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マヤと恋人同士になって、今日初めて男と女の喧嘩をした。真澄はオフィスの窓から夜景を見渡す。ただ出るのは溜息ばかり。煌びやかな都会の宝石箱も今の真澄には色褪せて見えた。今夜は一緒に食事をする筈だった。本当なら今頃、マヤと一緒に時間を過ごせた筈なのに。明日からマヤは仕事で渡仏し、そのままオフを向こうで過ごす事になっていた。だから本当は少し早めのクリスマスをするつもりだったのだ。しかし、二人が恋人同士になって初めてのクリスマスを別々に過ごす事が寂しくて仕方がなかった真澄は、その気持ちを
この婚約に愛はない。真澄のかつての婚約者の紫織もそうだった。単なる政略結婚の道具だった。その事に嫌気をさした紫織が自ら破談を申し出たのだと、マヤは真澄から聞かされていた。紫織の時は大都の事業拡大が目的の政略結婚だった。だが、結局は真澄の手腕で鷹宮との合併などなくても、大都の野望は果たされた。だから真澄もあっさりと紫織との破談を受け容れたのだろう。そして真澄が次に狙ったのは紅天女・・・その上演権だ。故にその上演権の継承者であるマヤとの結婚を言い出したに違いない。そうでなければ、マ
◇Prologue◇マヤの・・・あの子のためならば、俺はこの命さえ惜しくはない。俺の肉や血を差し出せと言われれば、悦んで捧げよう。けれど、まさか自分が、こんな形で、不完全な身体にさせられる日が来ようとは夢にも思わなかった・・・。◇◇◇紅天女の本公演が成功の内に終わった後、マヤはロンドンに2年間の留学に旅立った。お互いに言葉には出さなかったが、『真澄と紫織の結婚』から逃げるように距離をおいた二人。できることなら、ロンドンになど行かせたくはなかった・・・真澄は己の不甲斐なさを呪った
沢山の親切と心配をありがとう沢山の気づかいと人生をありがとうどれもこれもあなたには出来ない無理をさせたのねそんなにいつの間にボロボロになってたのまだ続けるつもり?だからだからだからこれきりですこれでこれでこれで楽(らく)になってね恩を仇(あだ)で返します恩知らずになりましたまだずっと好きだけどごめん心苦しいんです申し訳ないんです私に会わなければあなたはどうだったでしょうこのままあなた命懸けで無理をさせてはいけないどうかこれからは自分のために生きてまだ間に合う
◇試される絆あれから俺は、紫織さんとの協議離婚を進めていた。弁護士の藤堂の紹介で、その方面が得意な弁護士を紹介してもらい、今も協議が続いている。思いのほか、紫織さんは冷静なようで、離婚の成立も時間の問題との報告で俺も安堵し始めたその時、事件は起こった。怜が何者かに連れ去られたという。マヤが風邪をひいた怜を病院に連れて行ったのだが、検査中に看護師に怜のことを頼んで、御手洗に行ったその一瞬にあの子がいなくなったという事だった。マヤはすぐに水城に携帯で連絡をしてきて、俺もその事実を知った。
◇紡がれる未来幸せだった・・・とマヤは言った。マヤにとって俺は、最初で最後の男と決めた存在だった。きっかけはどうであれ、俺に抱かれた事で、マヤは潔く身を引く決心がついたのだと言う。そして渡英し、暫くして子を身籠った事が分かった時、マヤは何があってもこの生命が欲しいと思った。だから誰にも知られる事なく、必死に身体を守り、それでも舞台には何の影響も見せずに、ひっそりと怜を産んで、育ててきたと、マヤが教えてくれた。たった一人、世間に疎いマヤが、遠い外国の地で、必死になって俺への愛を貫き、守
主人公北島マヤの母親、春の死は、物語のとても重要なポイントを担っている。マヤを影で支え応援してきた紫のバラの人である速水真澄が、母の直接の死の原因を作ってしまったからだ。たったひとりの肉親を失ったマヤの嘆きははかりしれなく、これを境にマヤは速水真澄を憎み続けることになる。真澄は自分のやらかしたことをひどく後悔し、この事件の後、長く心に影を落とした。マヤの年齢に近かった管理人は、「速水真澄のしたことは彼が意図していなかったとはいえ、許せないことだ」と、思っていた。だが、年月
早いもので、立春も過ぎた如月の頃。大都芸能の社長の室で何やら難しい顔をして考え込んでいるのは、この部屋の主である速水真澄だった。「真澄様、眉間!」清楚ながら女性らしく彩られた爪を持つ美しい人差し指が真澄の目前に突きつけられた。秘書の水城に厳しく指摘されてようやく我に返る。ここ数年の彼はこの季節がやってくるとやたらと不機嫌になっていた。だが、今年はそんな必要はないはずだ。にもかかわらず、またこの男は無駄に感情を拗らせているのだろうと、水城は半ば呆れて、軽い溜息をついた。「そんなに心
「真澄様、折角のオフにお呼びだてして、申し訳ありませんでした。」水城が決裁済みの書類を片手に真澄に詫びる。今日という日が真澄にとって、どれ程待ち続けた日かを知っているだけに、完全なるオフを取らせてやりたかったが、仕事は容赦なく真澄を襲ってきたのだ。真澄は朝一から出社し、最優先の決裁が必要だという案件を対応した。「構わないよ。第一これは君のせいじゃない、不可抗力だ。君は秘書としてベストを尽くしてくれている。感謝しているよ。」今までも、真澄は幾度かその素顔を水城には見せてきたが、最近
街の舗道、木枯しに金色の木の葉が舞い散る頃にもなると、社交界は華やぎを見せ始める。室内管弦楽の調べの隙間に人々の楽しげな会話が飛び交う中、北島マヤはホールの隅でひっそりと宴の様子を眺めていた。手に持ったフルートグラスのシャンパーニュは、乾杯の時から殆ど減ってはいない。元来マヤはこうした場が得意ではなかった。女優を生業としながらも、一度舞台を降りれば平凡な女性だと彼女自身そう思っていた。今日も後援会の大物役員のたっての要望でなければ、わざわざこんなところに顔を出したりはしない。こんな不
SideMasumi「真澄様、覚悟なさって下さいませね。」と、確かに彼女は言った。あの時は長年の恋が実った高揚感で、何でもやってのけることができると思っていた。が、しかし・・・流石に二徹は堪える・・・執務室の時計は午前3時を過ぎていた。俺は目元をグッと指で押さえた後、軽く首を回して凝りを解した。どうにか仕事の目処はつきそうだ。明日の夜、、いやもう今日か。マヤの誕生日を初めて二人で迎えるため、今日の夜にはマヤのマンションを訪ねる事になっていた。バースデーケーキは水城がマ
梅雨の晴れ間となった6月の、とある日曜日。都内のカトリック教会の大聖堂に、ひとりの男が足早に入ってきた。〜どうやら間に合ったみたいだな。〜190センチ近い長身にアスリートを思わせる筋肉質な体躯を上質なカシミアスキンのブラックスーツに身を包んだ新藤龍太郎であった。都会の喧騒を忘れさせる緑の敷地に建てられた大聖堂の中はとても静かでパイプオルガンの響きだけが清らかに流れている。他の参列者は既に着座しており、静かにその時を待っていた。新藤は祭壇に向かってバージンロードを挟んで右側、新郎の関係
紆余曲折を経て、ようやく恋人同士になれた真澄とマヤの二人。年明けには結納を交し、正式に婚約発表が決まっていた。そして挙式は、Junebride・・・。二人はあまりに長い年月を遠回りしてきたから、真澄としては1日でも早く、マヤを名実共に自分のものにしてしまいたかった。結婚してからでも恋人同士でいればいいんだからと。マヤもマヤで、プライベートではできる限り真澄のそばにいたいと思っていた。けれど、彼等の想いとは裏腹に、相変わらずの多忙さのせいで、逢瀬も儘ならぬ二人だった。仕事が終わったマ
◇予期せぬ嵐「・・・何かの間違いではないのか?」こんな重大事に間違えた報告などする筈もないことをわかっていながら、俺は聞き返さずにはいられなかった。「間違いでは無いようです。事態をいち早く知った聖さんが急遽、事実確認をされたということなので。」「マヤ本人にもか?」「はい、直接お会いになって、聞いたと。」「・・・誰の子だ?」「・・・ロンドンに着いてすぐに知り合った、英国在住の日本人男性だとか。ただし、相手の情報についてはこれ以上、マヤさんが伏せていて調べようがないとのことです。」
君の前では、かっこいい速水真澄でいたかったけど、君の前では、かっこ悪い俺しか出てこない・・・君が、愛しすぎて・・・熱愛発覚スクープの記事なんて、どれだけ見てきたことか。握り潰したものもあれば、己の思惑で、書かせたこともある。真澄にとっては、ビジネス上のイメージ戦略のひとつでしかない。これだって、今度始まるドラマの話題作りにはもってこいのgossipだ。主演の二人の真夜中のデート。寄り添う二人の横顔・・・。「どうされますか?内容的にも大したことないですし、タイミング的には悪くあり
「今年はマヤさんを入れて三名が、我が大都芸能で成人式を迎えます。」年明け早々に秘書の水城が報告をしてきた。「そうか。龍崎凛に華川結衣、そしてマヤか。」「凛君も結衣さんも故郷に戻って地元の成人式に出席するそうですわ。双方ともその実家は地元では名家ですしね。」「では、大都からは祝いの花と心付けを贈っておいてくれ。」真澄は事務的に水城に指示を出した。「マヤさんはどうなさいます?」「どうって、マヤも出るんだろう?成人式には。」努めて何でもないことのように振る舞う真澄が、水城には
「ガラスの仮面」のセリフで語られない裏側【なぜ”真夏の夜の夢”だったのか?】「二年以内に芸術大賞か最優秀演技賞を受賞しない限り「紅天女」の上演権は姫川亜弓に譲るものとする」という月影先生の爆弾発言のあった年の夏に、マヤはシェイクスピアの「真夏の夜の夢」で小妖精パック役を演じ、一層高い演技術を身に着け、役者として大きくレベルアップしています。「真夏の夜の夢」はガラカメの劇中劇の中で大好きな作品なので、何度も何度も読み返しました記憶があります♡余談ですが、ロンドンロイヤルバレエの日本公演
〜精密検査の結果、北島さんの病気は悪性リンパ腫と診断されます。今後、抗がん剤治療をしていきますが、北島さんの場合、初期段階の発見であり、自己骨髄の採取が可能です。抗がん剤でガン細胞を完全に死滅させたあと、自家移植といって、元気な自分の骨髄を体内に戻してやる治療法です〜紅天女の試演が終わり、後継者の座を手にしたマヤ。ある日、首の付け根に違和感を感じ、病院へいったところ、事態は思わぬ方向へと進んだ。痛みも何もなかったため、そんな生命に関わるような重病を宣告されるとは思いもよらなかった。幸
「真澄様、私はこれが気に入っているのですが、真澄様はどれがお好みかしら?」マホガニーのデスクに広げられた数枚のデザイン画。それは海外ブランドの有名デザイナーによるオートクチュールのウェディングドレスだ。いつになく興奮気味の婚約者に穏やかに微笑んで答える。「僕は紫織さんがお気に召したものが、一番貴女に似合うと思います。」何よりも彼女の気持ちを尊重しているかのようで、まるで思いのない言葉を返す自分に真澄は内心自嘲する。まるでこれは大切な取引先の接待と同じだ。愛想笑いに心にもない上部だけ
つづきです↓------------実は紫織は、聡明でもなく、優しくもなく、美しくもない女性である理由を長々と書いてきましたが、紫織ファン?のために、彼女に同情すべき点がないかどうか見てみましょう。紫織と真澄は結婚式はまだの段階でしたが、あれだけ派手な婚約パーティーを済ませているのですから、社会的に既に”結婚した者同士”と見做されて当然ですし、(真澄はともかく)紫織は殆ど妻になったつもりで新婚気分だったかもしれません。その”夫”から、突然結婚をやめようと態度を翻されてしまったのです。い
「マヤに好きな男がいる?誰だ・・・一体どこの誰だ?」水城は真澄の眼が鋭くなったのを見逃さなかった。それが何を意味するのか・・・大都芸能社長としての怒りか、それとも一人の男速水真澄としての怒りか。水城にとっては確かめるまでのことではない。所詮、本人に問い質したところで、真実の答えは返ってこない。何故なら真澄本人がまだ気づいていない・・・いや、もう流石に気づかずにはいられないだろうが、それを必死に自身に誤魔化しているのだ。仕事においては、冷酷無比なほどに沈着冷静で理論的に行動できる優秀
最近の日本はイベントが多い。ハロウィンが終わって一息ついたと思ったら、もうすぐに世の中はクリスマスモードに突入する。そして仕事においては、取引先との接待シーズンに入る。大都株式会社代表取締役となり、大都グループの事実上の総帥となった速水真澄にとっては公私ともに多忙を極める季節がやってきた。だが、今の真澄は昔のように仕事一辺倒のワーカーホリックではない。北島マヤという最愛の伴侶を得て、3人もの子に恵まれた家族の柱として、充実した毎日を過ごしている。ハロウィンの時は家族揃ってディズニーラ
Prologueこの世で最も見られたくない存在に、この姿を見られた瞬間・・・。その時の胸の痛みと重さを知り、愚かにも俺は初めて気づく。この結婚で、俺は生涯、この感情と付き合っていかなければならないことを。マヤの隣には永遠に立てない・・・どんなに彼女を愛していても。真澄と紫織の婚約披露パーティーにマヤがお祝いの花束を持って現れた。淡いピンクの薔薇のブーケだ。「速水社長、紫織さん、御婚約おめでとうございます。」「ありがとう、マヤさん、素敵なブーケね。」事務所社長と所属女優としてなら
「マヤ、今度の水曜日、午後から時間が取れるんだ。もし君の体調が悪くなければ、出かけたいところがあるんだが・・・。」ある日の夜の寝室で、真澄が改まってマヤに言った。「なーに?デートのお誘い?」マヤがニヤニヤ笑いながら問う。「目的を果たしたらそのあとはデートしてもいいぞ。マヤが観たいって言ってた歌舞伎座のチケットも押さえてあるしな。」マヤは歌舞伎観劇と聞き、目を輝かせる。相変わらずの芝居好きだ。これは何年経っても、速水真澄の妻になっても、母親になっても変わりそうもない。「行きたい
あのギラついた太陽の光が眩しい青空を埋め尽くさんとばかりに現れた白い入道雲。肌にまとわりつく熱風がいつしかひんやりとしたものに変わってゆく。宵には何処からか聞こえてくる虫の音に、夏の終わりと秋の訪れを感じれば、意味もなく心の何処かに寂寥間を覚えるようになった。昔は季節の移ろいになど気を留めた事などなかった。真澄は己の心の変化に面はゆさを感じる。だがそれは決して嫌なものではなかった。自分はマヤに出逢って変わったのだ。マヤに恋をして、人の心を取り戻した。そして今、真澄はマヤとの間に授
『大都グループ速水真澄引責辞任!鷹宮財閥の事業提携中止と令嬢縁談破棄!』いつだってマスメディアの見出しは、聴衆の興味を掻き立てるように、無責任かつセンセーショナルに書かれる。そんな事は百も承知・・・それでもマヤは週刊誌の表紙を忸怩たる思いで握りしめて、破り捨てた。世間は何もわかっていない。速水真澄という男の本当の姿を。わかって欲しいとは思わないが、興味本位で真澄について有る事無い事を実しやかに書くのは許せない。だが、それを言ったところで仕方がない事も、マヤはよくわかっていた。マヤ
晩夏といいながら、まだその陽射しは肌を焼くように熱い。ぎらつく太陽を覆うのは真っ黒な雷雲。昔は「夕立ち」という風情ある古風な名で呼ばれていたそれは、今ではゲリラ豪雨と言われて、情緒の欠片もありはしない。今日は午後二時くらいからそのゲリラ豪雨に見舞われ、執務室のガラスに滝のように雨水が打ちつけられ、流れていた。その間も真澄は、外の嵐などには目もくれず、黙々と仕事をこなしていた。今の真澄にとって、仕事意外に心血を注げるものは何もない。義父の言うがままに鷹宮紫織との政略結婚とも言うべき婚姻
Prologueマホガニーの大きな執務机に置いてある卓上カレンダーを一枚捲る。今日から11月だ。そして、似合わない溜息をひとつ。溜息の主は速水真澄、三十四歳。まもなく三十五歳になる彼を秘書の水城が困ったような顔で見遣る。〜・・・そんな溜息などついて・・・まるで乙女ね。マヤさんがそばにいないことがそんなにお寂しいなら、さっさと告白してしまえばよかったものを。いつまでもグルグルした挙句に鷹宮との政略結婚騒動まで引き起こして、婚約解消のとばっちりがマヤさんにまで飛びかねないと、彼女を海
マヤへの想いが抑えきれない・・・。どれだけ仕事をしても、どんな難しい案件に向き合っていても、心の何処かでマヤの事を考えている自分を無視できないでいる。未練を断ち切るための政略結婚も結局はマヤへの想いの強さを再認識させられただけだった。それは何の意味もなく、ただ徒らに自分や周囲を苦しめただけの愚かな選択でしかなかった。ただひとつの救いがあるとするならば、本当に引き返せない過ちを冒す寸前で、紫織と別れられたことだけだろう。24時間365日、時と場所を選ばず、真澄の心はマヤに囚われていた。
ノーブルな空間で極上のワインと料理。そして目の前には婚約者(フィアンセ)が微笑んでいる。誰もが羨む光景の中に当然のように男もまた静かに微笑む。「真澄様・・・紫織は幸せ者ですわ。愛する殿方とあとひと月後には結ばれることができるんですもの。」「それは僕も同じですよ。」さらさらと流れるように紡がれる言葉に、躊躇いはない。自分はこの目の前の女性と結婚するのだ。その事に何の疑問も不安もありはしない。だが、どうしてか、心のどこかに感じる歪み。これは一体何なのだろう?その正体が分からない