平安前期~中期の文人・紀長谷雄の詩序「白箸翁」に記された白箸翁は、貞観末期(西暦870年代)に平安京の市中で白箸を行商していた人物であるとされる。この翁は、出身も名も不明で、冬も夏も同じ黒い服を着て、樹木のように生気なく、歩くさまは浮雲のようであった。髪は雪白で、人に年をきかれると、いつも七十と答える。しかし、市楼の下で占いをしている八十くらいの老人の話では、彼が子供の時分にすでに白箸翁は今と同じくらいの老人だったという。この翁も、後には病んで、市の門の脇で死んだため、市の人たちは哀れんで賀茂川