為朝(ためとも)はこの光景(ありさま)を見そなはして、「あれ助(たすけ)よ」と焦燥(いらだち)給(たま)へども、鎮西(ちんぜい)八郎(はちらう)といふ事は、船人(ふなびと)にもしらせず、ふかく名(な)を匿(かく)して渡海(とかい)し給(たま)ひつれば、「われうけ給(たま)はらん」といふものなし。加旃(しかのみならず)大洋(たいよう)を走(はし)る船(ふね)は、船人(ふなびと)といへどもその進退(しんたい)を心にまかせず。こは紀(き)平治を見つゝ殺(ころ)すかと悶(もだへ)給(たま)ふ折(をり)し