あるとき市に出て魚を買いに行った。魚屋達はこの様子をよく知っていたので、二十銭で五六十銭分の魚を出してやった。それを買って老母に勧めると、必ず隣の婆さんを呼んできて御裾分けしていた。これは、日ごろ老母と仲がいいので、その人にも食べさせたいだろうと思ってのことである。この老母は生まれつき悠長な性格なので、苦労しているさつにお世話になるのを申し訳ないとは思わないのは、自分が生んだ子が不憫な育て方をしてしまったからだ。さつもこの気持ちを汲んで実の母よりも孝を尽くした。形は主従ではあるが、心は親子である