?襲われてるじゃないか!」「でも、未遂だし・・・」葉山の中では、あの事件でさえも何もなかったにカウントされてるんだろう。この話を僕と野沢も後から聞いて肝が冷えた。校内で起こることに僕は対処できないし、野沢だってそもそも学部が違うから行動を共にすることは少ない。しかし葉山一人にしておいては危なっかしいし、また同じことが起きないとも限らない。そこで井上佐智さんに頼むことにした。多忙を極める佐智さんに頼むなど気が引けたが、ギイ
日曜日、駅で張り込み中。オレは駅の中にあるコーヒーショップで、託生の様子を窺っている。ベンチに座り、改札の向こうを覗いてみたり、時間を気にしている託生は、明らかに人待ちの様子。しかも相手の到着を楽しみにしていることも明らかだ。託生は普段は大人しく、自分からクラスメイトに話しかけるようなタイプではない。教室の隅で本を読んでいることが多く、一人でいることを好んでいるように見える。その託生が、あんなにもそわそわして・・・。待つこと10分、託生の顔にぱっと笑みが広がり、改札へと駆け寄っ
葉山尚人、6歳年上の託生の兄。都内の大学に通う大学4年生、託生のことが心配で、時々週末会いに来ているらしい。見ての通りの仲良し兄弟、・・・というか、仲が良すぎないか?顔も似ていないし、血が繋がっていないのでは?と疑ってしまう。「託生、野菜残してる」スプーンで付け合わせのほうれん草のソテーをすくって託生の口元へ。眉を八の字にして困ったように兄を見るが、駄目だと首を振ると、嫌々ながら口を開けてスプーンのほうれん草をパクリと食べる。その後慌ててコップの水で流して込んでいる姿に、クスリ
3年になって、オレのせいで託生と自由に会えなくなって、自業自得だと分かってはいるが、それでもどうにも割り切れない時がある。「昨日街に買い物に行って、帰りのバスで、葉山先輩と一緒になったんだ」「一緒になったって、ただ同じバスに乗ったってことだろ?」こんな風に託生の噂がどこからともなく耳に入ってくる。「そうだけど、まぁ、聞けって。バスが結構混んでて立ってたら、葉山先輩が隣どうぞって言ってくれたんだよ」「優しいなぁ~。まさかお前、隣の席に座ったのか?」隣に座っただと!?
託生が子供たちを連れて、実家に帰ってしまった。葉山の家に電話をしたが誰も出ない。向こうは午前10時頃、お義母さんは買い物にでも出かけているのか?それに、託生はまだ空の上か?確かめようにも、携帯を置いていってしまったので、GPSで居場所確認もできない。そもそもどうして急にこんな行動に出たのか、全く分からない。『実家に帰らせていただきます』たった一行のこのメッセージに、託生の怒りがひしひしと伝わってくる。普段の託生は、こういう伝言を残すときは、仕事お疲れさま、とか、すぐ戻るか
「だって、ギイだよ。こんな名刺、ポケットにこっそり入れられるなんて、そんな隙見せるはずないだろう?」「・・・確かに。ギイなら、気を持たせるようなことしないわね」そう、それは昔から一貫していること。「もしこれが隙をついて入れられたものだとしても、すぐ気づくと思うし、ぼくの目に触れるなんてこと、絶対しないと思うんだ」きっとそういう誘いは多いんだろうけど、ギイが応じるはずない。それは信じてる。「だから、これは女性にポケットに入れられて、ギイはそのまま放置したんじゃないかな」「・・・それで
郊外に住む祖母に会いに行くついでに、たまたま立ち寄ったスーパー。「あ、あの子だ」いつだったか公園で見た、忘れもしないあの愛らしい姿、ただカートを押しているだけなのにすれ違った人間が振り返るほど、人目を引いている。「やっぱり、可愛いなぁ」前に見た時よりも少しふっくらとしたような・・・?でもそれでかえって可愛らしさが増した気がする。いけないと分かってはいるが、ついつい後を追ってしまう。買い物カートに次々と食料品や日用品を入れていくところを見ると、彼はこの辺に住んでいるのかもしれない。
島岡に仕事を押しつけて、半ば無理矢理退社して、いつものように急ぐ帰路。出迎えてくれたのは愛しい託生と、ミニチュア託生と言っていいくらいそっくりな望未。「おかえり。今日は随分早いんだね」「パパ、おかえり~」8時前に帰宅したオレに、望未も嬉しそうに抱きついてくる。ほら見ろ、こんなに喜んでいるじゃないか。「葵生は?」「まだ起きてるよ。着替えたら抱っこしてあげて」オレの上着を受け取る新妻のような託生を見る度に、いつも胸がキュンとする。やっぱりオレ達に倦怠期なんて存在しない。なぁ、
さて、章三のおじやか。・・・どうする?本人を連れてくるのが手っ取り早いが、章三も社会人、すぐに休みも取れないだろうし、そもそも移動に半日以上かかる。レシピを聞いてオレが作るか。日本は今5時過ぎ、ちょっと早い気もするが、章三なら起きてるかもしれないな。迷うことなく手にした携帯、アドレスから相棒の名前を探し発信ボタンを押す。『・・・・・・はい』「おはよう、章三。起きてたか?」『今起きたよ。・・・げっ、まだ5時じゃないか!』「もう起きる時間だろ?モーニングコールだ」『ありがた迷惑っ
義一様より、託生様と望未様に護身術を教えるようにと申し付かりました。託生様は相変わらず危機管理が薄いので、それは結構なことだと喜んでいたのですが・・・。「はい?身体に触れるなと?」「そうだ。託生に教える時は、身振り手振りのみ、ベタベタと触るのは禁止だ」ベタベタとは・・・。「必要以上にお身体に触るつもりは毛頭ございませんが、さすがに一切触れるなというのは・・・」身体の返し方とか、手の掴み方とか、身体の動きや力加減を教えるのに、触れてはいけないとは無理がある。それは義一様も分かって
お義母さんに望未の習い事を相談した次の日、崎の自宅に呼ばれて、そこで紹介されたのが語学の家庭教師だった。30分の体験レッスン、色んな語学を教えてもらい、望未はどれも楽しそうに受けていた。その後は、スイミングやダンス、お義母さんお勧めのスケートまでコーチを受けたけど、望未がどれもそつなくこなすから、お義母さんはすっかりその気になっている。「一つに絞るなんてもったいないわね。望未ちゃんはどれも上手だから、やりたいものを全部したらいいわ」「ええ!全部ですか!?」それはやりすぎだよ~。「お義
章三に教えてもらったレシピ通りに作ったおじや。出来栄えも完璧だと思っていた。「どうだ?」「うん、美味しいよ」そう言う割に、一口食べたきり手が止まっている。「じゃあ、もっと食べろよ」「うん・・・」今度はスプーンでかちゃかちゃかき混ぜるだけ。「託生?やっぱり味が違うのか?」「味っていうか・・・、人参が入ってる」それは、章三の指示通り細かく刻んで入れた人参だぞ、駄目なのか?「こんなにいっぱいあちこちに入ってるから、よけて食べることもできないし・・・」「細かく刻むのがポイントって
夜中の3時、緊急を告げる携帯の音。登録相手によって、着信音を変えている私は、電話をかけてきたのが、一番厄介なあの方だとすぐに分かった。「・・・はい」いつ何時でも呼び出しに応じられるよう、携帯は常時近くに置いてある。それでも、すっかりと熟睡していた私は少しだけ電話に出るのが遅れてしまった。それが、電話の向こうの相手をかなり苛つかせてしまったらしい。『おい、今どこで何をしている!?』「・・・自宅で、・・・休んでおりました」いつもは落ち着いた物言いで、人前で感情を乱すことな
NYからのエアメイル、丁寧なアルファベットの並びに、思わず笑みが漏れる。封筒を開けると、わずかに彼の甘い香りがした。一度だけ抱きしめた細い身体を思い出して、今でも甘酸っぱい気持ちになる。便箋には久しぶりに見る日本語、これまた彼の性格を表すような優しい文字が並んでいた。「子供、生まれたんだ」内容は無事に出産したという報告だった。「しかも女の子なんて、可愛いんだろうな」葉山に似ていたら勿論可愛らしいだろうし、あの彼に似ていたとしても、それは見目麗しい赤ん坊だろうな。それにしても、葉山