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漫画の後半を読むと、確かにアルバートはキャンディに恋心のようなものが芽生えているようです。しかし残念なことに、旧小説やファイナルではそのくだりはバッサリと欠落し、揺れ動く微妙な男心と、プロポーズかと思わせるセリフは全てカットされています。本筋と関係ないから切り捨てることができる、という解釈もできますが、少なくとも旧小説まではページの都合上だと個人的には思います。そこでまずは漫画に登場する、アルバートの感情を軸に時系列にしてみました。漫画のアルバート💖=アルバートの気持ち・セ
★★★8-16「キャンディ・・お待たせ・・」打ち合わせ通りの席で映画を観ていたキャンディに声を掛ける。「・・上手くいったみたいね。よかった・・」小声で話すキャンディの横の席にテリィは腰を下ろした。午前の早い時間の映画館。上映作品は西部劇のようだ。客など殆ど入っていない。「私、西部劇って初めて。お芝居とはまた違って、すごく新鮮・・」テリィも映画を観ようとするものの、もはや話の筋に付いていけない。キャンディの肩に頭を乗せ、うとうとしかけた時、画面がラブシーンに切り替わった。反射的に
★★★4-10川沿いまで歩くと、遠く対岸に劇場の展望塔が見えた。悠久の時を告げる様に延々と流れるエイボン川。その歩みさえ一本の弦のように取り込んでしまう、彼方まで続く黄昏色の景色。再会してから十日。この間の出来事が遠い過去のようにも感じる。「―・・なんだか、にせポニーの丘にいるみたいだわ・・―」川辺に座ったキャンディの隣で、腕を枕に寝そべったテリィはおもむろに話し始めた。「・・・五年前かな。最初のロンドン公演の時、一人の観客が走り寄ってきたんだ。国王陛下の子息で、同じ幼年学校
6章⑭「すっぽかした授賞式」のスピンオフです。本編を未読でも読める話になっていますが、6章まで読了されていない方には壮大なネタバレになりますのでご注意ください。★★★「残念だわ、クリスマスのミサが終ったらパーティをするのに。カートライトさんもジミィも来るのよ?」キャンディは不服そうに口を尖らせながら、アードレー家のエンブレムが誇らしげについた黒塗りの車のハッチバックをあけた。「うわっ!ありがとう、アルバー・・大おじさま!!」大量のプレゼントの箱が顔を出すとキャンディの表情は一変し
★★★6-3「・・・ここは仕事部屋だとジョルジュから聞いたのですが?」数歩足を踏み入れたところでテリィはぼう然と立ち尽くす。「はは、趣味の部屋と言った方が良かったかな」アルバートがそう説明するその部屋には、あまりに多くの物が溢れていた。木彫りの大きな象や鷲のブロンズ像、クリスタルの蛇に松ぼっくりで作った―・・何かの動物。壁に貼ってある大きな世界地図、デスクの上にも地球儀がある。本棚には動物の写真集や図鑑、冒険家の紀行文、偉人の伝記、アメリカの文学書、経済の本、法律の本が目につく。
※「アルフレッドの独白」の一ヶ月後のお話です。本編8章㉑「誕生日プレゼント」に関連したお話ですが、そちらを未読でもお読みいただけます。テリィVSアルバート11年目のSONNETスピンオフ★★★ロンドン。デュークス劇団系列のロイヤル劇場。テリィの所属するRSCは、ここを間借りして活動を再開することになった。楽屋は二人で一つ。贅沢は言えない。「良かったな、テリィ。俺と一緒で嬉しいだろ?俺も嬉しい!」ジャスティンは、衣装戸棚に衣装を掛けながら、
★★★8-4「愛の言葉をねだられることも、俺を試すような会話も幾度となく繰り返されたが、俺は応えた。言葉やキスでスザナの気持ちが落ち着くなら、こんなたやすいことはな・・・――キャンディ・・?」・・・ダーリン、まだお休みにならないの・・?マイアミのホテルで聞いたスザナの声がふと蘇り、キャンディは殆ど無意識に、ギュッと目を閉じ、固く結んだ手を胸にあてていた。覚悟していたとはいえ、テリィの口から他の女性との生活が・・――スザナとの生活が語られると、まるで一枚ずつ写真を見せられているよう
★★★4-12「じゃ、公演頑張ってね。微熱のせいで普段よりアルコールが回りやすかったのね。お酒は抜けたと思うけど、喉に痛みを感じるようならこれを飲んで。たばこは絶対ダメよ!もし熱が上がってくるようなら緑の瓶の方を飲んで。本当は飲んでほしくないけど、明日は休演日だから大目に見るわ」ジェイの店の前で、母親のようにお小言を言いながらキャンディは車を下りた。「待て、キャンディ。君の方こそ熱は大丈夫なのか?・・その―・・昨夜俺と、接触・・したのなら―」言い籠るテリィに「私なら大丈夫よ、早めに対処し
★★★本編最終話ステアの『幸せになり器』ほどのその箱は、テリィの大きな手にすっぽり収まっていた。白いリボンが結ばれたターコイズ・ブルーの小箱。見たのは初めてだったが、何が入っているのかは鈍感なキャンディでもさすがに分かった。「指輪・・?」震えているようなキャンディの声に、テリィは静かに頷いた。「誕生日プレゼントも兼ねて去年渡すつもりだったんだ。でも――・・再会した日にリングのサイズが違うと分かったから、ここを発つ前日に店に預けたんだ。イギリスで直しても良かったけど、どうしても買っ
★★★5-10ここにも敗北を悟った人物がいた。ロミオ役を争ったジャスティンだ。ロミオ役を射止めたのはテリュース・グレアムだった。オーディション会場に現れたテリィは、ロミオに模して髪を切り、学生のような容姿になっていた。斜に構えたような本来の雰囲気が完全になりを潜め、入れ替わるように前面に現れた生来の色香で、恋に一途な青年を見事に演じきる。ついこの間まで危ういほどの狂気を漂わせた人物を演じていたというのに、その演技のふり幅は圧巻としか言いようがなく、審査委員の満場一致で即日決定した。「何
ソネット連載中に用意していた考察系(?)原稿が発掘されました。お時間のある時にどうぞ※過去の日付で投稿していますが、実際の投稿日は6月14日です男性キャラを勝手に語るアンソニーアンソニーはあまりに早く死んでしまいます。文庫本では1巻です。アニメでは話を延ばすためかアンソニーは活発に動き、ロデオやら牛乳配達やら色々やらされていますが、漫画ではそう多くのエピソードはありません。連載が長期化すると分かっていれば、アンソニーはもっと色々やれたのに―・・アンソニーの魅力
★★★5-15私生活の動揺が演技に現れるほど、今のテリィは青くない。「よし、今日の公演から変更だ、もう一度バルコニーのシーン!」とはいえ、張り切る監督をよそに、リハーサルの合間に見せるテリィの表情は今日も冴えない。「次の公演『夏の夜の夢』に決まっただそうだ!来月早々にオーディションだってさ」ナイルが浮足立っている。「ラブストーリーか。よし、次こそ主役の座を奪還してやる、お前には負けないぜ、テリィ!」ジャスティンが意気揚々とライバル宣言をする横で、テリィは大きく息を吐き「・・君たち
★★★5-8「ねえ、あれ何?たのしそうっ!」ロンドン市街を走り抜ける車の窓から、キャンディは人が集まっている広場を指さした。「マーケットだよ。週末はあっちこっちで開かれてる。ロンドンの蚤の市は有名なんだぜ?」「テリィ、行ったことあるの?」「この先に劇場が立ち並ぶウエストエンドがあるんだ。あの広場を回避してたどり着くのは難しいな。ま、ぶらぶらするだけでも結構楽しいぜ。掘り出し物だけじゃなく、チーズやパンの出店もあるし、路上パフォーマンスなんかもやってる」「わあ・・!帰りに寄
★★★5-14「今度は最終日に観たりしないわ。何度でも観られる様に・・!」キャンディはそう言って、公演の前盤に『ロミオとジュリエット』の観劇に訪れた。しかし観劇を終えたキャンディの表情は暗く、帰りの車中小さな声でつぶやいた。「お芝居はすごく良かったけど、もう見ない・・」家に着くとテリィはキャンディの誤解を解くべく、説得にあたった。「嫉妬するなよ、あれは演技だって」すねているように見えるキャンディを半ばからかうような、真剣みのない口調。「別にキスシーンなんか気にしてないわっ」キ
★★★5-1キャンディはどんな風にテリィと顔を合わせたらいいものか考えていた。お芝居を見て苦しかった、などという主観にすぎない感想を、わざわざ伝える必要はないのかもしれない。客観的な意見を伝えるのが本来妻の役目なはずだ。看護婦の仕事のタイミングが悪かったのも追い打ちをかけた。二人の看護婦のフォローを急きょした為とはいえ、すれ違いが続いてしまった。結果的にテリィを避け続けるような状況になってしまい、今更ながら罪悪感がつのる。ケヤキに掛かったハンモックの所までやって来た時、ふとオリーブ
★★★4-9稽古が早く終わり、夕刻帰宅したテリィは、馬小屋にセオドラがいない事に気が付いた。まだキャンディも帰宅していないようだ。「―おや、セオドラを連れてご出勤でしたか」やれやれ、と思いながらセオドラを迎えに川沿いの小道をゆっくりと歩き始めた。キャンディが届けてくれた脚本。確かにあの脚本でずっと稽古はしていたが、新しい脚本を渡され、劇もほぼ完成した今となっては、絶対必要という代物ではなくなっていた。「これからはキャンディに無茶をさせないように、きちんと話さないといけないな―・・俺も
★★★2―15寄り添うように直ぐ横を歩くテリィをキャンディはちらっと見上げた。(テリィはこんなに背が高かったかしら・・・)すっぽりと包まれてしまいそうな大きな体。自分がとても小さく感じる。これが十年の歳月なのだろうか―片手で軽々とトランクを持ち、もう片方の手はキャンディの体にしっかりと添えられている。その腕から、テリィの想いが伝わってくる。・・もう離さない―キャンディは雲の上を歩いているような感覚になった。現実なのか夢なのか。自分はいったい、いつ建物から出たのだろう。いつの間
★★★7-13「フンギャー・・フグッ・・オンギャー」どこかで泣き声がする。車内を見渡すと、いつの間にか混雑し始めていた。都市が近いからなのか、夕刻の一時的な混雑なのかは分からない。通路にも人が立ち始め、押し出されるように赤ん坊を抱いた若い夫婦がキャンディの直ぐ横に立った。「あの、この席をどうぞ」即座に立ちあがったキャンディは、テリィに肘で合図を送り通路へ出た。「え・・いいんですか?」「赤ちゃん、お腹が空いているのかしら?・・立ったままじゃ無理でしょ?どうぞ」奥に座った若い母親
★★★6-7時計の針が二十二時を半分まわった頃だった。ラフなガウン姿で部屋から出てきたテリィを待ち伏せするように、アーチーは四階の廊下に立っていた。「テリュース、部屋を出るなよ。見たところ就寝準備も終わっているじゃないか。明日に備えてさっさと休んだらどうだ」対峙した二人の顔は大人の紳士とは程遠く、まるで学院時代に戻ったかのようなトゲトゲしさだ。「君こそ、何故未だにタキシード姿なんだ?監視当番なのかい?ここはセントポール学院の寮じゃなかったよな。就寝時間の規則などなかったはずだが」足を
『11年目のSONNET』本編終了後のお話ですが、未読でも大丈夫です。時系列としては、スピンオフ『テリィVSアルバート』の数カ月後です。こちらを復習してからの方が理解が深まりますが、未読でも支障ありません。※途中YouTube動画がありますので、再生しながらお読みください。11年目のSONNETスピンオフおめでとう!2★★★100年前の空気が厳かに流れているようなグランチェスター公爵邸。本日午前、それをかき乱すような熱波がアメリカから渡来した。
★★★5-9生徒の追撃をかわすなど、学院の森を知り尽くした問題児二人には造作もないことだ。逃走の途中懐かしい音楽館を臨みながら、それぞれが待ち合わせ場所であるにせポニーの丘へ向かう。「キャンディいるか?」後から丘に登ってきたテリィが声を掛けると、木の後ろに隠れていたキャンディが姿を現した。「ここよ。どうしたの?遅かったわね」「ついでに厩を見てきたんだ。どうなったかと思って」「厩?・・懐かしいわね。それで、まだあった?」「ああ。立つ鳥跡を濁さず、には程遠いな。まるで夜逃げしたみた
SONNETのあとがき物語は全て終わりました。如何でしたでしょうか。スッキリしていただけたでしょうか一番思い入れのある8章。5月の誕生石エメラルドの緑とキャンディの瞳の色との符合は、おそらく偶然ではないのでしょう。原作者の名木田先生、神です!!そして宝石言葉が「幸せ」と知った時にはもう鳥肌が立ちました。物語の中でキーワード的に何度も登場する言葉。これも瞳の色と掛けていたのだとしたら・・、ホント神業ですね。「エピローグ」の最後の数行は、FINALSTORYからの抜粋です。原
★★★1-7いつもより一時間ほど早い帰宅だ。まっすぐ帰る気持ちにはなれない。キャンディはポニーの丘に寄り道をして久しぶりに木登りでもしようかと考えた。大人になってからその機会はめっきり減っていた。常に時間に追われる二足のわらじを履いた生活は、些細な気分転換の時間さえ簡単には許してくれない。「わぁ・・、いつの間にかこんなにきんぽうげと白つめ草が・・」もうすぐ一面に白い絨毯を敷いたような、一年で一番美しい季節を迎える。頬をかすめる風はまだ冷たいものの、湿った心が少しだけ軽くなった
★★★8-17「どうされましたか?ウィリアム様」運転席のジョルジュは、笑いをこらえているようなアルバートの声に気付き、後部座席にちらっと目を向けた。「いやぁ~、この設定はすごいよ。キャンディは住み込みの看護婦で、テリィがマーロウ家に入り浸っていたのはそのせいだって。ゴシップのプロの発想はすごいな。そんな筋書き、僕には思いつかない」ニューヨークで調達した新聞を見て、アルバートはしきりに感心していた。「グランチェスター様はインタビューに応じたようですね。その記事、どうなさるおつもりです?」
★★★5-5『返してくれないか』『いやよ、こんな物があるから、いつまでもあなたは――!!』『やめろっ、スザナ―!』「やめろっ!ㇲ・・!」思わず出た自分の声に驚き、ハッと飛び起きる。「どうしたの・・?」声に気付いたキャンディも目を覚まし、体を起こした。「―・・っ・・キャンディ・・」テリィは張り詰めたような声を出し、キャンディをきつく抱きしめた。「お化けの夢でも見た・・?」荒い息遣い、心拍数も速い―・・。「――ごめん、大丈夫・・。もう、朝か・・」おもむろに腕を離したテ
💛前回までのあらすじ公爵家から結婚を許されたキャンディだったが、公爵と話をしている内に、テリィとスザナの婚約は偽装ではないことが分かった。両親から反対され結婚を断念したと知り、キャンディの心はざわついた。追い打ちをかけるように、劇団員のジャスティンからテリィとスザナは結婚式を挙げたと聞かされた。何も語ろうとしないテリィの態度や言動から、二人は深い仲だったのだと認識したキャンディは、嫉妬にかられながらも胸の奥にしまい込んだ。後に挙式はしていないと分かったが、直前にキャンセルしたという情報を、ジ
小説FINALSTORYに出てくる「エレノア・ベーカーへの手紙」を基にした一話完結の物語です。ファイナル、SONNET本編が未読でもご覧いただけます。※ネタバレには絡みません11年目のSONNETスピンオフハムレットの招待状★★★ごめんなさい、ミス・ベーカー。ミス・ベーカーのお気持ちは痛いほどありがたいのに。この招待券を見つめているだけで、わたしにはテリィの舞台が観え、歓声と鳴りやまぬ拍手が聞こえてくるような気がします。この招待券はわたしの宝物として大
★★★2―22マンハッタン区。路地裏の隠れ家的なレストラン。テリィの馴染みの店のようだ。窓際のテーブルに向かい合って座った時、キャンディは気が付いた。「あら、変装してなかったのね。もういいの?」「変装なんかする気は無いって言っただろ。事実を撮られたところで痛くもかゆくもないね」今日一日散々変装していた人のセリフかと、キャンディは半笑い。「それに帽子やサングラスをしたままで食事なんかできるか?マナーに反する」テリィはすました顔で答えた。「マナー?」学院の礼拝堂の机を土足で踏ん
★★★1-2翌日は朝から空が重く、午後になるとぽつぽつと降りだした雨が地面をぬらし始めた。「はあ~・・、降ってきたの」「・・ぬかるんだ地面に足をとられない様に・・気を付けて行って来てください・・」マーチン先生は、覇気がないキャンディの様子が気になっていた。今日のキャンディは包帯を巻く部位を間違えたり、診療代をもらい忘れたりと、集中力に欠けていた。(・・地に足がついていないのは、キャンディじゃろ)マーチン先生は一抹の不安を覚えつつも、往診に行く準備を終えた。「新患が来たら待たせてお
★★★1-10ストラスフォード劇団は春の公演『ハムレット』が始まったばかりだ。数年前から断続的に演じてきた役名は、今やテリュース・グレアムの代名詞となっていた。これほどのロングランを誰が予想しただろう。作品賞、演出賞、主演男優賞―。ある年の演劇界で最も栄誉ある賞の三冠に輝いた『ハムレット』の人気はいまだとどまる所を知らず、観客を動員し続けている。ブロードウェー関係者数百人の投票で決まるこの賞の栄冠を手にする事は、演技が認められたことに他ならないが、それにあぐらをかくつもりは