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日の落ちた東宮殿は女官や内官が慌ただしく行き交う。『いたか?』厳しい口調で女官の一人を呼び止め、女官は思わず肩を竦めた。『いえ…殿下申し訳ありません…』女官は深々と頭を下げる。『……』自室を右往左往し、更に思いついた様に突然チェギョンの部屋へ向かうシン。大きな音を立て扉を開く『…何処に行った!』シンは立ち止まるとチェギョンのベッドへ腰を下ろす。天井、カーテン、部屋の様子を見渡すと溜息を漏らした。彼女が帰還した途端に色彩を取り戻した妃宮の部屋に改めて妻の存在感を知る。『…チ
公務を終え帰路に着いたシンは静かな筈の東宮の奥から聞こえる不自然な音に不審を感じながら更に歩みを進めた。この広い宮殿の中でも二人の新居となった東宮は珍しく洋風に造られている。周辺は父が帝位についたと同時に入宮し、幼き頃より慣れ親しんだ景色。当然ながら建造物はどれも歴史的な価値がある。丹青の彩と白い砂、赤松、柳、ハンノキ…深き緑に普段なら癒される。妃宮との安らぎの場所でもある。中央のパティオから左右に夫妻のそれぞれの部屋がある。一先ずは原因を突き止めようと妻の部屋に向かう。『!!』入り
契約恋人㉑〘一応END〙どうすればいい?メヒは焦り気味に部屋をウロウロと歩き出し、スマホを手にし電話を掛けようとしたが再び下ろした。こうなったら少し前に別居している母親に頼むしかしないと考えたが、彼女は既にこの国にはいず何処に行ったのかもわからなくなっていた。「貴女もこの家にいると危険よ?私にはもう手に追えないわ」そう言い出て行った母親をその時は内心嘲笑っていた。でもこんな事になるなら私も出れば良かった、まさかタン家とチェ家が何の繋がりも無かったなんて知らなかった。だから父親は会社の
ささやかな目映い光が部屋の中央まで射し込んでいる。東宮の朝は以前と同じ女官や尚宮、内官が集まり賑わいを見せていた。女官の一人が不安気な面持ちで内官へ駆け寄る。『申し上げます。』『ん?何かありましたか?』『はい…実は…』話し始めた女官を差し置き、昨夜を思い出す内官。『殿下は昨夜雨に濡れた様子であったな…風邪など召されてないといいが……。チェ尚宮、念の為お二人に薬湯を用意しておいた方が良いかも知れぬ…』チェギョンの準備に忙しい尚宮を呼び止めた。『はい。コン内官。すぐに準備させます
宮は薄暗い雲に包囲されているようだった。現に後日ある一定の時間、宮の上空の雲が渦を巻いていたと世間を騒がせた。チェギョンはシンや慌ただしく消えたヨナを思い不安を覚えていた。『お前はここにいろですって。。。何よ…ヨナは私の友人よ!』意を決すると立ち上がる。シンはヨンジンなる青年に対峙していた。コン内官も然り。『君は何処からきたんだ?』『どこから…って…まぁマカオに住む前はこの辺りだけど』『先程、姉上からの連絡で分かったことだが、防犯カメラを解析した。この東宮殿へは正門からの訪問では
その日の空はどんよりと黒ずんだ雲に覆われ、さしずめこの王世子である私の気持ちを表しているのだろうと仰いだ。マカオから宮に戻ったシンの沈む心の原因は相変わらずの「妻」の仕業だった。誰の差し金でも、大人の都合での二人ではなくただの「イ・シン」ただの「シン・チェギョン」で生涯を共にすることを誓った。慎ましく、されど温もりのある結婚式の後、彼女は一向に連絡をしてこない。元々公務の合間を縫って皇太后である祖母と共にチェギョンを訪ねた。当然すぐに戻らねば公務が滞る。その事を察して連絡してこない
天井を仰ぐチェギョンは胸が軋み、切り刻まれた様な痛みが襲っていた。紛れもなく今我が身が存在するのは、久方ぶりの【妃宮の部屋】。宮家に嫁し、東宮妃として此処に迎えられたばかりのあの頃と寸分変わりはなかった。だが、今は随分と変わって見える。ここだけでなく、目に映る全てが何処か違って見え心許ない気持ちを味わう。『他人の部屋みたいだわ…』呟くとチェギョンは孤独感を払拭するように臍より僅かに下った部分にそっと手を当て、ホッと一息の深呼吸で精神の安定を図った。シンは新婚らしい夫婦の睦みも味わう前に
『あ、ヒョンジュ先生…あのさ…えと…』タンはウォンに衝撃的ニュースをもたらし、自分と入れ替わるように飛び出した兄の代わりに何か気の効いた話をせねばと知恵を絞るが何も思い浮かばない。病室は奇妙な3人が取り残されていた。『え、、と。あ、そうだ。ソンギュだったよな。弟…どう?なんか実感とか…』『…僕はまぁずっと姉だと知っていましたから、ずっと実感あって。。壁の向こう側にはずっと探していた家族がいるってだけで幸福でしたよ。全くの身勝手な感動です。ヒョンジュさんからすればご迷惑だと思うけど…勝手に
『改めまして本日は、この様な茶会に招いて頂き、ありがとうございます。妻、チェギョンです。この様な登場に皆様は大変驚かれたと思いますが、次代のこの国を担う子を授かり体調優れぬ中、私が一人にならぬ様に皆様に認めてもらいたい一心で参じた様です。これからも皆様の一員として宜しくお願いいたします。』シンはチェギョンを呼び寄せると、並び立つ。先程の厳しい表情とは打って変わって参加している人々が驚くほど柔らかな表情を見せた。『皆様。紹介いただきましたチェギョンです。民間から嫁ぎ、躾も乏しくそぐわぬ私を長い
△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△あの場所でもう一度(21)「それは・・・?」どこをしたいと?リフトアップ、という訳でも無いし、顔にシミがある訳でも無い。冷やかしにも程があると眉を顰めてしまう。まったく熟私は運が無いわね・・・。「・・・カウンセリングからになりますが」「えぇ、いいわよ」その返事にウンスは小さくため息を吐いた。何故こんなに面倒事が一気に集まるのか。自分が担架を切ったからだとわかっている、だが態々ここ迄来るとは・・・。ウンスはフロントに移ると、そこに
宮廷内の庭を解放した春の祝宴会は宴もたけなわ。簡易の記者会見が終わると和やかな宴会に変わり国の要人達はシンとチェギョン夫妻に挨拶をと列が出来た。誰が見ても火を見るより明らかな歓待ぶりである。記者たちも誰が何番目に挨拶したと事細かに筆記していた。かつては孝烈皇太子の友人としてファヨンに手を貸していた記者もいた。皇室の信用を失墜させる事に加担した記者は国外へ逃亡を図る直前にシンに呼び出された。記者としての業界の信頼を無にし立場を追い、この国で一切の仕事が出来ないようにする事は造作もないが報
※こちらも短編という、他とはクロスしないお話です。・・・今回少し長いので、お時間ある時にどーぞ🐥契約恋人⑦次の日、まだ怒りを内心に残したままウンスはクリニックに出勤した。パソコンを立ち上げメールの確認をすると、昨日帰ったすぐ後なのかチェヨンからのメールが届いており渋々内容に目を通すが、『何を話してもユウンスが怒る内容ばかりだが、これだけは知って欲しい。欲求を満たす為では無かった。最低な行為だと理解もしている。助けを求めていた事も事実だ。だけど、他の人間では嫌だった。ユウンス
誓約恋人㉔「・・・これも送ったのですか?」「はい、定期発注の中にリストがありましたので、送りましたが・・・駄目でしたか?」「いいえ、大丈夫です・・・。ですが、これは俺の専属契約先なので次回は送らないで下さい」「そうでしたか・・・すみませんでした」しゅんと肩を落とすサラに、「あー、そこまで落ち込まないで下さい。他の業務は彼奴らよりとても役に立っていますので」ヨンの言葉に素早くトルベとトクマンの鋭い眼差しが向いたが、引き続きよろしくとサラに言いヨンはその場を離れた。サラは眉を下げたま
夕方を過ぎた頃テマンがチェヨンの愛馬チュホンを連れて帰宅したあれテマンさん奥様と若様は旦那様とご一緒かい?うん医仙様が帰り道で急に市に寄りたいと言い出してさそうしたら隊長とポム様に出くわしてで飯を食うことになったんだへぇそりゃあ珍しいこともあるもんだポム様はお喜びでございましょうまあねで医仙様からヘジャさんに伝言を頼まれて夕餉は済ませて帰るってそうでございましたかじゃあテマンさんの食事の支度をすぐに
チェヨンが密かに都に向かった翌日から崩落の詮議はパク・インギュが先頭に立って行われ急に羽振りが良くなった役人やチェヨンの国境政策に対し不満を口にしていた役人を捕らえて厳しく取り調べを行なったが数日経っても皆なかなか口を割らなかったそんな折イサは医員のオ・アムがこのところ食事の文句を言わなくなったことに気がついたそればかりか時折何処かに出かけては夜遅くに帰って来ることもあるまさかオ・アムが賄賂を受けた内通者とは考えられなかったが典医寺の中でも虚栄心が強い男
いつまでも不安気に見送るタンをルームミラーで確認する。これまで弟を気にかけながらそれを気取られぬように冷たく接し、高い位置から見てきた自分が今は逆にその弟に心配をかけている。段々と小さくなるタンの姿に頼もしさを感じる。そうして恐怖心に打ち勝とうと自身を奮い立たせながらハンドルを一層強く握りしめた。道は舗装されてはいるが万全ではない。アスファルトはあちらこちらでヒビ割れ、スムーズな走りを楽しむ事は出来なかった。決して住みやすいとは思えない田舎に何故彼女が移り住まなくてはならなかったのだ
寝所に朝日が差し込んで朝から暑い腕の中で寝ていたはずのポムは暑さゆえかころころ転がりひんやりした床の上で眠っていたまったく子犬でもあるまいにチュンソクは笑みがこぼれたこうして見ているとまだまだ子供で昨夜の妖艶さが嘘のように思える起き上がろうとして少し腰が痛むことに気づいた二人目を欲しがるポムの望みを叶えてやるため少しばかり頑張り過ぎたようだ気が張る役目に追われゆっくり夫婦の営みもできない毎日を見兼ねたのか?珍しいことに昨夜は上官チ
季節は移る。宮殿内を吹き抜ける風は暑さを和らげていく。かつて顔を合わせば良くない感情を互いに向け合っていた幼い皇太子夫妻は今はなく、紆余曲折の後徐々に溶け合い、今では側近達が困惑するほどの熱愛ぶりである。公務の合間を縫っては妊娠中の妻の様子を見に東宮に戻る。愛妻家の夫となったシンを内官は感慨に浸り見ていた。2人の住む洋風の建物は王朝文化からはかけ離れてはいるもののこの宮廷に新しい風を運んだ新婚夫婦らしいものだと内官は返り見ると1人頷いた。『コン内官…』硬い表情で公務を終えたシンが内官に
※こちらも他とはクロスしないお話です。契約恋人⑮あの怒りは一体どこから薄まっていたのか?はたして本当はチェヨンに対してあの時程の憎しみは残っていたのか?俯く自分に覆い被さり全体重を乗せていないにしても、それでも背中に掛かる硬い筋肉と重さを感じながらウンスはそう考えていた。本来の彼は自分が記憶していた不器用な少年そのままで、彼が悪人で無い事をわかってしまうとふつふつとあった怒りは急速に小さくなっていく。正直な所、自分ではもうこの感情をどう扱って良いかわからなくなっていた。不安、行き場
※こちらの話はあくまでも“契約恋人”のウンス、ヨン、世界設定だと思って下さいませね。契約恋人⑲叔母はいず、だが先程会議室にいた上層部の面々が再び集まり、その中心にヨンは椅子に座り黙っていた。「何ですか?まるで尋問の様ですが?」「そういう訳ではありませんが・・・」「我々はただ正直なチェ氏の言葉が聞きたいだけです」上層部の中でも比較的若い役員のイ氏がヨンの鋭い眼差しに圧され戸惑うと、すかさず隣りに座る古株の役員が声を出した。彼もヨンの父親と知り合いで、タン氏の様に企んではいないが考えが一
※こちらの話はあくまでも“契約恋人”のウンス、ヨン、世界設定だと思って下さいませね。・・・長いから、寝る前にでもどうぞ(^ω^)_凵契約恋人⑫「そんな・・・族譜にはまだ第一夫人の名があった筈だ」ヨンの父親が確認したと返すとヨンは再び確かにと頷いた。「実際どちらが本物なのか?と俺も困惑しました。ですので、タン家の親族であるタン・トンウン氏に聞きに行ったんです。そうしたら――」ヨンが話す内容は、2つの巻物を持ち釜山市に住んでいるタン・トンウン氏の元に向かうといきなり謝罪を受け彼が話し出し
誓約恋人㉒『プラチナコスメアワード大賞を受賞したチェ製薬会社のコスメ店が遂に江南区に出店という事で、新会社社長のチェヨン氏、お気持ちはどうですか?』『はい、元々この場所に出店したいとの希望はありましたので夢が叶い幸せです』『キャー!』『元はチェ製薬会社の会社でもありましたよね?自社を減らす事に何か戸惑い等はありませんでしたか?』『いいえ、チェ製薬会社の関係者も納得した上ですし、この会社に残りたいと言ってくれた社員もおりまして。本当に有り難いと思っています』『キャー!』『あぁ、やはり
たっらいま〜〜表から元気な息子タンの声が聞こえた朝迎えに来たばぁばチェ尚宮とともに王宮へ向かったタンは公主様とのお船のお遊び会に出てそれから大妃様の居所でおやつをもらい綺麗な石ころを庭園で見つけてウンスのお土産にと拾い集めばぁばとお昼を一緒に食べてからポムやポムの息子のミョン武閣氏のジュヒとともに屋敷に戻って来たところだったウンスは奥の間の隣の部屋に用意した寝台で寝ていて起き上がろうとしたが思うように体が動かず寝たままタンが顔を見せるのを
※こちらも短編という、他とはクロスしないお話です。契約恋人⑧チェ製薬会社の方が来ていると受付からの呼び出しにチェヨンか?と少なからず警戒して行くとそこには知らない男性が立っていた。「チェ製薬会社のアンと申します」「はい」「こちらにチェ氏から幾つかの商品が納品されているとの報告がありまして」――・・・あ、まさか。業者間での割引適用より少しだけだが更に安くして貰っている事は知っていた。それはチェヨンの特権を使うので構わないと言ってはいたのだが、やはりその報告は会社には伝わる筈で何故こ
※韓国ドラマ「100日の朗君様」の最終回後の設定です。※最終回のネタバレ含みます。※捏造過去シーン、R18っぽい表現あり。※画像お借りしてます。韓ドラ「100日の郎君様」感想は↓『韓国ドラマ「100日の郎君様」感想(※ネタバレ注意)』おはようございます。一昨日2020年の仕事納めができたsusemiですこれで視聴した韓ドラ「100日の郎君様」の感想をゆっくり書けますあらすじ「不滅の恋人」に…ameblo.jp完全に妄想小説(しかも超長い…)ですが、それでも良い方のみどうぞ~「ソクハ
※こちらの話はあくまでも“契約恋人”のウンス、ヨン、世界設定だと思って下さいませね。契約恋人⑬「多分あの女性、チェヨンの事が好きだったのだと思うけど・・・。数年間待つって中々大変だと思うし」ウンスの言葉に何故かヨンは黙ってしまい、横にいるウンスを見つめている。そして、その問いに答えたのは彼では無く叔母だった。「ひたすらヨンだけを待っていた・・・という訳ではなさそうでしたが」「・・・あ、そうなんですか?」「アン・ジェウクがメヒに従っていたのも、過去に2人の間に何かあった様ですから」
誓約恋人㉓ヨンがあっさり承諾した事に叔母と秘書は大丈夫か?という不安な眼差しを送ったが、それを横目に彼は彼女達の内心を呼んだ様に大丈夫ですと返した。「あぁ、そういえば本社の方々も視察に来ると聞きましたが?」「まあ、本社の奴等の考えそうな事だよ」「始めだけの勢いでそのうち下がっていくと嘲笑っているのかもしれませんね」「なら気をつけな」「承知しています」ヨンはテーブルの上にあったその女性の書類を持つと一旦実家に戻ると言い部屋から出て行ってしまい、その後ろ姿を見送っていた秘書は心配そうな
※こちらも短編という、他とはクロスしないお話です。契約恋人⑥「え?チェ製薬会社から?」「はい、ユ先生にお電話です」普段メールのやり取りしていた筈が今日に限って何故か電話が掛かって来た。――この間のやり取りで仲良くなったと勘違いして?いや、まさかね。その後に送られて来たメール内容は普段と変わらず、業務内容のみだった。彼の何かが変化した様子も無い。「・・・ユウンスです」ところが向こうから聞こえた声はチェヨンの低い声では無く、年配の女性のものだった。『ユウンスさんですか?』「は、は
ヒョンジュは長い微睡みから目を覚ました。浅い眠りは夢と現の往来を続け返って精神疲労を募らせていた。『目が覚めた?…ヒョンジュさん』朦朧とした視界に女性が話しかける。ようやく誰であるかハッキリとしたヒョンジュは無機質な病室に似つかわしくない美しい女性に驚く。『?!』その女性はにこやかに笑顔を見せる。身につけた物は皆仕立ての良いもので良家の人間である事は即座に判断できた。『あ、、あの…?』『あぁ、ご挨拶がまだだったわね…初めまして…キムウォンとタンの母です。』『…え?』『あぁっそ