それは赤く錆びた月の夜でございます。小さな舟をうかべて私はあの場所へ向かうのです。あの人に会いに行くために。二人がこの場所で逢瀬を重ねているのは二人だけの秘密です。目印はこのワダツミの木です。二人以外でこの事を知っているのはワダツミの木だけでございます。堂々と会えない所が何とももどかしい所。しかし、それ故二人の愛は燃えるのです。月明かりに照らされて、ようやくお互いの顔がぼんやりと分かります。これくらいがいいのです。あまりはっきり見え過ぎると見つめ合った時に照れて、顔が赤くなったのが分かってしまい