幽魂。予は父を慕ひてはるばる此《この》地に来りしものなるが、父は此《この》地にて船を雇い、単身肥前国唐津に赴きたり。その時父は予に向い、汝は是非《ぜひ》ともこのまま本国に帰れ、一歩も隨うこと叶わず。若《も》したって帰国せぬとならば、吾子にあらずとまで言わるるまま、子として身に徹し腸《はらわた》に通りて、その旨を承ることになりたり。さればとて亦《また》国元へ帰り難き深き仔細あり。ただ独り跡に取り残されたる身は進退全く爰《ここ》に谷《きわ》まりて、終に切腹して相果て、爾来《じらい》爰《ここ》に数百年