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自分の独占欲には、ほんと驚く。そこまで田村に執着してたわけじゃない。田村をはじめに抱いたときなんて、余裕もなかった。自分だけが熱く、反して淡々とした田村の顔を見ていると、本当に田村って女性がわからなくなる。苦しそうな表情を見せて俺に好きといってみたり、かといって今は無機質な動きを見せて、鼻の先だけ寒さにやられたのか赤くさせている。そこに、俺への感情は見られない。「ちょ・・・・・・!?
酒が入ってるから、っていうのは理由にはならない。何故なら、俺はザルだから。ただ、田村が一緒の酒の席だったからか、酔ってしまいたい衝動に駆られた。だから、自己暗示で酔った気分。田村が大谷のことなんか好きになるはずがない、という願望もどっかにあったんだろう。だって、俺が宮崎に負けたんだから、大谷だってそうであるべきだ、ってわかってる、負け惜しみなのは。大谷なんかに取られるくらいなら、
そのくせこの期に及んでまで、俺は「たぶん」だなんて言葉を誤魔化した。「ああ、違う。ホントはあの時から、田村のこと忘れた事なんかなかった」かっこ悪い。でも、それは事実で、俺にトラウマを植え付けた最初の女は田村なわけだし、それでも忘れられなくて、諦めきれなかった。「また、俺の彼女になって」「もうっ、……」そう言って俺の胸に飛び込んできた田村が、「ダメかと思ってました」と、掠れた声を響かせた。「俺も」何もかも、取り返しのつかない事になる前に田村の心を手に入れられて、良かった。
あー。秋晴れ。昼間の暖かい太陽の熱が、そのへんにある草やアスファルトを優しく焼いて、地球が美味しく仕上がったような匂いがする。オレンジ色の光が俺と田村を照らして、アスファルトには紅茶色に光った夕日が俺たちの影を浮かび上がらせていた。離れた、2つの影を。「先輩、大丈夫ですか?」「あー、ん。大丈夫。……ンゴホッ!」上がったり下がったりの不安定な秋の気候のお陰で、俺はまんまと風邪を引いた。部活を引退してから、体力が落ちたのかな。「無理しないで休んじゃダメだったんですか?」休んじゃっ
「そんな告白いらねえんだよ」凄んだ大谷の目は真っ赤。「告白じゃなくてさ、頂戴よ。田村」その瞬間、大谷の拳が腹に飛んできた。ごふっ、と背中を丸めて前のめりになる。「何かっこつけてんだよ、今の本気じゃねーから、外出ろよ。長嶺さん」「外出ろよなんて言う奴いたんだ」イッテェ。マジで入れやがって。「実花がどうのこうのじゃねーから、わかってますよね?」お前、振られたくせにかっこ悪いぞ、と言いそうになったけど、俺が横槍入れたせいだから何も言えない。この自分の事を棚上げして俺に殴りかかれ
郵便物を受け取ると、外に出た。見計らったつもりはなかったのに、ちょうど田村がその場にやってきて鉢合わせた。「……」互いに言葉がでず、変な間ができる。しばらくして、「さ、寒いですよね」他人行儀な田村の言葉に、胸が騒ついた。目の前の交差点の信号が変わるまで、二人肩を並べる。「ああ」「でも、寒くなって
困った。販売職というものは、離職率が高い。毎年たくさんの新入社員が入社しては、一年が過ぎる頃には三割がた辞めていく。正社員雇用というものには、ノルマがついて回る。年間の店舗予算から割返して、月予算、日割り予算。そして、一日の個人予算。販売という仕事は楽しい。けれど、どの店でも上手くいくわけじゃない。「あー、どうしようかな。ね、長嶺くんどう思う?」私は社内恋愛ののち、結婚をした。主人は出世街道にのり、今では常務だ。「横浜店の店長辞めるんですか?」「そう、誰がいいと思う?渋谷