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「ねぇ」ケンタはタカシくんの耳に、口を近付けます。くすぐったさに、タカシくんはヒャア~と、身をよじります。「メアリーさんたちが、知らないなんてこと、あると思う?」「うーん」タカシくんは頭をひねります。「ヤバイよね?」こそこそとささやき合う、ケンタとタカシくん…メアリーさんたちは、全く気にならない様子です。「ねぇまさか…ユーレイがどこかへ、連れて行こうとしてるってこと?」聞き捨てならないことを、タカシくんが言います。すっかり不思議な光の存在を、信じ始めているようです。
これは、前にも見たことがある…とケンタは思います。確か、迷子になって、この庭をさまよっていた時です。まさか自分たちのあの時と同じ状況が、もう1度起きるなんて…ケンタは予想もしていませんでした。なのでひどくうろたえて、何が起こったのか、と驚いてしまいます。カイくんはますます大きく目を見開いて、「なになに?やっぱ、ユーレイ?一体、どういうトリックを使ってるんだよぉ」再び声を上げます。ぐいっと近付くと、種明かしを教えろと言わんばかりに、迫ってくるので…ケンタは困ってしまい
そんなケンタたちを尻目にして、まるでその光が、自分の意志を持っているかのように、ゆっくりと動き出し、真っ暗な空洞の中を移動し始めます。まるで、不思議の国のアリスの、3月うさぎのように…その光は、今度はメアリーさんのために、道案内をしているように見えました。「なに?鬼火?ユーレイ?」目を丸くして、騒ぎ出すカイくんです。どうやら今回は、みんなにも見えるようです。メアリーさんは、カイくんのことは相手にせず…その後ろを、杖をつきながら、再び歩き出します。メアリーさんは不思
どうしてなのだろう?ケンタには、やっぱりわけがわかりません。さっきまで、何もない真っ暗闇だったはずの、元地下室が…急にスクリーンに映し出された画面のように、幻のようにボンヤリと見えてきて…頼りないほどに、ほのかな姿が、浮かび上がってきたのです。(まさかボク…おかしくないよね?)あわててケンタは、タカシくんの方を見ると…やはり同じような顔をして、タカシくんもポカンと口をあけています。ボクだけじゃないんだ…ケンタは少し、安心します。「ねぇ、これってなに?まさかマジッ
メアリーさんは、暗闇に降り立つと、懐かしそうに地下室のあった場所を見回します。「きっと地下だから、大丈夫だったのね」とつぶやくと、「そうね、きっとそう…」ようやくケイさんも、口をはさみます。「それ、いつのこと?」ケンタが目を丸くして、メアリーさんに聞くと「あら…いつだったかしらねぇ?」メアリーさんは、ケイさんの方を振り向きます。「いつだっけ?私がまだ、子供だったわ…あの日の事は、よく覚えているわ」とケイさんが静かに、目を閉じました。「私達…いつもと同じように、かくれ
ゆっくりとライターで、その部屋のあった空間を照らしだします。幼稚園バックの中に、ろうそくが残っていればよかったのになぁ~と、ケンタは少し残念です。だけどあいにく、今日は持ち合わせていません。するとメアリーさんは「大丈夫よ」と言うと、黙って地下室のあったところを、のぞき込みます。一体、どうするんだろう?行っても、何もないよ…ケンタはそう思います。それにしても…この前見た家が…まさか跡形もなく、なくなってしまったというのに、どうしてここだけ残っているのだろう…と、不思
なんでこんな風になってしまったのかは、誰にもわかりません。それでもこの地下室へとつながる、階段がある、ということは…ケンタたちの言うことが、正しい…と証明されたので、少しホッとした様子でした。「ここからね、地下の通路があるんだよ」嬉々として言うケンタ。「忍者みたい!」「かくしとびらみたい!」急に勢いづいた子供たちは、わぁわぁと声高に話し始めます。「そうなの…」メアリーさんはそれでも、ちょっと慎重な顔つきで、何かを考えているようです。何か思うところが、あるのでし
もしかして、見えていないのか…ケンタは思います。誰も『光が…』とは言わないし、驚いた様子がないのです。(どういうこと?)そう思うけれど、口に出して言うと、みんなに『あいつ、どうした』と気味悪がられそうな気がして、ここはグッとこらえて、あえてそのことは、誰にも言わないことにしました。それでもケンタには、わかっていました。(あれは…あの子だ!)と。あの不思議な女の子が、メアリーさんに会いに来ているのだ、だけど、メアリーさんには、見えていないようだ…と。(一体、なに?
それって、どういうことなの…とケンタは思います。けれども、なんとなくわかる気がします。メアリーさんは、石段から立ち上がると、「地下室って、こっちね?」あの階段のあった場所へと、向かって行きます。やっぱり知ってるんだ…とケンタは思います。なぜなら、まったく迷う様子がなかったからです。ところがそこで…何か違和感を感じます。時折チラチラと…まるで画像の粗い、モノクロのテレビのように…チラチラと画像がぶれるように…フィルターを掛けたように、ボンヤリと…ケンタたちが見た、あの
もしかして、とケンタは思います。あの女の子に、話しかけているのだろうか…と。ケイさんがゆっくりとメアリーさんの側に歩み寄り、階段のあった辺りを、透かして見るようにして、見上げています。そこにはもう、屋根がありません。白い外壁ももうありません。あるのは…木々の繁みとすき間から、日の光が優しく照り付けるだけです。「あの日って、なに?」カイくんの声が響いてきます。ケイさんは、メアリーさんと目を見合わせます。「あの日と、この家がなくなったのと、何か関係があるの?」ま
「わかるわ」突然メアリーさんがそう言うと、家があった、と思われる辺りを、ゆっくりと歩きます。不思議なことに…先ほどまで何もなかったのに、メアリーさんが歩く辺りに、光が生じてきて…かすかに、何かが見えてきました。「あっ!」ケンタは声を出すと、その辺りに小走りで近付きます。驚いて、立ちつくすメアリーさんのすぐ側に、何かコンクリートの残骸らしきものが見えてきました。「なに?」メアリーさんが振り向くと、「ここ」とケンタは指差します。それは確かに、あの時に見た…家の1部の
固くて頑丈な、帆布素材のハンモックは、確かにふざけて揺られたあのハンモックと同じだ…と、ようやくカイくんも気付いたようです。それでも「うそだ」と、頭を振ると、「ねぇ、一体、どういうカラクリ?これって、ドッキリでしょ?作り物なんでしょ?」と…カイくんはそれでも、認めることが出来ません。なぜならば、肝心の玄関ドアも、ポーチも、あの家も…まるごと姿を消して、そこにはないからです。「ねぇ、どんなしかけ?どうやって、あの家を消したの?」カイくんはさらに、大きな声をあげて、その場
指し示す方向を見ると、そこには…先日の家の面影はなく、代わりに枯れ葉と雑草でびっしりと覆われて、少なくとも数年放置されたような状態になっていました。よくよく見ると…確かに、かつては家があったであろう、その痕跡が残されていました。「えっ?どういうこと?」「なんで?」まさに狐につままれた、とはこの事。ケンタとカイくんの、間の抜けた声が、響きます。それもまた、ムリもありません…だってついこの間来た時には、確かに白い家があったからです。玄関ポーチに、揺れていたハンモック。
「そんなバカなこと、あるもんか!」なんだかイライラとした口調になるカイくんです。そうしてさすがに、不安にもなってきます…(まさか、ボクたちみんな…タヌキか、キツネにバカにされたのか?)と。それでもまだ、あきらめきれないカイくんは、けなされている、と思い込み、「そんなわけない!」ダン!と足を踏み鳴らして、まだ先を進みます。心持ち、歩くペースも早くなり…小走りになります。「大丈夫、わかってるわ」メアリーさんは、静かに言います。想像通りと言わんばかりに、思いのほか冷静です。
それでもケンタはケイさんの反応にはかまわずに、「女の人はね、ボクを見て言ったんだ…いい子ねって」ケイさんは笑顔を引っこめると、大きく目を見開き、ケンタのことを凍り付いたような目で見つめます。「それ…ホントなの?」そうしてタカシくんを見つめます。タカシくんは少し、頭をかしげると「確かに、女の人がいたよ」とだけ言うと…ケイさんの表情に気付くと、また口を閉じます。タカシ君にも見えたの?ケンタは驚きます。一体どこまで知っているのだろう…とケンタは思います。さ
「いや、ちがう!ホントーにあるんだよぉ」地団太を踏んで…わかってもらえないくやしさに、顔を真っ赤にして、それでもカイくんは主張します。「だって、大きなベッドで、寝たもの!ピアノの音が、夜中にしたもの!かがみの部屋があったもの!それから…」とカイくんは、ケンタの方を見ると、「それから…地下道を通って、帰ったんだもの!」強く言い切ります。それは確かに、まぎれもない事実で…それを否定したら、じゃあケンタたちは、一体どこに泊まったのだ、ということになってしまいます。顔を
「な、あってるよな?」いきなりクルリと、ケンタの方を振り向きます。「おまえたちも、一緒にいただろ?」あの家を見つけられないのは、ケンタたちのせいだ…と言わんばかりにカイくんは、ケンタの方に噛みついてきます。「そう…だと思うけど…」「でも、あの時は暗かったし!」すっかり不機嫌になるカイくんに、言い返したいけれど、そこはぐっとガマンして、上目遣いでカイくんの顔を見返します。「しっかりしてくれよなぁ」さっきのご機嫌は影をひそめ、ブスッとしたカイくんに…少しイラッときますが…「
そうだ、あの光は?ケンタはキョロキョロします。今はゾロゾロと歩いているけれど…そういえば、女の子の姿は見えてきません。あれ?おかしいなぁ~そう思うけれど、まぁいいかぁ~と気にせず、手と足を大きく振って、前を行くカイくんの後を、遅れないようにして、歩いて行きます。ガラスの温室の側の小さな家をすり抜けて、まっすぐに歩いて行くと…やはり迷路へと差し掛かります。「ここを抜けたら、家があるんだ」カイくんは、得意そうに言うけれど…あの時は、暗闇の中、光を頼りにして歩いていた
「あら、たのもしいこと!」そんなカイくんの姿を、メアリーさんは楽しそうに見つめます。カイくんは「うん!」とうなづくと、噴水の側をすり抜け…今いるところから、ゆっくりと、反対方向に向かって悠然と歩き始めました。その後を、ケンタとタカシくんも続きます。「どこへ連れてってくれるのかしら?」嬉しそうにケイさんも、その後を歩きます。その声を聞くと、なんだかうれしくなるケンタです。先頭を歩く子供たちは、意気揚揚で歩いています。ボクたちは…すごいトコ、知ってるんだよぉ~と、何だ
そこは、ケンタが初めて、不思議な光を見た場所の近くです。(なんでそんなに、悩むのだろう?)ケンタはとても、不思議に思います。「そうね、あなたたちを疑うのは、おかしいわよね?」とメアリーさんは言うと、「さぁ」とケイさんの肩に手をやりました。そうしてぐぃっと、首をカイくんの方へと向けると、「じゃあ、あなたたちの言う…その家に連れてってちょうだい」少し真面目な顔つきで…だけど穏やかな口調で、ケンタに向かって言います。「わかったよ!そんなの、カンタンさ!」ケンタの代わりに、カイく
真剣そうなケンタと、タカシくんの顔を見つめて、「ね、どうするの?」困った顏をする、ケイさんとメアリーさん。だけどもカイくんは、足をバタバタさせて、「なに、大騒ぎしてるんだ?なんだったら…案内しようか?」せかせかとした口調で、カイくんが大きな声で言いました。丁度温室の中の噴水の側です。でも今は、水道が止まっているので、カラッポのオブジェのようになっています。水の流れがなくても、むせかえるほどのバラのにおいは、あの時のまま…子供たちはじぃっと、大人たちの顔を6つ
「まずはガラスの家の奥に、家があるの…知ってる?」ケイさんは、ケンタたちの表情をうかがうようにして、聞きます。ケンタは、タカシくんと顔を見合わせると、「うん」と言います。以前、最初に入った家です。「そこから先を抜けると、また家があるよね?」と言うと、ケイさんは少し戸惑ったように、「えぇっ?」と言います。「それって…いつの話?」おそるおそるケイさんが聞きます。一体、どういうことなんだ?ケンタはそう思うけれど、それ以上にケイさんとメアリーさんは、真剣な顔をしています。
(あら、おかしいなぁ)だけどケンタは、ふと気付きます。ケンタたちを見ている大人たちが、なぜだか奇妙な表情を浮かべていることに…えっ、なに?どうして?ケンタとタカシくんは、顔を見合わせます。「ほら!1階に、鏡の部屋があって、2階に、ピアノの部屋と、赤ちゃんの部屋がある家だよ!」逆にイライラとした様子で、カイくんがさらに声を荒げると、ますますメアリーさんの表情が曇ってきます。やはりへんだ…どういうこと?ボクたちの言っている家は、メアリーさんの知っている家とは、違
「ねぇライトって…あの土に刺さってるやつ?」怒るでもなく、ニコニコしながらメアリーさんが聞くので、「そう!」今度はカイくんも、得意そうにうなづきます。「ボクが最初に、思いついたんだよぉ」ケンタを叱っておきながら、堂々と…満足気に付けたします。「あら、まぁ~」ケイさんも目を丸くして言うけれど…ケンタたちを怒る気配はありません。この前、ケンタたちが来た時と同じように…確かにガラスの温室はそこにあります。ポワンと、周りの景色に溶け込むように…(よかったぁ~)思わずケン
「お母さんがねぇ、あの子のために…寂しくないようにと、花を植えたの。そうすると、どんどん花が増えちゃって…ついでに、植木屋さんまで雇っちゃって…とんでもないことになったのよねぇ~」まるでひとり言のように言います。「ここは、お母さんのお墓みたいなものだから…私は時々、会いに来るのよ」ケイさんは前を向いたまま、ケンタたちに話しかけました。車はどんどん庭の中を、分け入って行きます。一体どのくらいの広さなんだろう…とケンタは思っていると、しばらくしてあのガラスの建
目の前にいるケイさんは、今はもう…すっかりオバサンになってしまったけれども…だけどそんな過去があったとは、ケンタたちには想像もつきません。「でも…ホントのお母さんは?」急にグッと泣き出しそうに、顔をゆがめます。鼻をおさえながら、ケンタは聞きます。メアリーさんは「あらあら」と目を細めて、「本当のお母さんはね、今どこでどうしているのか…全然わからないのよ」優しく微笑みます。「かわいそう…」ポロリ…とケンタの瞳から、涙のしずくが頬を伝います。だってお母さんがいないなんて…
「そうよ!あのトトロのバスも…そのための車だって、言ってたわ」「トトロのバスじゃなくて、ネコバスだよ」メアリーさんに、すぐさまカイくんが言い返します。だけどもカイくんは…そのことなど全く気にせずに、「いいなぁ~移動遊園地なんか、あるといいのになぁ」うっとりとした顔で言います。「外国には、あるみたいよ!」メアリーさんがニッコリとして、口をはさみます。ケイさんはというと、聞こえているのか、いないのか…楽しそうに、鼻歌を口ずさんでいます。そんな後ろ姿を見ると…「ねぇ、ケイさんて、
メアリーさんと、ケンタとタカシくんが話している間にも、車はずんずん庭の奥の方を進んでいます。左手に迷路がチラリと、その姿を見せています。どうやら車は、その裏側を通っているようです。「ホント、こんなトコ、あったんだねぇ」ため息をつくように、ほぅっとタカシくんが言いました。するとカイくんは、車のフレームにつかまるようにして立つと、「なんだ、そんなことなら…早く教えてくれればいいのに!」クチビルをとがらせて言います。するとメアリーさんは、全く動じることもなく、「だって、こんな
メアリーさんはじっと前方を見つめます。そのまなざしは真剣で…まるで大切な何かを探しているような、雰囲気をまとっています。やけに骨組みが目立つ車は、庭の中をまっすぐに突き進んで行きます。「あの迷路は?通らなくてもいいの?」思い出したように、タカシくんが言います。そうだたしかに、この庭は迷路でつながっていると、言ってたなぁ~と、ケンタは思い出していました。「キミ、よく覚えていたわねぇ~それはそうなんだけど…きちんとね、裏道を確保してあるのよ」ケイさんは、ニヤリと
「うわぁ~なんだ、これ!おっきいなぁ~」はしゃぐような声を出すと、カイくんは枠組みのところに、身を乗り出してケンタたちを手招きします。パレードの車というよりも、選挙カーみたいな感じ。(あんなスピーカーとか、ないんですけどね)それでも子供たちの気を引くには十分です。男の子って、おしなべて車が好きですからね!そんなケンタたちを見ると、メアリーさんは目を細めて微笑みます。「そう?あのネコバスほど…可愛くはないけどね!」そう言うけれど…ケイさんも、とても嬉しそうです。今度は素