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それは思い返せば奇妙な出来事だった。いつもの朝、いつもの風景ではあったが何処か空気が違う。シンは目覚めて感じた胸騒ぎにすぐ傍で安らかに眠るチェギョンの手を握りしめた。『…ん…シン君?どうしたの?』『いや、、何となく…寒くないか?』『大丈夫…もう少し…このままで』?『ん?』『だから、もう少しこのまんまでいたいなって…離れたくないの…』チェギョンは腰に腕を回すと顔を隠すようにシンの胸に丸くなった。『…尚宮から聞いたか?今日の午後は国立博物館の竣工パーティーがあるが…来れそうか?』
友人達はそれぞれに昔語りを始める。春の庭は開放され時折冷たい風が邸内を駆け巡る。『あのさ、妃宮様。。』『ファン君?』『あー、、えっと…こないだシンに電話かけさせたの俺。最近発掘した新人女優…まぁけど…ごめんな。知らなくて。そんな事になってるとは…ただ本当にアイツ…シンが元気なかったのは気になったからさ。』非礼を詫びに来たシンの友人にチェギョンは微笑んだ。『…私が居なくても。シン君には大事な友達もいるし。大丈夫かと思ってた』『なになに?シンの話?』ギョンとインもやって来る。『そう
季節は移る。宮殿内を吹き抜ける風は暑さを和らげていく。かつて顔を合わせば良くない感情を互いに向け合っていた幼い皇太子夫妻は今はなく、紆余曲折の後徐々に溶け合い、今では側近達が困惑するほどの熱愛ぶりである。公務の合間を縫っては妊娠中の妻の様子を見に東宮に戻る。愛妻家の夫となったシンを内官は感慨に浸り見ていた。2人の住む洋風の建物は王朝文化からはかけ離れてはいるもののこの宮廷に新しい風を運んだ新婚夫婦らしいものだと内官は返り見ると1人頷いた。『コン内官…』硬い表情で公務を終えたシンが内官に
宮廷内の庭を解放した春の祝宴会は宴もたけなわ。簡易の記者会見が終わると和やかな宴会に変わり国の要人達はシンとチェギョン夫妻に挨拶をと列が出来た。誰が見ても火を見るより明らかな歓待ぶりである。記者たちも誰が何番目に挨拶したと事細かに筆記していた。かつては孝烈皇太子の友人としてファヨンに手を貸していた記者もいた。皇室の信用を失墜させる事に加担した記者は国外へ逃亡を図る直前にシンに呼び出された。記者としての業界の信頼を無にし立場を追い、この国で一切の仕事が出来ないようにする事は造作もないが報
シンの滞在するホテルの一室。一際重厚な扉の前には物々しい雰囲気で護衛官・イギサが立つ。チェギョンにも本国では三名の女性イギサが付く。タイへの公務中のシンを訪ねたユルはかつて皇太子だった。僅か5歳の頃まで皇太子として景福宮で暮らした。父・孝烈皇太子が急逝したため第二皇位継承権の叔父が帝位に就くと皇太子の位は従兄弟であるシンへと移行した。そして、母ファヨンと共に宮廷を追われた。それさえ無ければチェギョンの許嫁は本来、義誠君と呼ばれたユルであった。そんな昔に思いを馳せながらシンは口を開いた
公務を終え帰路に着いたシンは静かな筈の東宮の奥から聞こえる不自然な音に不審を感じながら更に歩みを進めた。この広い宮殿の中でも二人の新居となった東宮は珍しく洋風に造られている。周辺は父が帝位についたと同時に入宮し、幼き頃より慣れ親しんだ景色。当然ながら建造物はどれも歴史的な価値がある。丹青の彩と白い砂、赤松、柳、ハンノキ…深き緑に普段なら癒される。妃宮との安らぎの場所でもある。中央のパティオから左右に夫妻のそれぞれの部屋がある。一先ずは原因を突き止めようと妻の部屋に向かう。『!!』入り
チェギョンは改めて皇帝陛下である義姉、へミョンに呼ばれ、彼女の自室にいた。皇太子のスキャンダル、妃宮と義従兄ユルとの噂、皇太子夫妻の不仲説が王室を揺るがし、廃位、廃妃問題が勃発した。義誠大君との権力争いから宮廷内での放火事件まで起き、それを収める為にチェギョンは国を出た。皇太子妃の不在の間、さぞ王室は無事に平静を取り戻しただろうと想像していた。しかし、へミョンによれば、世論の反感緩和は一筋縄ではいかなかったらしい。『考えが甘かったみたいね…貴方を国から追い出せば反省したと国民は皇室を許すだ
「会いたかった」と言ってくれたチェギョンが、シンの腰に腕を回してしなやかな体を預けてくる。彼女のシトラス系の爽やかな香りが二人を包んでいた。その香りを感じながら、シンは決心していた。“意地を張るのはやめよう”と。チェギョンと二人でいることがあまりに自然で、そして心地よいと気づいたから。いや、気づいていたのにそれを知らぬ顔をしてきたのは自分だ。シンは華奢な体を抱きしめた。「僕もだ…」身をかがめ、彼女の耳元で囁いた。「シン…」応えてくれた彼女の声が震えているようだった。何の警戒心
宮は薄暗い雲に包囲されているようだった。現に後日ある一定の時間、宮の上空の雲が渦を巻いていたと世間を騒がせた。チェギョンはシンや慌ただしく消えたヨナを思い不安を覚えていた。『お前はここにいろですって。。。何よ…ヨナは私の友人よ!』意を決すると立ち上がる。シンはヨンジンなる青年に対峙していた。コン内官も然り。『君は何処からきたんだ?』『どこから…って…まぁマカオに住む前はこの辺りだけど』『先程、姉上からの連絡で分かったことだが、防犯カメラを解析した。この東宮殿へは正門からの訪問では
「全く、油断も隙もないな」シンは窓に映る自分に向かって呟いた。手に持ったブランデーをちびりと飲む。「何が?」後ろからチェギョンが抱き付いてきた。シンは窓ガラスに映る妻を見て、それから体を捻った。ガラスに映る彼女だけでは満足できないから。「ブツブツ言ってる」チェギョンが伸びあがって首をかしげている。「なんでもないよ」「そぉう?なんだか深刻そうな顔してたのに」シンは脇の下から顔を出す妻に身を屈めてキスをした。キスをするたびに、彼女が自分のことをどう思っているのだろうかと、考える必要も
チェギョンが意を決したように前を向き、話し始める。チェギョン「今回の事は、私に対する暴言でした。でも、私はあまり気にしてなかったのです。妃殿下としてまだまだだと言われていることは、最もだと思っていたし、【宮】の家族や友達などが私をちゃんと見ててくれて認めてくれていたから。これから努力していき、少しづつ認めてくれる人が増えて行けばいいなと思っていました。でも、私個人への暴言は許せても、妃殿下への暴言は許せることではないのだそうです。妃殿下への暴言は、即ち【宮】への暴言となるからです。高校
『明日ね…』『あぁ、明日…』シンとの電話を切った直後からチェギョンは言い知れぬ不安に襲われていた。『妃宮様?』無言のまま携帯を耳に付け静止した妃宮にチェ尚宮は声をかけた。『妃宮様、どうかなさいましたか?何か心配事でも…』尚宮の声に気付く気配もなくゆるやかに長い髪を不安に揺らしながら主は携帯を見つめる。それから気を取り直したように顔を上げると再び携帯を耳に当てた。『あ…もしもし…お久しぶりです・・コン内官?チェギョンです…。はい。私も尚宮も元気ですよ。え?シン君が画像を?・・ありが
ささやかな目映い光が部屋の中央まで射し込んでいる。東宮の朝は以前と同じ女官や尚宮、内官が集まり賑わいを見せていた。女官の一人が不安気な面持ちで内官へ駆け寄る。『申し上げます。』『ん?何かありましたか?』『はい…実は…』話し始めた女官を差し置き、昨夜を思い出す内官。『殿下は昨夜雨に濡れた様子であったな…風邪など召されてないといいが……。チェ尚宮、念の為お二人に薬湯を用意しておいた方が良いかも知れぬ…』チェギョンの準備に忙しい尚宮を呼び止めた。『はい。コン内官。すぐに準備させます
『ちょっと!大丈夫ですか?』『…様っ?』暗がりに甲高い声が耳に飛び込んで来る。どうやら自分を呼ぶ声のようでチェギョンは薄っすらと瞳を開いた。誰かに抱き留められているようで、肩を強く揺さぶられる。『妃宮様っ、大丈夫ですかっっ?』チェ尚宮の声にもう一人が強く反応する。『え。。チェ、チェギョン?』『大変申し訳ございません、あまり動かす事も危険ですのでこのまま…護衛のものが参りますので…』『あら?貴女…チェ尚宮さん?』『あ、あなたは…』『…ん…』妃宮を支える通りすがりの人物に尚宮
俺はイ・シン、王立大学付属高校映像科に在籍する高校3年生だ。そして、何を隠そうこの国の皇太子でもある。自分で言うのも何だが眉目秀麗にして頭脳明晰…これは決して自惚れでも何でもなく、国民が俺を『完璧王子』と呼ぶのだから周知の事実だ。なのに…その完璧王子であるこの俺が、何の因果かまだ高校生だというのに無理矢理結婚させられたんだ。それも、相手はお祖父様である聖祖皇帝陛下が生前にお決めになった許婚とやらで、およそ才色兼備とは程遠い一般庶民の女だ。何故お祖父様はこんな女を選ばれたのか首を傾
チェギョンは震える体をぎゅっと抱きしめた。ここから逃げ出すことが出来たら、どんなにかいいだろう。結婚式の日の夜もそうだった。でも、あの時のほうが実際は良かったのかもしれない。夫のことを何も知らなかったから。この1か月でチェギョンはシンのことを沢山知った。今まで兄のユルの陰に隠れていたシンが、実はジャックに負けず劣らず賢い王太子であると分かった。本当の彼は、ユルより数段優秀なのではないだろういか。ユルがどこか人を見下したような態度をそこはかとなく漂わせていたのに比べて、シンはどこまでも
「チェギョン!チェギョン・ボーナム!」「ゼイン?」名前を呼ばれてチェギョンが振り返ると、昔、近所に住んでいたゼインが立っていた。チェギョンが彼を“幼馴染のゼイン・レイノルズ”だと認識できたのは、茶目っ気のある黒い瞳と、肉厚の唇、黒いクルクルした髪が全く変わっていなかったからだ。それ以外のところは全く違うけれど。「すっかり紳士になってて、見間違えちゃった」近寄ってきたゼインが、大きめの口を開けて笑った。「チェギョンこそ大人びてて驚いたよ」「当り前よ。あれから何年たったと思っているの?」
東宮殿に着く。女官が頭を下げながらエントランスにあたるパビリオンの扉を開ける。その途端、チェギョンが飛びつくような勢いで寄ってくる。チェギョン「シン君お帰りなさい。今日はごめんね。オッパ、いらっしゃい。私達のお城にようこそ」シン「ただいまチェギョン。いや、今日は色々考えさせられたよ。チェギョンからのペナルティもちゃんとするから、見ててくれるか?」チェギョン「ふふっ、当たり前だよ。奥さんだもんね。シン君の手助けが出来るように頑張っちゃうんだから。」ジノン「いやー青春だねー。でも、友達も
最長老「こんな老人が出張らずとも、ヒョン家のジノン殿がちゃんと決着をつけてくれたが、まあ年寄りの心配性じゃと笑ってくれんかの。本当は久しぶりに姫に会いたかっただけなんじゃが。ふぉふぉふぉ。殿下、うちの“お友達”が姫に会いたがっておるんで、たまには我が家にお越しください。まあ、話しを聞きつけたジジイ共が大挙して押し寄せるじゃろうが。」シン「はい、婚姻後3ヶ月が経ちそろそろ妃宮の訓育も落ち着きましたので、新行を考えていたのですが昨日思いがけず行いましたので、今度は最長老のお宅へ遊びに行かせてもら
日の落ちた東宮殿は女官や内官が慌ただしく行き交う。『いたか?』厳しい口調で女官の一人を呼び止め、女官は思わず肩を竦めた。『いえ…殿下申し訳ありません…』女官は深々と頭を下げる。『……』自室を右往左往し、更に思いついた様に突然チェギョンの部屋へ向かうシン。大きな音を立て扉を開く『…何処に行った!』シンは立ち止まるとチェギョンのベッドへ腰を下ろす。天井、カーテン、部屋の様子を見渡すと溜息を漏らした。彼女が帰還した途端に色彩を取り戻した妃宮の部屋に改めて妻の存在感を知る。『…チ
得体の知れない不安におそわれたままのチェギョンは今しがた去っていった青年ヨナを思っていた。『他人じゃない…』単に弟に似ているだけではない。。夫シンが嫉妬心に苛まれる程、チェギョンの中でヨナという青年にはどこか近しい感覚を覚えていた。しかし、去り行く真際にチェギョンに接近した事で、チェギョンは全くあり得ない事に気付いてしまった。『そう…だってシン君に似てるのよ…似てる訳ないけど…でも似てる…』不可解で霧の峠を歩んでいるように不思議な感覚である。雲の中にいるようで、それでいて意識はハッキ
翌朝、シン君の胸元で目が覚めた。もう何度目かわからない繋がりの途中に、意識を失うように眠りについたようだ。枕元に置かれていたタオルが使われ、拭き取られた形跡がある。裸で抱き合ったまま目覚めたことよりも、恥ずかしくでもありがたく、シン君への愛情が胸の中で大きく膨らんで苦しくなる。下から見上げるように見つめ、顎にチュッとキスをすると、胸元に顔を埋めて、ギュッと抱きつく。この胸の痛みを押さえつけたかったのだ。シン「うん…チェギョン…」チェギョン「おはようシン君。ごめんね…」バッと目を開け
「王女様、お行儀が悪いですよ。立派なレディはそのようなことは致しません」チェギョンは首を後ろに向けると、養育係のポケット夫人を睨みつけた。「んもうっ、そんなにガミガミ大きな声で言ったら、お兄様に聞こえてしまうでしょう?」「シン様に聞こえるように申しておりますから」澄ました顔の夫人にチェギョンは苦々しい顔で答えることにした。長年の経験から、夫人にこの手が使えないことは分かっているけれど。2人のやり取りが聞こえたのだろう、公式の来賓用応接室でどこかの立派な紳士と話をしていたシン王子が、チェ
―――これで良かったの…?閉められた窓の外から聞こえる歓声のざわめきを感じながら、チェギョンはその小さな胸にもう何千回と問いかけた事柄を、再び取り出し、繰り返した。例え、答えが『NO』だとしても、引き戻すことなど不可能だと彼女には分かっていたけれども。「用意はできたかな?」男らしい声が聞こえ、チェギョンは振り返った。チェギョンが考えていたよりずっと近くに、シン王子が花婿らしい黒と白の完璧な装いで立っていた。「ええ、殿下」長く豊かな睫毛が、チェギョンの美しい薄茶色の瞳を覆い隠してしま
校長「では、1時間目を使い講堂にて全校集会を開きます。その後、彼らはクラスの変わる生徒と担任に引き合わせ、新しいクラスに移動してもらいます。ご両親はここでお帰り頂いて結構です。ご足労ありがとうございました。」両親達「「「「どうかよろしくお願いします。」」」」チェギョン「オッパはどうするの?私たちの保護者がわりなんでしょ(笑)」ジノン「姫、いい加減にしろよ。もう大丈夫だろうから、ここで失礼するよ。そろそろ会社にも顔を出さないといけないし、こっちの始末もあるからな。」チェギョン「こ
夜風がタイの街を駆ける。街路には国花でもあるゴールデンシャワーがひしめき咲いている。透けそうな白い茉莉花は風に揺れ夜露が香りを幾分薄め鼻腔を擽る。辺りは水気を帯びた土の香りを漂わせ、一層不可解な夜を創造する。タイ訪問の公務の最中、シンは母国を追われた従兄、ユルと再会を果たした。ホテルの一室、広いリビングに置かれた長いソファに腰かけ、窓辺に立つ従兄を静かに見つめた。『皇太后様が体調を崩されたとは…容態は大丈夫なのか?』本気で心配しているユルをシンは不思議に思う。何故、彼が叔父や叔母で
ジノンの後を2人は手を繋ぎついて行く。あるグループの前で立ち止まる。ジノン「親父、殿下と姫をお連れした…」クルリと振り向いたジファンは「姫ー!」と叫びながら、ギュッとハグをしたかと思うと「ああ、顔が見えない」と言いながら一旦身体を引き離す。だが、またハグをする。ジノンとシンは苦笑いだ。チェギョンが笑いながらジファンを諌める。チェギョン「もうおじ様ったら、相変わらずね。皆さんがビックリしてらっしゃるわ」ジファン「しばらく姫に会えなかったんだ、会いたくて、顔が見たくて仕方がなかったんだよ。
翌日の朝の挨拶の時に、2人の雰囲気が変わったと全員が感じていた。昨日のことで気を揉み、心配をしていたのだが、今まで以上に仲の良い2人を見てホッとしていた。今までは仲の良い友達のようだったから、2人の仲が一歩進むために必要な試練だったのかと思うと、気持ちも少し救われる。皇太后「おはよう。シンとチェギョンはよく眠れたかの?ここ数日の慌ただしさに疲れは溜まっていないか。」皇帝「おはよう。今日の登校はどうする?あの者達への学校側の処分が出るであろうから、混乱を避けるために休んでもよいぞ。」皇后
ある教室の前に着くと、ジノンがノックをして入って行く。その後ろから、シンとチェギョンが手を繋いだまま入った。部屋に既にいた全員が立ち上がり、頭を下げる。校長「殿下と妃殿下におかれましては、この度の件で大変なご心痛をお掛けしてしまい、大変申し訳ございませんでした。この校内で妃殿下に対するイジメが行われていたとは、決して許せることではございません。皇室からは、今回はお咎めなしとするので、学校側に対応を任せると仰って頂きました。つきましては、彼らの処分を話し合いたいと思います。」シン「私から
1人東宮殿で残されたチェギョンは除け者にされた様で時間の経過と共に苛立ちが増加していた。『大体、ヨナは私の友達よ?なんでシン君がつれてくのよ…』半ば開き直りで友人を救出に向かう気持ちで邸を後にした。『妃宮様、お出掛けでしたらお車で…私どももお供致します』ボディガードであるイギサの1人がチェギョンの足を止めた。『……ええ。お願いするわ。車回してください』『はい。ただ今』『とりあえず待ってるから早くしてね。あ、それから、私の部屋にある赤い箱を持ってきて貰いたいの』『赤い箱ですか?』