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人間はバカだね田村隆一「人間はバカだね」とカバが云った「バカだからおいしいのさ」とワニが云った「バカって可愛い」と小鳥が歌ったなんどバカな真似をして凝りないのは五感を失ったせいだ戦争と戦争のあいだにつかのまの平和があってその平和だってリアル・タイムじゃない人間の世界は旧約聖書という劇場道化役者までそろっていて毒物のかわりにスカットミサイルスカッとさわやかコカコーラコカコーラ中毒はアルコール中毒よりたちが悪いよと詩人が呟いたボトルをにぎったまま死んで
櫻(さくら)田村隆一海の櫻が好きなのさ海の風に養われた小さな山小さな谷その木々のあいだに花が咲くぼくは単純に山櫻だと思ったら人によってはソメイヨシノ人によってはヤマザクラ人によってはチェリイブロッサムあぼくのサクラ散るチルミチル若木のサクラではご機嫌ようー。
動物園のウイスキー田村隆一やっとロンドンにも春がきてクロッカス雪わり草なんかが花をひらいていたりしてその花々にさそわれて芝生の上を歩いていったら動物園があって動物園も昼下がり象も犀もライオンもみんなトロンとしているだけペンギンなんかはいっせいにゴロンと横にねむっていてたった一羽の孤独な太郎花子かもしれないが人間たちに背をむけてそこでぼくは人間だから動物園のパブに入ったのさスコッチ・アンド・ウォーター金色の液体が人間の暗い咽喉(のど)に流れ込んだと思ったら人は
春安西冬衛てふてふが一匹韃靼(だったん)海峡を渡つて行つた。春安西冬衛鴨春は私(あたし)から始まるのよ。ホラ「鴨の外には誰も春を語るものはない。おお、まあ、なんといふと鴨の群だ」つてチエーホフつてひとが言つてるぢやあないの。猫フン、「どこからか月さしてゐる猫の戀(こい)」つてネ。壁にかけた地図ポカポカしてくると、そこら中が痒(かゆ)くつてー黒い眼鏡をかけた吊洋燈(つりランプ)日が永いなあ。
五十音(ごじゅうおん)北原白秋水馬(あめんぼ)赤いな。ア、イ、ウ、エ、オ。浮藻(うきも)に小蝦(こえび)もおよいでる。柿の木、栗の木、カ、キ、ク、ケ、コ。啄木鳥(きつつき)こつこつ、枯(か)れけやき。大角豆(ささげ)に醋(す)をかけ、サ、シ、ス、セ、ソ。その魚(うお)浅瀬(あさせ)で刺(さ)しました。立ちましょ、喇叭(らっぱ)で、タ、チ、ツ、テ、ト。トテトテタッタと飛び立った。蛞蝓(なめくじ)のろのろ、ナ、ニ、ヌ、ネ、ノ。納戸(なんど)にぬめって、なにねばる。鳩(はと)ぽ
砂山北原白秋海は荒海、向こうは佐渡(さど)よ、すずめ啼(な)け啼(な)け、もう日はくれた。みんな呼べ呼べ、お星さま出たぞ。暮れりゃ、砂山。汐鳴(しおな)りばかり、すずめちりぢり、また風荒(かぜあ)れる。みんなちりぢり、もう誰も見えぬ。かえろかえろよ、茱萸原(ぐみはら)わけて、すずめさよなら、さよなら、あした。海よさよなら、さよなら、あした。
この道北原白秋この道はいつか来た道、ああ、そうだよ、あかしやの花が咲いてる。あの丘はいつか見た丘、ああ、そうだよ、ほら、白い時計台だよ。この道はいつか来た道、ああ、そうだよ、母さんと馬車で行ったよ。あの雲はいつか見た雲、ああ、そうだよ、山査子(さんざし)の枝も垂れてる。
からたちの花北原白秋からたちの花が咲いたよ。白い白い花が咲いたよ。からたちのとげはいたいよ。青い青い針のとげだよ。からたちは畑の垣根(かきね)よ。いつもいつも通る道だよ。からたちも秋はみのるよ。まろいまろい金のたまだよ。からたちのそばで泣いたよ。みんなみんなやさしかったよ。からたちの花が咲いたよ。白い白い花が咲いたよ。
風淵上毛錢雲がこどもを産んでいる再生淵上毛錢野菊があたりまえに咲いている原っぱだが牛もいない寝ころんでみる風が少しあるので野菊がふるえている背中が冷たいどくどくと地球の脈がする嘘のないお陽さまが僕を溶かしてしまいそうだなにもかもが僕の心をきいている野菊は咲いているしここにこのまま埋まってしまい来年の野菊には僕がひいらいたひらいたぶらんこ淵上毛錢ぶらんこに乗って仰向けにゆられているとオルガンを聞いているようだ明日もオルガンに乗ってあの
皆さまこんにちは青柳沙耶です+:-:+:-:+:-:+:-:+:-先日は当ブログと拙著メルマガ「幸せのライフキャリア通信」の読者であるY様から今年の夏に読んだ沢山の本の中から素敵な詩を教えていただき心の奥が疼くような素敵な余韻を味わいましたので是非ご紹介したいと思います。ヘルマン・ヘッセの「庭仕事の愉しみ」(岡田朝雄訳、草思社文庫)から“BlueButterfly”「青い蝶」⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒*⌒Oneblu
雲八木重吉くものある日くもはかなしいくものない日そらはさびしい涙八木重吉つまらないからあかるい陽のなかにたってなみだをながしていた金魚八木重吉桃子は金魚のことを「ちんとん」というほんものの金魚よりもっと金魚らしくいう赤ん坊がわらふ八木重吉赤んぼがわらふあかんぼがわらふわたしだってわらふあかんぼがわらふ豚八木重吉この豚だってかあいいよこんな春だものいいけしきをすってむちゅうであるいてきたんだもの素朴な琴八木重吉
初夏の夕大野百合子この頃の夕方はなにからなにまで蒼っぽいしめりを含んでいるようにしっとりと落ちついて黙っていると黙っていることに苦しくなりどこまでも歩いて行きたい気がする子供達の晴れやかな聲(こえ)にまじってやさしい女の物賈りの聲(こえ)など聞こえて来る美しい切花を乗せた車がもう夜店へ出かけて行くしかもその花の一つ一つは蒼い露を含んで車の上でホロホロしている
朝大野百合子貧しそうな小さな家のガラス窓に紫の小さい花をつけた鉢がこの五月の朝早く出してあった私はそこを通りながらなにか知ら楽しい気持ちになって家の中を爪立ちをしてのぞきながらふと笑い聲(こえ)でも聞かれる気がして通り過ぎたあの花は見たこともないがなんと云う花だろう
灯大野百合子なにか慕わしい気配を感じて窓をあけるといつも見る街はやさしい灯を点して古風なにおいをもつ初めての都のように思えた私のすきな人達があの一つ一つの灯をかこんで深く自分を守りながら愛されて愛しているそんな平和な気がする
静かさの中で大野百合子珍らしく暖かいので妹をつれた私はかなり歩いてしまった小さい山の斜めに坐るとまだ青くならない草と土の馨(かお)りがする空はどうしてこんなにも高いのだろう風はそんなにつめたくもなく吹いて来る私は深い静かさにつつまれて思うともなく見るともなくいつまでも坐っていた私は私の心がきれいになって静かなものにまざまざと触れなにか知りたいと思っていたことをはっきりと知った気がした
『室生犀星』さんの詩、作品できました『小景異情』です『学校で覚えた日本の名詩』(彩図社)今年の夏はきっとふるさとは、遠くにありて思うもの・・・って、実家に『帰省』することを断念して我慢している方がたくさんいらっしゃると思います私も、『お盆』の頃はもちろん1月までは、毎月ぐらい母の様子を見に実家に帰省していましたがまったくできなくなってしまいましたもう少し『楽観的』に考える性格だったらよかったのですがどちらかというと『慎重』なタイプなので用心には用心してし
「パプリカ」の英訳について書いていたらエミリー・ディキンソンのことを思い出したディキンソンは1830年、米国マサチューセッツ州生まれ時代は奴隷廃止運動、南北戦争の真っ只中、父は地元の有力者で裕福な家庭に育った彼女の死後に部屋の整理ダンスから1775篇の詩が見つかり、その詞が公開されてから「英米文学最高の女性詩人」と呼ばれるようになった何が凄いのか彼女が世に知られた経緯や作品の特異性だ生前はローカル新聞に匿名で7篇の詩を載せただけ30歳
雪三好達治太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。
みどりの窓竹久夢二あなたのために窓をあけあなたのために窓をとぢみどりの部屋の卓(たく)のへに青い花をさしませう。あなたのために窓をあけあなたのために窓をとぢみどりの窓の日あたりに青い小鳥をかひませうあんまりはやく幸福(しあはせ)がきてあんまりはやく幸福がゆかぬように私達は待ちませう。
手竹久夢二右の手が書いた手紙を左の手は知らない。右の手が握手したのも左の手は知らない。だが左の手の指の指環(ゆびわ)が何を意味したか右の手は知(し)ってゐる。
くれがた竹久夢二約束もせず知らせもなしに鐘が鳴る。約束もせず知らせもなしに涙が出る。靴下竹久夢二あなたのための靴下を白い毛糸で編(あ)みませう。もし靴下がやぶけたら赤い毛糸でつぎませう。けれども遠い旅の夜(よ)にあなたの心が破(やぶ)れたらあたしはどうしてつぎませう。
きくわん車中野重治きくわん車きくわん車くろいつよいきくわん車きくわん車きくわん車引つぱる押して行くきくわん車きくわん車きくわん車トンネルへはいる鉄橋へかかるきくわん車石炭の蒸気きくわん車電気の電気きくわん車いろいろとあるきくわん車人をはこぶきくわん車荷物をはこぶきくわん車郵便を持つて行くきくわん車きくわん車きくわん車町と町をつなぐきくわん車町と町村と村村と町をつなぐきくわん車きくわん車きくわん車まじめなカネで出来たきくわん車すすむきくわ
夕日大関松三郎夕日にむかってかえってくる川からのてりかえしで空のはてからはてまでもえているみちばたのくさもちりちりもえぼくたちのきものにも夕日がとびうつりそうだいっちんちいねはこびでこしまでぐなんぐなんつかれたそれでも夕日にむかって歩いているとからだの中まで夕日がしみこんできてなんとなくこそばっこいどこまで歩いていきたいようだとおい夕日の中にうちがあるようだたのしいたのしいうちへかえっていくようだあの夕日の中へかえっていくようだいっちんちよくは
みみず大関松三郎何だこいつめあたまもしっぽもないような目だまも手足もないようないじめられればぴちこちはねるだけでちっともおっかなくないやついっちんちじゅう土の底にもぐっていて土をほじっくりかえしくさったものばっかりたべてそれっきりでいきているやつ百年たっても二百年たってもおんなじはだかんぼうのやつそれよりどうにもなれんやつばかでかわいそうなやつおまえも百姓とおんなじだおれたちのなかまだ
雑草大関松三郎おれは雑草になりたくないなだれからもきらわれ芽をだしてもすぐひっこぬかれてしまうやっとなっぱのかげにかくれて大きくなったと思ってもちょこっとこっそり咲かせた花がみつかればすぐ「こいつめ」とひっこぬかれてしまうだれからもきらわれだれからもにくまれたいひの山につみこまれてくさっていくおれはこんな雑草になりたくないなしかしどこから種がとんでくるんか取っても取ってもよくもまあたえないものだかわいがられている野菜なんかよりよっぽど丈夫な根っこを
くさむし大関松三郎何だこいつめいいきもちになってじぶんたちだけでひなたぼっこしているやつどもおれもひなたぼっこしようと思っておっかかった木の根っかぶにこっそりだまってひなたぼっこしているくさむしどもめだれかおれにさわったらげえのでるほどくっさいへいをひっかけるぞそれでだれも近づかんいいきもちでひなたぼっこできるそんなふうにらくらくしているやつどもやいこらくさむしめおれはそんなやつは大きらいだおまえのようなやつは大きらいだそれこの指さ
水大関松三郎大きなやかんを空のまんなかまでもちあげてとっくんとっくん水をのむとっくんとっくんとっくんとっくんのどがなってにょろにょろにょろつめたい水がのどからむねからいぶくろへはいるとっくんとっくんとっくんにょろにょろにょろ息をとめてやかんにすいつく自動車みたいに水をつぎこんでいるのんだ水はすぐまたあせになってからだじゅうからぷちっとふきでてくるもういっぱいもうひと息とっくんとっくんとっくんとっくんどうしてこんな
子供たちに小熊秀雄街を歩むとき手をふり元気よくおあるきなさい夜やすむとき足をうーんと伸ばしておやすみなさいちぢこまってはいけません日蔭に咲く花のようにみじめにしなびてしまいます
約束しないのに小熊秀雄冬がやってきただが木炭がない煉炭がないで市民はみんな寒がっているでもあきらめようとにかくこうして季節がくると冬がやってきてくれたのだから、僕の郷里ではもっと寒い冬には雄鶏のトサカが寒さでこごえて無くなってしまうこともあるのだそれでも奴は春がやってくると大きな声で歌うことを忘れないのだから勇気を出せよ、雄鶏よ、私の可愛いインキ壺よ、ひねくれた隣の女中よ、そこいら辺りの全ての人間よ、約束しないのにすべてがやって来るということもあるのだからなん
白い蛇小熊秀雄あああまったるい重くるしい夜のくさむらで白い蛇が二匹こんがらかってくるまってだきあってねむっているしあわせな蛇であるうらやましい蛇である