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さて、章三のおじやか。・・・どうする?本人を連れてくるのが手っ取り早いが、章三も社会人、すぐに休みも取れないだろうし、そもそも移動に半日以上かかる。レシピを聞いてオレが作るか。日本は今5時過ぎ、ちょっと早い気もするが、章三なら起きてるかもしれないな。迷うことなく手にした携帯、アドレスから相棒の名前を探し発信ボタンを押す。『・・・・・・はい』「おはよう、章三。起きてたか?」『今起きたよ。・・・げっ、まだ5時じゃないか!』「もう起きる時間だろ?モーニングコールだ」『ありがた迷惑っ
ギイがちゃんと首を支えろだとか、顔を近づけるなとかうるさく言うから、遠慮して誰も望未を抱いてくれない。望未は望未で、この騒がしい中うとうとしたり、次々とのぞき込んでくる見知らぬ顔を見ても泣かないし、興味深げにじ~っと見返したり、案外楽しんでるのかも。「それにしても、見事に葉山にそっくりだな」「本当に、可愛いよね」矢倉と八津、それに政貴と章三がベビーベッドを囲んでいる。「葉山そっくりで、しかも女の子。望未ちゃん、年頃になったら大変だな」「ああ、確かに・・・」矢倉の言葉に、みんな望未の
ギイと葉山の自宅は都心から離れたところにある閑静な住宅街の一軒家。僕に用意されていたのはゲストルームの一室。こいつらは長い遠距離恋愛を実らせての新婚だし、もしかしたら自宅に泊めることはせず、どこか近くのホテルに部屋を取ってくれているんじゃないかと、本当は少しだけ期待していた。「この部屋は一階、奴らの寝室は二階、離れているだけまだましか・・・」「何がましだって?」いつの間にかギイが戸口のところに立っている。「いや、なんでもない」「コーヒー淹れてるからこいよ。章三には色々聞きたいことが
日本から送られてきた映像を見ながら完成させたおじや。章三のアドバイス通り、今回は人参抜き。「どうだ?」「美味しい!赤池くんと同じ味だ!」今度は嬉しそうに、二口三口と食が進んでいる。「これなら食べられそうか?」「うん!」やっと食べてくれたと安心したのも束の間、半分くらい食べたところで託生の手が止まる。「どうした?」「なんか、お腹いっぱいで・・・」嘘だろ?前菜のスープ程しか食べてないだろう。「それに・・・、ちょっと、きもち・・わるい」「お、おい、託生・・・」テーブルに置い
お義母さんに望未の習い事を相談した次の日、崎の自宅に呼ばれて、そこで紹介されたのが語学の家庭教師だった。30分の体験レッスン、色んな語学を教えてもらい、望未はどれも楽しそうに受けていた。その後は、スイミングやダンス、お義母さんお勧めのスケートまでコーチを受けたけど、望未がどれもそつなくこなすから、お義母さんはすっかりその気になっている。「一つに絞るなんてもったいないわね。望未ちゃんはどれも上手だから、やりたいものを全部したらいいわ」「ええ!全部ですか!?」それはやりすぎだよ~。「お義
義一様より、託生様と望未様に護身術を教えるようにと申し付かりました。託生様は相変わらず危機管理が薄いので、それは結構なことだと喜んでいたのですが・・・。「はい?身体に触れるなと?」「そうだ。託生に教える時は、身振り手振りのみ、ベタベタと触るのは禁止だ」ベタベタとは・・・。「必要以上にお身体に触るつもりは毛頭ございませんが、さすがに一切触れるなというのは・・・」身体の返し方とか、手の掴み方とか、身体の動きや力加減を教えるのに、触れてはいけないとは無理がある。それは義一様も分かって
葉山託生、バイオリン科の一年生。彼の存在を知ったのは、特待交換留学生を決める選考会だった。線の細い涼し気な立ち姿、きめの細かい白い肌とそれに対比する綺麗な黒髪、少し潤んだ黒い大きな瞳が印象的で、男相手に見とれたのは生まれて初めてだった。物静かで、風が吹けば簡単に飛ばされてしまいそうな繊細な印象は、弓を握ると一変した。「・・・すごい」「誰だよ、あいつ?」「一年らしいぞ」恋などしたこともないような清楚な容貌は、バイオリンを奏でると妖艶な色を纏い、その姿と音色に誰もが目を奪われた。俺も
「先程託生さんに説明した通りなんですけどね・・・」Dr.ジョンソンの苦笑い。一度自宅に戻り、朝飲んだ胃薬を持って、もう一度訪れた病院。ギイの言葉通り、予約が入っていてすんなりと通された。1か月先まで予約が一杯のはずなのに驚きだ。受付で渡した胃薬はすぐに成分などを確認してもらって、問題なしと太鼓判を押してもらった。「パートナーの方も来られていることですし、これから出産までの課程を説明しますね」まず妊娠期間・症状は女性のそれと同様なこと。悪阻は個人差があるので何とも言えないということ
『・・・ちょう、会長!』呼び掛けられてハッと我に返る。執務室のデスクで書類に目を通していた・・・はずだった。だが、気を抜けば違うことを考えてしまう自分がいる。『どうかされましたか?体調が優れない様でしたら・・・、』『いや、大丈夫だ』先程呼び掛けてきた秘書が気遣わしげに問い掛けるのを遮って、ギイは姿勢を正した。『ああ、この書類だが。開発部の方に回しといてくれ。あと、これも。ここの数値をもっと明確にシュミレーションするよう伝えろ。それからこの部分―――、この結論に至る論拠が薄い。もっと
過ぎ去ったあの日。ギイとの決別に傷付いて短期留学から戻った託生を温かく迎えてくれたのは桜井と美琴だった。彼らには詳しいことは話してはいなかった。ただ、ジュリアードへの留学を目指して生活の全てを注ぎ込んできた託生を間近に見ていたふたりだ。帰国した託生の有り様にそれは酷く驚いた。それは―――そうだろう。あの時の自分は酷い状態だった。今振り返ればそう思う。「なあ、何があったんだよ。」桜井に訊かれて、託生は何も答えられなかった。何も教えてなかったから。だから話せなかった。「なんで
章三に教えてもらったレシピ通りに作ったおじや。出来栄えも完璧だと思っていた。「どうだ?」「うん、美味しいよ」そう言う割に、一口食べたきり手が止まっている。「じゃあ、もっと食べろよ」「うん・・・」今度はスプーンでかちゃかちゃかき混ぜるだけ。「託生?やっぱり味が違うのか?」「味っていうか・・・、人参が入ってる」それは、章三の指示通り細かく刻んで入れた人参だぞ、駄目なのか?「こんなにいっぱいあちこちに入ってるから、よけて食べることもできないし・・・」「細かく刻むのがポイントって
降り立ったケネディ国際空港、到着ゲートで待っていたのは、満面の笑みを浮かべたギイと、申し訳なさそうな顔で隣に寄り添っている葉山。二人に会ったら言ってやろうと思っていた苦情の数々は、痩せて一回り小さくなったような葉山を見たら、引っ込んでしまった。「よお、相棒。随分強引な手を使ってくれたな」それでもギイには小言の一つでも言ってやらないと気が済まない。ギイの笑みが気まずいものへの変わったところを見ると、無茶なことをしているという自覚はあるらしい。「ごめんね、赤池くん。わざわざこっちに来てもら
空港を出て、ギイの運転する車に乗り、程なくして葉山はすやすやと寝てしまった。葉山はシートベルトをすると気持ち悪くなるからと後部座席で横になり、僕は助手席に座っている。「疲れやすいみたいで、家でもよく昼寝してるよ」「葉山、全然食べないのか?」「食べることは食べるんだが、食べる量が少ないうえに、もどすことも多いし・・・、本人は頑張って食べようとしてるんだけどな」バックミラーで葉山を確認するギイのまなざしは優しい。「それでどうにもならなくなって、僕を呼んだわけだ?」「託生に何が食べたいか
細い身体を抱きしめたら、甘い香りに包まれて、身体の奥に熱が灯る。固くなった下半身を押しつけたら、葉山の身体が震えた。葉山を恋人にすることが無理でも、一度だけでも抱いてみたい。熱にうかされた葉山の姿が見たい。「・・・こんなことをして、何の意味があるんですか?」感情のない声、俺を見る冷たい視線。「意味?俺にとっては十分意味があるよ。君は恋人に夢中みたいだけど、この一瞬だけでも君を手に入れられればそれでいい」葉山とセックスしたら、俺もあの情熱を手に入れられる。あんな風に聴く者を魅了する
「ふぅ~」「お疲れ様でした」オレが今手掛けている案件で、一番大きな契約が無事まとまり、ほっと一息。島岡の表情も幾分柔らかい。気が緩んでいる今がチャンスか?「後は事務処理だけだよな?島岡に任せるから、オレ帰ってもいいか?」途端に厳しくなる表情。「駄目です。あなたの仕事はこれだけじゃないんですよ」「だが、託生が・・・」「それは、奥様がご自宅にいらっしゃってると聞きましたが?」・・・だから心配なんだよ。「じゃあ電話だけいいだろ?」「5分で終わらせてください」こいつも有言実行、
葉山はもてる。それは男女問わずに。やはり葉山に惹かれるオレの美的感覚はおかしいわけじゃない。一年で唯一最終選考まで残ったこともあり、学内で葉山は目立つ存在になり、よく噂話をきくようになった。どんな美男美女に声を掛けられようとも、誰の誘いにも応じない。告白されても、間髪入れずに断る。断り文句は決まって、―――恋人がいるから―――恋人の影など全く感じさせない葉山に、皆バイオリンが恋人という意味じゃないかと言うようになった。・・・でも俺は知っている。葉山が密かに部屋に招き入れてい
小さい頃、両親はぼくに関心がなくて、ぼくの為に何かしてもらった記憶はほとんどないけれど、唯一バイオリンを習わせてくれたことには感謝している。辛い毎日の拠り所になったこと、それになによりも、バイオリンがぼくとギイを結び付けてくれたか。バイオリンという手段がなければ、ギイを追いかけてNYに行くことはできなかった。今は副産物で習ったピアノが仕事になったし、一応本業はバイオリンになるのかな、佐智さんのツアースタッフに入れてもらって、作曲をしてみたり、手に職じゃないけど、小さな頃の習い事が一生物にな
絵利子ちゃんがギイに連絡を取ってくれたのが今朝のことで、ギイは、すぐにNYに戻るから、どこにも行くなよ、と言っていたらしい。すぐと言っても、東京と静岡の移動に、飛行機の便があるし、てっきり帰りは明日になるものだと思っていた。だから、ディナーを終えてデザートにフルーツを頂いていた時に、ギイが部屋に飛び込んできたのを見て、本当に驚いた。「託生!!」「え?ギイ!?」「あ~、パパだぁ~」乱れた髪、額に浮かぶ汗、肩で大きく息をして、ひどく慌てた様子で部屋に入ってきたギイは、ぼくと子供たちを
車を飛ばして公園まで行くと、託生はベンチに座りハンカチを目にあててまだ泣いている。心細げなその様子が、遠目から見ても分かるほど可愛らしい。こっそりと託生につけているSPにはすぐに連絡し、託生に近づこうとする不審人物は即刻排除する様に指示しておいたが、やはり正解だな。遠巻きに託生の様子を窺っている輩がちらほらといる。一度声を掛けようとしてSPに追い払われたが諦めきれず、というところだろう。「託生!」オレの声に顔を上げた託生が泣きながらオレに駆け寄ってくるものだから、オレの方が慌ててしま
"またか"章三にそう言われてしまうだろうと予想して、件の部分を敢えて話さずに遣り過ごそうとした託生である。予想通りに放たれてしまった言葉。"またか"だが、章三のこの発言も不本意ながら頷けるものなのだ。何故なら、それは託生自身も思っていたことだから。相応の苦さと共に―――「なんでいつもこうなるんだろう・・・。」こう、とは。つまり誰かしらに言い寄られてしまうこと。今回のジョージの様に、いわゆる"プロポーズ"とキッパリと言い切られることこそ稀だが。"援助"という名にかこつけた下心丸
『私のせいで託生さんにまで迷惑をかけて申し訳ございません』「いえ、そんな・・・。でも、本当に島岡さんが貰った名刺なんですか?ギイをかばってるとかじゃなくて?」『ええ、あれは私がプライベートで貰ったものです』さらりと言われてしまっては、これ以上聞くこともできない。「そう、なんですか・・・」『私も男ですから、夜遊びくらいするんですよ』ギイとは違う渋い男の色気を含んだ低い声に、なんだかドキリとしてしまった。「なに顔赤くしてるんだよ!」隣で聞き耳を立てていたギイが途端
今すぐに帰りたいというオレの申し出は、島岡に却下され、イライラしながら仕事を片づけていると、SPから連絡が入った。たまたま近くにいた絵利子が駆けつけ、すぐに車に乗せたので、事なきを得たようだ。しばらくすると絵利子からも電話が入った。『どうして託生さんはノーブラで生活してるの?』「悪い、オレも全然気づかなくて」一般的に見たら託生の胸は大きくない。というか、むしろ小さい。ブラが必要だとは、正直思わなかった。「で、託生は?一緒なんだろう?」『今ブラの試着をしているところ』ブラの試着・
さて、どうするか。義一様からはすぐに託生様を家に戻せと言われている。手段を選ぶな、ということだ。てっとり早いのは、託生様に我々の身分を明かし、家に帰ってもらうこと。義一様と電話を繋げば、すぐに信じてくれるだろう。しかしできればそれは最終手段にしたい。ご自分にSPがついてると託生様が知れば、そんなものはいらないと、我々は任務を外されてしまうかもしれない。・・・私は何を考えているんだ。私は崎家の皆様をお守りするのが役目。他のご家族の警護に回ったとしても、何も問題はないではないか。
♭君と一緒にタクミくん音大卒業後、助手三年目の設定で書いてます。“タクミくんの音をみんなに聴いて貰いたい”と“二人を幸せに”を目標に勝手に未来捏造していくオリキャラ満載のシリーズです。→♪1(1~2)完タクミくん、一念発起でコンクール出場を決意します。→♪2(1~4)完大学での佐智さんとタクミくん。オリキャラ関くん登場。→♪2のおまけ(1~3)完関くん視点での♪2。オリキャラ、門下生の皆さん登場。→3(1~4)完託生くんとの出会いから現在までを佐智さん視点で。黒佐
『タクミ!今日暇?』レッスン室からの出掛けに捕まってしまった。『暇・・・ではないけど、何?』僕はたどたどしい英語で返事する。交換留学の選抜試験に何とかパスして念願のNYにやって来た僕は、ジュリアードの学生として忙しい毎日を過ごしていた。何しろ留学期間はたったの一ヶ月。短すぎる。それでもジュリアードの雰囲気は桜ノ宮坂とは全然違っていて。オープンで誰もが生き生きとしている。すごく新鮮だ。学生たちは皆、練習に貪欲に打ち込んでいて。僕も頑張らないと!という気持ちになる。僕に声を
100話のお祝いコメント、ありがとうございました(*^o^*)昨夜はアップした後、すぐに寝てしまったので、朝起きて気づきました。このシリーズ、私もお気に入りなので、子供たちの成長とともに話を続けていきたいなと思ってます♪できれば、望未の嫁入りくらいまで・・・。ギイが荒れそうだなぁ。なかなか結婚を許さないんだろうな(´艸`)◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇※後日談です次の日、ギイは早速デートをしようか、なんて言ってきたけど、望未がギイにべったりで、とても二人で出掛けられそ
託生様と望未様の護身術のレッスンは、週1~2回のペースで行われている。そして今日も・・・。「それでは次は、相手の後ろに回り込む動きです」私ともう一人のSPが見本を見せる。「え?え?え?」途端に託生様は混乱されたご様子。「もう一度、ゆっくりしてもらってもいいですか?」今のも十分スローでしたつもりでしたが・・・。さらにスローにして見せても、いまいちピンときていないようです。「おっ、やってるな」「ギイ、どうしたの?」「パパ!」「忘れ物を取りに来たんだ」部屋に入って来ら
留学期間は飛ぶように過ぎて。日本への帰国の期日の迫ったある日。託生は意を決してギイを訪ねた。会わせてはもらえないだろう・・・そんな託生の予想は呆気なく裏切られた。ギイの実家の執事はごくごく丁重に託生を迎え入れてくれた。「義一様のご学友の方ですね?承っております。こちらのお部屋でどうぞお待ち下さいませ。」「あ、ハイ。」流暢な日本語で恭しく告げられ、慌ててペコリとお辞儀した。もっと刺々しい対応を覚悟していただけに、完全に拍子抜けした託生である。「ギイと僕とのこと、知らないのかな?」
傷付き軋んでいるギイの心が痛い。悲しいくせに。泣きたいくせに。誰にも助けを求めない。―――求められない?助けてって言えないギイの心を癒すことなんて僕なんかじゃ全然役不足かもしれない。けれども。せめて。傍に居させて欲しい。悲しいこと、苦しいこと。怒りも涙も。全部受け止めてみせる。君は一人じゃない。一人になんてさせないから。だから。この手を取って欲しい。なのに―――。ギイの握り締められた指先がピクッと震えて緩められ・・・そしてまたキツく握られて・・・。心の葛藤を示
葉山の家に来てみたが、無駄足だった。どうやら託生はNYから出ていないらしい。しかも崎の家にいるなんて・・・。絵利子とお袋が、面白がってかくまっている姿が目に浮かぶ。とにかく、一刻も早くNYに帰らなければ・・・。10,000キロ以上離れた距離、飛行機で半日以上かかる距離・・・。イライラがマックスに達していたオレに、絵利子からの電話。日本にいるなら、あれを買ってこいなど、どうでもいい話に散々付き合わされ、頼み込んでやっと託生に代わってもらえても・・・、聞こえてきたのは、不機嫌