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僕の部屋には何もなかった。部屋として、生活の場として機能するためのものはもちろん揃っている。だけど、そのどれもが僕を慰めるのには役立たない。鼻をかんでは投げるティッシュがゴミ箱の周りに散乱して、帰ってきて脱ぎ捨てた春物のジャケットが床でくったりと寝そべるように落ちている。テーブルに置いたスマホは一度も震えないし、カーテンを開けたままの窓からも光は差し込まない。暗いのに点ける気も起きない間接照明も、もしお腹が空いても何も入っていない冷蔵庫も、深く体を預けて体温が伝わっ
こんなにまっすぐ誰かに見つめられるのは初めてかもしれない。恥ずかしいというよりなんだか申し訳ないような。もう少しちゃんとお肌の手入れをしてくれば良かった。彼の視線を避けるように窓の外に目をやると、風で微かに揺れるチューリップが見える。しっかりとした太めの茎は大きなピンク色の花を支えて、周りには黄色の鮮やかな水仙の群れ。なぜあのチューリップは一本だけあそこで咲いているのだろう。水仙の花が少し頭を垂れている分だけ、ピンクの頭をピンと持ち上げるチューリップが凛として見える。
光が筋のように差し込む小さな林を抜けて、少し開けた景色は鮮やかな色で溢れていた。「おー!まだ普通に咲いてますね!」「本当だ。良かった。キレイですねえ。」「すごいな。何本くらいあるんだろう。」「さっき見たのは16万とかって・・・。」「まじですか!?すげえ!」「ふふふ。」あまりの景色に興奮してしまった。大野さんの笑顔は嬉しそうなもので、興奮しすぎた僕を嘲笑ったものではないけど、なんとなく恥ずかしい。「真ん中歩きたいですね。寝っ
「またもやご迷惑を・・・。」なんとか呼吸を整えつつ僕は大野さんに頭を下げる。「迷惑なんかじゃないですから。もっとゆっくり息して?」「・・・はい。」大野さんに支えられてしゃがんだ僕は、肺に呼吸を取り込むために背筋を伸ばそうとする。でもやっぱりまだ上手く行かない。吐き気は去ったけど、まだ少し目眩が残っている。汗をたくさんかいたからジャケットを脱ぐと体を冷やしてしまうだろうか。でも暑いんだよな。「これ脱げます?」大野さんが僕のジャケットに手をかける。「腕だけ抜
「次は何か決まってるんですか?」大野さんは休日を使う相手が他にいるのかと聞いたことを忘れたかのように、しばらく僕の仕事についての質問をした。誤魔化している雰囲気は不思議となく、どうしても興味があるから知りたいのだという姿勢だから、僕もそのまま流されてしまった。「はい。宇都宮の大谷資料館って知ってます?採石場の跡地にあって、カフェとかも併設されてるところで。」「いえ。採石って石を採る?」「そうです。大谷石っていうのがあって。昔火山が噴火した時の灰が海水中で固
10、いや15分くらいは経ったのだろうか。呼吸も落ち着いてようやく目を開くと、プランターだろうか、色とりどりの花が視界に飛び込んでくる。「う・・・」「眩しすぎないですか?」「色が・・・多い」そう言うと、大野さんが僕の目の前に手のひらをかざしてくれる。「刺激が強すぎましたね。」「はは。なにからなにまで。」「座ってるだけですよ?」「長い時間背中も頭も、全部助かりました。」背中を伸ばしてみる。バキバキといろいろな関節が元
「ごめん、ミーティングが長引いて。」『大丈夫だよ。俺らは仕事して待ってるから。』「ん。でも悪いけどリスケさせて?俺ちょっと疲れちゃってて。」『体調悪いの?』「悪くなりそうな予感がしてる。」カズはなんとなくだけど僕の事情を知っている。長く休んで自分と向き合った後、僕は自分の体調と心の状態に敏感になった。こうした急な予定変更もカズには何度か許してもらっている。『んじゃ、帰って休みな。こっちは俺に任せてさ。』「悪い。よろしく伝えて。」
写真集の出版が発売日を待つのみとなったある日、カズから連絡が入る。頭の片隅にいつも引っ掛かりがあるままで、あれから10日は経っただろうか。指折り数えていたわけではないけど、正直「やっと来たの?」と思ったりして。「なんか久しぶり。」『ごーめん、翔ちゃん。大野さんに連絡しろって言ってんのにしないからさ。』「え?」『なんか、恥ずかしいんだって。』「ははは。」そんなシャイな人には見えないのに。本当は僕と話したくないだけなのでは。『で、突然なんだ
『翔さん、おはようございます。』「おはよう、松本。どした?こんなに早く。」『すいません、起こしちゃって。実はちょっと急いで意見を聞きたい写真があって。今日のミーティングで見せる3枚にどうしても入れたいんですけど。』「ん、起きてたからいいよ。それって、この間決めたやつ以外にってこと?」『はい。昨日見直してたらいいの見つけちゃって。俺すごい好きで。』「勝手に入れたって構わなかったのに。俺は松本を信頼してるよ?」『分かってます。でもちょっと趣向が違うっていう
「臨海公園か。行ったことないな。ここで散歩?11時ってことは昼一緒に食うよな・・・。」待ち合わせ場所を検索しながら、なんだかデートスポットのようにも見えるなあ、なんて思ったりして。だけど、期待に胸が膨らみかける度に自分を制することも忘れていない。ただ会うだけ。それだけ。「お待たせしちゃってすいません!」「ふふ。大丈夫です。ここ気持ちいいから。」待ってないとは言わずに、でも本当に平気そうに大野さんが応える。「すぐに分かりました?
「もちろんですよ。まあライバル会社のものは堂々とはできないですけど。うちを通してできるところのものは、こちらも大歓迎なんで。」僕は松本に言われた通り、担当編集の相葉さんに軽いマネージメントの依頼をした。「助かります。」「もともとこっちにもいくつも来てんです。少し落ち着いたら翔さんと相談しながら片付けようと思ってて。」「そうなんだ。」「なんで、メール、転送してくれて構わないんで。」「いやー、それ本当に助かります。俺分からないことも多いから。」相葉さんはニコニコして頷いてい
大野さんから連絡が入った。週末体調が良ければ、少し気晴らしの散歩に付き合っていただけませんかと書いてあった。僕は返事を迷っていた。気持ちを断ち切ってしまいたいのと、相葉さんに会えばいいのにと少しいじけた気持ちからだった。でも会いたい。それが一番正直な気持ちだと、僕は分かっている。そんな時、松本からも連絡が入る。この間の話をしたいから日程を相談させてくれと言う。僕は賭けをすることにした。松本が僕の誘導なしに週末を提案してきたら、大野さんを断る。平
こんあいば!!今こそ、嵐のハーモニーを愛でまくりたい嵐のヴォーカルグループとしての"21年の軌跡、変遷"をまとめた記事に引き続き、1曲ずつフォーカスを当てた記事もシェアしたいなと2年前"嵐結成日お祝い企画"と銘打って、嵐のハーモニーを愛でまくった記事を再UPします(元記事:2018-09-1500:00:29)大好物の、嵐のハーモニー5人全員で3パート以上のハーモニーを奏でていることもそのハーモニ
「全く、無茶しないでくださいよ。」「ん、悪い。」「もうマネージャーつけたほうがいいんじゃないですか?どうせ一人で全部片付けようとしてるんでしょ?」「できると思ったんだけどな。」「充分稼げてるでしょ?相葉さんとかにちょっと頼むだけでもいいじゃないですか。」松本がこんな風に不服そうな声を出すのは、僕を心底心配してくれているからだ。添えられた手は温かいし、僕を見る瞳は優しい。「歩けますか?おんぶ?」「はは。歩けるよ。だいぶ落ち着いたから。」
「翔さん?翔さん?」「あ、うん。ごめんなさい。ん、悪いけどコーヒーのお代わりもらってもいい?」軽く頭痛がする。相葉さんの知らなかった一面を知ることが、結果大野さんの一面も知ることになるとは。しかも、やっぱり知りたくはなかった。「大丈夫ですか?疲れが出てるんでしょう。ちょっと待っててください。」相葉さんはさっと立ち上がって自らコーヒーのお代わりを入れに行ってくれる。なかなかのベテランで後輩もたくさんいるけど、こういうのを人に頼んでいるのを見たことが
『翔ちゃん、昨日どうだった?』「どうだったって・・・。緊張したよ。」『あの人相手に?くくく。一番緊張しないでしょ。』「したよ。俺ら初対面だからね?」『ふうん。ま、いいや。そんで次回なんだけど。』「次回?え、次回?」カズが電話越しにクスクス笑っているのが聞こえる。僕に聞こえないように少し口を離しているようだけどなんの役にも立っていない。『今なんで2回聞いたの?』「いや、だって。昨日全然会話弾まなかったし、連絡先の交換もしなかったし?」
約束の時間が近づいて、僕はなんとなくソワソワしていた。約束のカフェレストランはもう目と鼻の先だ。あの日助けてもらってから、僕からは連絡していない。お礼をもう一度と思ったけど、なんだか押し付けがましくなりそうでやめた。そうしたら理由がなくなってしまったのだ。久しぶりの3度目をどう始めていいかが分からない。待ち合わせ場所を右に控えて、歩道の右端に移動しようとしたとき、突然後ろから左腕を強く引かれる。僕の体はバランスを崩して大きく左に傾く。「おわ
写真集が発売になって、思いもよらない反響があった。仕事用に使っているメールアドレスを最後のページに載せていた。そこに仕事のオファーがどんどん舞い込んでくる。僕はすべてを独りでやっているから、あまり色々なものに手を出すことはしてこなかった。数本の長く続けられるものをそれぞれ丁寧にが信条になりつつあった。だけど、提案される企画はどれもとても興味深いものばかりで。あれもこれも、と検討しては返信する。ひとまずはお断りの分を電話で連絡する。そのほうが僕の気持ちまで伝わり
こんちばー!!リリース直後、ド深夜にUPした記事を、初聴きのテンションはそのままに、加筆して再UPいたします!歌割りも追加しました!今回つけ足した部分は、色を変えてありまーす!◆今朝「WheneverYouCall」を聴いた幼稚園年長の息子が、「ボク、このうた、なんていってるかわかるよ!"だいすき"ってうたってるんでしょ?」って、言ったんです。英語がわからなかったとしても伝わってくるほどの...大きな愛に溢れた歌。そして、歌詞がわ