ブログ記事324件
「ちがう……。嫌いだなんて、綺麗事。そんなに綺麗なものじゃない。綺麗な言葉で飾ってはいけない」ポタリ、ポタリと止めどなく雫がこぼれ落ちる。なぜこんなにも感情が制御できない。さっきまで普通だったじゃないか。いつものようにサーミフの世話をして、いつものように言葉を交わして。絵本だって、ちゃんと――。「――ッッ」何かを求めるように目を開いた瞬間、凪は思わず息を詰める。誰もいないはず、ここには凪とサーミフ以外誰もいないはずなのに、目の前に小さな子供が立っていた。クルクルとした黒い癖
「あなたには迷惑をかけていますね」サーミフの命令でこの部屋は限られたものしか入ることはできない。必然的に彼は凪の治療を一手に引き受け、付きっきりとまではいかないが、それなりの時間を凪に費やしている。彼は才ある医師だ。サーミフが医師の中で最も信頼している。本来であれば包帯を替えたり、身体を清めるといった行為は他者に任せることが普通の立場であろうに。だが、申し訳ないと瞼を伏せた凪に、医師は相変わらず表情を変えぬままヒョイと肩をすくめた。「あなたが小さい頃から診ているんです。別に今更でしょう?
だんだんと凪の顔が俯く。もうリゾットを食べる気力も湧かない。自責の念が広がって、どうしようもなかった。そんな凪を見て医師は再び小さく息をつく。「夫婦は似てくると言いますが、主従も長年一緒にいると似てくるもんなんですかね。こんなところばかり似ないで良いのに」言って、医師はポンポンと軽く凪の頭を叩いた。俯いていたことにすら気づいていなかったのだろう、凪がハッとして顔を上げる。「とりあえず、気持ち悪いとかでないならリゾット食べてください。知ってますか?人間の三大欲求は睡眠欲、食欲、性欲なん